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ウルトラの攻撃で試合が中止に。ゾズリャが受けたいわれなき批判

2019.12.22

 12月15日のラ・リーガ2部第20節ラジョ・バジェカーノvsアルバセテが、前半終了時(0-0)で試合中止を余儀なくされた。

 この試合の結果がスコアレスドローとなるのか、中立地あるいは無観客の状態で再開されるのか、制裁によってアルバセテの勝利となるのかはスペインサッカー連盟の判断を待たねばならないが、それよりも問題になっているのは中止の理由だ。アルバセテ所属のロマン・ゾズリャに対し、ラジョのウルトラ「ブカネーロス」が「糞ネオナチ!」などと罵倒するコールを浴びせたのだ。ゾズリャには2017年、ラジョに加入したもののブカネーロスが猛抗議し、わずか1日で契約解除を余儀なくされた過去がある。

戦争? 内乱? 独立戦争?

 この問題の背景には、いろいろ複雑な事情がある。

 まず第1に、ゾズリャがウクライナ人で、『クリミア危機・ウクライナ東部紛争』を“ロシアの侵略”と捉え、領土奪還を望む立場のウクライナ政府および政府軍を支持していることがある(写真とキャプション参照)。

ゾズリャはクリミア危機・ウクライナ東部紛争でウクライナの領土をロシアから取り返す立場を採るウクライナ人民軍に積極的に関与し、資金や物資の支援を行っている。この人民軍が“極右勢力、ネオナチ”とされたことが発端だった (写真は同軍のフェイスブックより)

 同紛争は2014年のウクライナ騒乱に始まるクリミア半島とウクライナ東部をめぐる領土戦争で、ウクライナ軍vs親ロシア武装勢力+反ウクライナ勢力+ロシア軍という構図となっている。

 ロシア側は関与を否定して“ウクライナの内戦”としているが、国際社会の見方は、“ロシアの侵略戦争”でほぼ一致しており、日本も対露経済制裁を実施している。

 第2に、ブカネーロスがこの紛争を“民衆によるウクライナ政府からの独立戦争”と捉えていることがある。ラジョの本拠地バジェーカスは土地柄、市井の貧しい人々への共感意識が強い。彼らからすれば“圧政下で蜂起した人民を軍事力で弾圧するウクライナのシンボルがゾズリャ”という解釈になる。

 人民の立場を代表するブカネーロスは左翼を自称している。彼らのようなウルトラの目には、ゾズリャは“極右愛国主義者で軍事主義者、すなわちネオナチ”と映っているわけだ。

本人は政治思想を断固否定

 12月19日、記者会見に臨んだゾズリャ本人はこう語っている。

 「私はただのサッカー選手で政治的な思想はない。人種差別主義者と呼ばれているが、私の親友はベラ(黒人)だ。私の国の大統領(ウォロディミル・ゼレンスキー/ユダヤ系ウクライナ人)も私を支持してくれている。もし私がネオナチだったらこんなことはあり得ない」

 連盟、両クラブ、ラ・リーガ、選手会、審判委員会らスペインサッカー界は、紛争やゾズリャの政治的な立場に立ち入ることなく、ウルトラの罵倒に対してのみ断固たる拒否を表明している。

 スペイン発のニュースで何度もお伝えしてきたように、政治とサッカーは無関係ではいられない。この原稿で見解が分かれる部分は「“”」でくくってみたので、みなさんもこの機会に、ぜひこの紛争について知ってほしい。


Photo: Getty Images

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木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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