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ゴールキックルール改正の影響はすでに出始めている

2019.11.19

近年、CBの新しい仕事として比重を増しているビルドアップに大きな変化が訪れるかもしれない。2019年7月からゴールキックルールが改正されたのだ。その専門性の高さからイタリアで独自のポジションを獲得しているWEBマガジンが、ルール改正後の未来を展望した記事(2019年8月13日)を特別公開。

 この7月1日から、ゴールキックに関する改正ルールが実施となった。旧ルールでは、GKが蹴ったボールに他のプレーヤーが触れるためには、ボールがペナルティエリアの外に出るのを待たなければならなかったが、新ルールではゴールキックが蹴られた直後からボールに触れられるようになったため、味方選手はエリア内でゴールキックを受けることが可能になった。このルール改正によって、エリア内で味方選手がボールに触れても、以前のようにゴールキックをやり直す必要がないため、プレー再開が迅速になり、同時に後方からのビルドアップもやりやすくなる。事実、以前は敵のプレッシャーから逃れるために、ゴールキックが蹴られるか蹴られないかというタイミングで味方の選手がエリア内に入ってボールを受けようとする場面がよく見られたものだ。

 まず明らかにしておくべきなのは、相手選手はゴールキックが行われるまでエリア内に入れない点は、以前と変わっていないということ。IFAB(国際サッカー評議会)はこれについて、唯一の例外として認められるのは、ゴールキックが素早く行われたため相手選手がエリアの外に出る時間がなかったケースだけだと強調している。

 したがって、エリア内でゴールキックを受けた味方選手は、相手との距離が以前よりも開いているため、より大きな時間とスペースを得てプレーすることが可能だ。新ルールの主な影響が、後方からのビルドアップを容易にする点にあるというのは、まさにそれゆえだ。その一方では、いったんゴールキックが蹴られてしまえば、相手選手もペナルティエリア内まで入ってプレッシャーをかけることが可能になる。

 下の画像の中で起こっているのはまさにそれだ。インテルは後方からのビルドアップを試みたが、ダンブロージオとハンダノビッチのパス交換が緩慢かつ不正確だったため、バレンシアの2人のFWがエリア内まで進出してプレッシャーをかけ、あわやボールを奪おうかというところまで行った。

エリア内からのビルドアップにはリスクが伴う

 したがって、新ルールには後方からのビルドアップを後押しする側面がある一方で、相手側にもハイプレスによるエリア内でのボール奪取を可能にするという側面を持っている。このリスクを受け入れるかどうかに始まって、監督には新ルールを様々に解釈し活用する余地が与えられている。実際、これをチャンスと捉えるかリスクと捉えるかは、彼らの感受性、プレー原則、そして味方と敵チームの特性によって変わってくる。

 4バックのシステムを採用しているチームにとって最も一般的なやり方は、左右のCBをGKと同じ高さ、ゴールエリアのすぐ外に開かせるというものだ。GKからCBへのパスは短くシンプルなものになる。ここからの展開は、異なる要素によって左右される。

 後方からパスを繋いで攻撃を組み立てるのに慣れているか、ビルドアップに関与する選手のクオリティは十分か、敵はどのような戦略のもとにプレッシングを仕掛けてくるか――。

 下の画像のケースでは、マンチェスター・ユナイテッドがGK(デ・ヘア)の左右に2人のCB(リンデロフとロホ)を配したのに対し、ミランは3人のアタッカー(ピオンテク、スソ、カスティジェホ)を使ってハイプレスを仕掛けようとしている。

 ミランが厳しくプレッシャーをかけているにもかかわらず、ユナイテッドはパスを繋いでボールを持ち出そうと試みる。リンデロフから戻しのパスを受けたデ・ヘアは、スソとカスティジェホの間、やや下がり気味に位置するマティッチに縦パスを送って第1プレッシャーラインをかわそうとした。しかしこれをトラップし損ねたマティッチはスソとカスティジェホに囲まれてボールを失い、ミランにカウンターを許してスソのシュートで失点するという結果を招いた。

ハイプレスに正面から挑むのが常に最良の選択とは限らない

 3バックの最終ラインを敷くチームにとっても、CB2人をGKの両脇に下がらせるのが最もシンプルなやり方だ。この場合3人目のCBはエリアの外にポジションを取り、それに伴ってセントラルMFは1列高い位置取りをすることになる。下の画像は、バレンシアとの親善試合におけるインテルの配置。アントニオ・コンテ監督は、ハンダノビッチの両脇にダンブロージオとスクリニアルを下がらせ、デ・フライはエリアの外、ペナルティアーク付近に立たせている。アンカーのブロゾビッチはそれよりもずっと高い位置を取って、ハンダノビッチからの浮き球パスの受け手となった。

 このプレーの展開はより示唆に富んだものだ。というのも、ハンダノビッチからのパスを受けたブロゾビッチは、サイドに大きく開いたポジションを取ったインサイドMFのセンシにボールを展開し、相手のハイプレスを完全にかわして敵陣にボールを運ぶことに成功したからだ。このセンシの位置取りは、コンテが率いるチームにとっては新しいことではない。ウイングバックを高い位置まで前進させて敵SBをピン留めし、外に開いて下がり目の位置を取ったインサイドMFがパスを受けるためのスペースを作り出すというのは、コンテが多用してきたメカニズムの1つだ。このケースでインテルは、コンテが以前から使ってきたこのメカニズムをゴールキックに当てはめることで、CBを使って相手のハイプレスを誘い、その背後でビルドアップの能力に優れた2人のMF(ブロゾビッチとセンシ)をフリーにしてクリーンな形でボールを運び出すことに成功している。

