先日のニュースでスペイン代表の好調ぶりとチーム内の雰囲気の良さをお伝えしたばかりだが、その最大の功労者であるロベルト・モレーノ監督が11月19日に解任された。就任中の全成績は7勝2分、29得点3失点。前夜ルーマニアに5-0と大勝し、ユーロ予選首位通過に華を添えた十数時間後に監督の座を去ることになったわけだ。
大勝の後、涙で選手に別れを告げる
予選首位突破後の解任と言えば、ロシアW杯の開幕直前にロペテギ監督が電撃解任されたことが記憶に新しい。あの時はレアル・マドリー監督就任の密約が解任理由だったが、今度は何があったのか?
前夜の試合で祝福されるべき結果を得たにもかかわらず、監督は試合後の会見を拒否。選手たちも無言でミックスゾーンを通り過ぎたことで公然の噂になっていたことが、翌日になって正式に発表された。“退任”。本人は当然、続投を希望していたので、事実上の解任である。報道によると、前夜ロベルト・モレーノはロッカールームで「放り出された」「裏切られた」と涙で訴えながら、選手たちに別れを告げたという。
19日の記者会見に現れたルビアレス連盟会長とモリーナSDの説明によれば、監督交代の理由は単に「ルイス・エンリケ前監督の復帰」。
去る6月、病に苦しむ娘の近くにいたいとの理由でルイス・エンリケは代表監督の座を退き、助監督だったロベルト・モレーノが後を継いでいた。その際、ルビアレスは「いつでも帰って来られるよう連盟の扉は開いている」と言っていたが、その約束を守った、というわけだ。ルイス・エンリケの復帰希望を連盟に伝えたのはロベルト・モレーノ自身だったという。
新旧指揮官の間に何があったか
ただ、連盟にとってもロベルト・モレーノにとっても計算外だったのは、ルイス・エンリケがロベルト・モレーノをスタッフから外したことだ。
これで「EURO2020予選突破→貢献者ロベルト・モレーノは助監督に退き、ルイス・エンリケが復帰→最強コンビで優勝を目指す」という周囲が描いていたシナリオが崩れ、「前監督が新監督に追い出される格好で退任する」という、後味が最悪で、新監督の船出にも傷が付くバトンタッチとなってしまった。
2人の間に何があったのかについては、ルビアレス会長は「スタッフを決めるのは新監督の権限」と語るにとどめ、言及していない。本稿執筆時点でロベルト・モレーノもルイス・エンリケも会見を開く予定はなく(編注:20日になって連盟がルイス・エンリケの就任記者会見を27日に行うことを発表)、仲違いの理由については憶測が飛ぶだけになっている。
ロシアW杯では、急造監督に率いられたチームは酷い内容に終始し、決勝トーナメント1回戦で敗退した。グラウンド外の問題でチームを壊す、という同じ石に、スペイン代表は再びつまずくのだろうか?
Photo: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。