注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術
欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。
#10_ボルシアMG
マルコ・ローゼ新監督は今夏の就任当初に「自分特有のスタイルはない」と口にしていたものの、ここまでザルツブルク時代の基本だった[4-3-1-2]を重用。戦術もそのオーストリア王者で用いていたものとほぼ同様で、高い位置から積極的にプレスを仕掛けるなど、ボール非保持時もアクティブに振る舞うサッカーを志向している。この基本姿勢は戦術オプションの[4-2-3-1]採用時も不変だ。
攻撃は遅攻と速攻の使い分け。GKヤン・ゾマーも絡むビルドアップの局面では、マティアス・ギンターとニコ・エルベディの2CBが役割を分担している。前者は2トップもしくはトップ下にクサビの鋭いパスを撃ち込む頻度が高く、後者は自身の近距離にいるアンカーやインサイドMF、左SBにシンプルなショートパスを供給。ギンターが82.3%(リーグ67位)で、エルベディが92.2%(同4位)とパス成功率に大きな開きがあるのは、ビルドアップにおける両者のタスクが異なるからに他ならない。速攻のスイッチを入れる回数が多いのは、エルベディよりギンターの方だ。
両雄に共通するのは足下の安定したテクニックがあり、パスセンスやボールを運ぶ技術に長けること。ギンター、エルベディともに現代のCBに求められる攻撃のスキルを備えている上、どちらもSBや守備的MFとして機能する戦術的なインテリジェンスも併せ持つ。最後尾からボールをしっかり繋ぐことを求めるローゼ新監督が、夏の移籍市場でレギュラークラスのCB獲りに動かなかったのも、やはりギンターとエルベディの存在があればこそ。ちなみに、控え要員のトニー・ヤンチュケも守備の仕事に専念するオールドファッションのストッパーではない。
プレッシングの意識が高いチーム全体の守備に関しては、非常に安定している。3試合で完封を記録した開幕6試合中、セットプレーの流れ以外から失点したのは第3節のRBライプツィヒ戦だけだった。ただ、その一戦でギンターとエルベディの弱点が浮き彫りに。エルベディもギンターもドイツ代表FWティモ・ベルナーの飛び出しについていけず、その快足FWに3ゴールも奪われたのだ。アンカーのザカリアなどMFがスルーパスを狙う選手へのアプローチを強めたり、2CBが互いをカバーする意識を高めたりしない限り(実際、ベルナーに裏を取られたギンターは、失点直後に「なぜ、カバーしてくれないのか」というジェスチャーをエルベディに示していた)、スピード豊かなFWと対峙した際に同じ轍を踏みかねない。
ギンターとエルベディがもうワンランク上のCBになるには、守備時のスピード対応に磨きをかける必要があるだろう。
Photos: Bongarts/Getty Images
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Profile
遠藤 孝輔
1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。