ブラジルで開催されているU-17ワールドカップが佳境を迎えている。ベスト4が出そろい、今月17日(現地時間)には17歳以下の頂点が決まる。
この世代の魅力は“ダイヤモンドの原石たち”の躍動だが、今大会も例外ではない。ブラジルのFWタレス・マグノは残念ながらケガで途中離脱を強いられたが、既にバスコ・ダ・ガマのトップチームで活躍している。非凡な得点感覚でゴールを量産しているのは、アヤックス下部組織のFWソンチェ・ハンセン(オランダ)だ。それから日本のFW西川潤も、ラウンド16で敗退したとはいえ2得点2アシストで間違いなくインパクトを残した。しかし、この世代でどんなに活躍しても将来が約束されるわけではない。
シャビ、ロナウジーニョらが参加した大会のMVPは?
先日、開催国ブラジルのメディアがあるスペイン人を特集していた。1997年大会のゴールデンボール、いわゆる大会MVPに選ばれた選手である。
当時の大会にはイケル・カシージャスやシャビ、さらにブラジルのロナウジーニョといった、のちのサッカー界の主役が参加していた。その他にもドイツにはセバスティアン・ダイスラー、アルゼンチンにはガブリエル・ミリートがいた。そんな大会で彼らを差し置いて最優秀選手に選ばれたのは、スペインのセルヒオ・サンタマリア(当時バルセロナ所属)だった。
その名前を聞いても、ピンとくる人はいないだろう。サンタマリアは19歳にしてラ・リーガでデビューを果たすも、その後はバルサのトップチームでほとんど試合に出られず、オビエド、エルチェ、アラベスとローン移籍を繰り返した。なかなか結果を出せない日々が続き、2部、3部とカテゴリーを下げていき、最終的には地元マラガの4部のクラブで人知れず引退したのだ。
そもそも、彼はU-17ワールドカップに出場する予定さえなかった。負傷離脱した右サイドバックの代わりに追加招集されたのだ。そのためアタッカーながら背番号2を付けてピッチに立った。「それまで代表に呼ばれることさえなかった。それが、気づいたら最優秀選手に選ばれていたんだ」と、サンタマリアは『Globo』で振り返っている。
スペインの全6試合にスタメン出場したサンタマリアは、2得点でチームを3位に導いた。そして同世代の世界No.1プレーヤーに選ばれたのだが、プロ選手として大成することはなかった。それでも、キャリアを振り返って苛立つことはないという。「いろいろなことを犠牲にして努力した。全力を尽くさなかったらフラストレーションを覚えたはずだが、私はすべてを出し切った」
自身のキャリアを踏まえ、若者の背中を押す
だが、もしキャリアをやり直せるとしたら、違う選択をするという。ルイス・ファン・ハール政権時代にデビューしたサンタマリアだが、定期的に試合に出るのは無理だと思い、移籍を決断したのだ。「それが間違いだった」とサンタマリアはブラジルのメディアに明かした。「移籍先でも信頼を得られなかったし、そもそもプレースタイルが違った。私はバルセロナで試合に出られない状況から、他のクラブで試合に出られない状況に陥った。レベルを下げたのにね」
39歳となった今、サンタマリアはフィットネス業界で働いているという。無糖ドリンクによる健康的な生活を推奨するビジネスに携わっている。自身はプロ選手として結果を残せなかったが、今の若い世代へのメッセージは決して悲観的なものではない。むしろ「挑戦しろ」と背中を押している。
「彼らはプロの世界の扉の前に立っている。その向こう側は美しい世界だが、同時に厳しい世界でもある。フットボールは素晴らしい御褒美を与えてくれるが、簡単に手に入るものではない。だが、挑戦するだけの価値はある!」
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。