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エンタメ性→熱。1年ぶりモスクワでの贅沢な2日連続ダービー観戦

2019.11.15

 今夏、昨年のW杯以来約1年ぶりにモスクワを訪れた。各国サポーターの溜まり場となっていたニコリスカヤ通りは「星空」と呼ばれる壮麗なイルミネーションがそのまま残っていて、その賑わいは祭典の余熱を感じさせた。かつてモノトーンで緊張に包まれていたメガロポリスの中心部はW杯を機に、よりカラフルで解放的な街に生まれ変わっている。

 真新しいスタジアムの数々も観光の目玉に加わり、今回10日間の滞在中に6試合をスタジアムで観戦することができた。1部所属の4クラブと、2部のトルペド・モスクワやスパルタク2、チェルタノボ、ヒムキを含めると、モスクワではロンドンに肩を並べる頻度でサッカーの試合を観ることができる。集客が期待できる夏休みを意識してか、特に8月は強豪同士の対戦が多く組まれ、国内リーグ第6節は2日連続のモスクワダービーとなった。

 その雰囲気は会場によって千差万別だ。

 1日目はディナモが今年5月に完成したばかりのVTBアレナにロコモティフを迎えた一戦。巨大スクリーンが特徴的なスタジアムはフェイスペイントやゲームコーナー、SNSを使っての企画などモスクワで最もエンタメ性が高い。

最新の巨大スクリーン

 ただし、20年以上もタイトルから遠ざかり、近年は残留がとりあえずの目標となっているチームの成績だけが新居に見合っていない。ウルトラスが陣取るゴール裏のスタンドにも空席が目立ち、相手サポーターの熱量に押され気味だった。

空席が目立つディナモ側のゴール裏スタンド

 この日は先制しながらもあっさり逆転を許し、ファンも毎度のこととばかりに静かに家路に着く。多くの人々が身に付けていたのはクラブのレジェンドである偉大なGKレフ・ヤシンの背番号1とサインが刺繍されたキャップやマフラーだった。ソ連時代の栄光だけが拠りどころというのは寂しい気もするが、それもまたサッカーの楽しみ方の一つだろう。

罵声、爆竹、発煙筒…

 翌日のスパルタク対CSKAは対照的にダービーらしい激しい試合となった。スパルタク側のゴール裏に「俺たちは最後まで殴り合う」と書かれた巨大バナーが掲げられると、すかさずCSKA側は「誰がフェドゥン(会長)の金を手に入れるのか、喧嘩は身内でやってくれ」と相手のお家騒動を皮肉るメッセージで応戦。

 近くに座っていたCSKAファンの家族連れは周りのスパルタクファンから一斉に罵声を浴び、スタッフが慌ててマフラーを隠して観戦するように促していた。場内でたびたび流れる「汚い言葉を使わないで」というアナウンスも虚しく、少年たちは大人たちを真似て野次を飛ばす。

 後半、両軍が得点を奪い合う展開になるとボルテージは最高潮に。ホーム側からは爆竹が鳴り響き、一方CSKA側のスタンドは大量の発煙筒で真っ赤に染まる中でスパルタクの勝ち越し点が決まった。

 この熱さこそがダービーの醍醐味とも言えるが、女性や家族連れが増えたスタジアムで運営側はマナー改善に苦慮している。

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篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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