 インテルのこのケースは、相手のプレスをいかに「操作」するかがビルドアップの鍵であり、ゴールキックの新ルールはそのための手段を複数提供してくれることを示すものだ。後方からのビルドアップは、今や多くのチームにとって基本戦術の一部となっている。その意味でゴールキックルールの改正は、後方からパスを繋いで攻撃を組み立てる攻撃側に対し、守備側がハイプレスで応じるというモダンサッカーの典型的な攻防を、さらに何メートルか後退したゾーンで再現するものだと言えるかもしれない。

 下の画像でも、パウロ・フォンセカ率いるローマがエリア内で短いゴールキックを蹴り、まるでそこがペナルティエリア外であるかのように、アスレティック・ビルバオのプレッシングに正面から挑もうとしている。左右のSBはタッチライン一杯まで大きく開き(画像には右SBのフロレンツィしか入っていないが)、2人のセントラルMF(ペッレグリーニとディアワラ)は敵プレッシャーラインの背後に縦方向のパスコースを作り出すために動く。さらに2列目の3人も左右のウイングが内に絞り、トップ下も低い位置まで下がって、自陣半ばまでポジションを下げている。

 ローマはこのような配置を取ってゴールキックを短く蹴ることで、ゴールキックルールの改正によってもたらされた敵の陣形を「操作」する機会を自ら放棄し、アスレティックに対して高い位置までチームを押し上げてハイプレスを敢行する動機を与えてしまっている。WEBメディア『ザ・アスレティック』でマイケル・コックスが指摘したように、ゴールキックにはオフサイドが適用されない、自陣ではオフサイドにならないという2つのルールは、守備側が最終ラインを敵陣まで押し上げて陣形をコンパクトに保つのを不可能にする。これを利用した頭脳的な配置を敷く(具体的にはFWを高い位置に残して敵最終ラインを低い位置にとどめておく)ことによって、ゴールキックを蹴る側は相手の陣形を間延びさせ、ハイプレスを無効化して、その背後に大きなスペースを見出すことが可能だ。

 すでにこのルール改正が行われる以前から、マンチェスター・シティはゴールキックから最大限の効果を引き出そうと試みてきた。サネスターリングという快速ウイングを敵最終ラインよりも高いオフサイドの位置に置き(ゴールキックにオフサイドは適用されない)、世界最高レベルの精度を誇るGKエデルソンのロングキックで一気に敵ゴールに迫ろうとするプレーはその1つだ。

 今回のルール改正を受けて、シティのゴールキックはさらにその危険度を増している。というのも、GKとCBとの短いパス交換によってハイプレスを誘うことで敵の陣形を間延びさせ、その間にボールを送り込み前進するためのスペースを見出すことができるからだ。ウェストハムとのプレミアリーグ開幕戦では、エデルソンとラポルトのパス交換からスタートしおよそ1分間に及んだボールポゼッションが、シーズン最初のゴールを生み出した(シティはその後も得点を重ねて0-5で勝利している)。

 この画像でもわかる通り、シティはCBを1人(ここではラポルト)だけエリア内に下げ、もう1人をペナルティエリアのすぐ外に置いている。エデルソンを事実上もう1人のCBとしてビルドアップに組み込むことによって、敵プレッシャーラインの背後に1つ多いパスコースを作り出す仕組みだ。この数的優位は段階的に布陣全体に波及するため、シティは敵プレッシャーラインを越えてボールを送るルートを常に複数作り出すことが可能になる。ビルドアップ時のスタート陣形を、GKとCB(ラポルト)による2人のライン、もう1人のCB(ストーンズ)とレジスタ(ロドリ)による2人のラインが構成する2+2の四角形として、4人の間でパス交換を繰り返すのは、相手のプレッシングを誘ってその背後に数的優位を作り出すという狙いからだ。下の画像もその一例である。

パス交換でウェストハムのFWを誘い出したエデルソンは、ロドリへの十分なパスコースを確保している。そのロドリにも、ターンして前方に展開するだけの時間とスペースがある

 コミュニティシールドでのシティは、リバプールのように洗練されたプレッシングのメカニズムを持つチームをも「操作」できることを示した。3人のアタッカーをGKと2CBの3人によるパス回しでピン留めし、GKブラボから敵最終ラインの背後に跳び出したサネへと正確なロングボールを送り込んだのだ(残念なことにこのアクションでサネは膝に大きなケガを負うことになる)。

 過去にシティは一度ならず、GKがゴールキックで前線に送り込んだロングボールから直接ゴールを決めている。しかしこの場面では、ルール改正を利用してゴールキックからのパス交換でGKがペナルティエリアの外まで前進し、そこから前線にロングフィードを送り込むという新たな形を創り出した。

 サッカーの歴史において、ルール改正は常に戦術の進化をもたらすきっかけとなってきた。このゴールキックルールの改正も例外ではない。最も進んだ監督たち(その意味でグアルディオラを凌駕する存在を見つけるのは極めて困難だ)はすでに、新たな進化に繋がるソリューションを模索し、ピッチ上で表現し始めている。

 ルール改正が実施されて間もなく、ベンフィカはこれを利用してゴールキックをサボタージュしようと試みた。GKが近くに立ったCBに浮き球のパスを出し、CBがヘディングで返したボールをキャッチして、そこからゆったりとパントキックを蹴り直したのだ。これを見たIFABはすぐに介入し、ゴールキックを無意味にするこのプレーを禁止した。ルール改正はこのような形でも創造性を刺激するものだ。しかし監督たちはその創造性を、自らにより大きなアドバンテージをもたらすソリューションを見出すために使うべきだろう。


Photo: Getty Images

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ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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