若きタレントの宝庫ドイツの中でも屈指の育成クラブと謳われたシャルケだが、その地盤が揺らいでいる。今まで培ったスカウト網を生かす設備と指導への投資で復活を期す。
昨シーズンの14位という順位は、決して不運ではない。シャルケは補強も育成もうまくいっていなかったからだ。
転落の最大の原因は2016年夏、マインツで成功したクリスティアン・ハイデルをマネージャーに呼び寄せたことだ。この元中古車ディーラーは、小クラブと同じ感覚で名門を運営してしまう。ブレール・エンボロ、ナビル・ベンタレブ、イェフゲン・コノプリャンカを高額で獲得し、その後もセバスティアン・ルディやハムザ・メンディルで無駄遣い。この5人だけで8000万ユーロ(約96億円)も投じたもののチーム力は落ち続け、今年2月にはついにハイデルが退任。後任に長年シュツットガルトの強化に従事し、RBライプツィヒでラルフ・ラングニックの右腕だったヨッヘン・シュナイダーを呼び寄せたが時すでに遅し。闘争心がない上に資金もないチームに成り下がってしまった。戦力を入れ替えて質を高めるのに、最低でも2年かかると言われている。
マヌエル・ノイアー、メスト・エジル、ヘベデス、レロイ・サネらを輩出した育成も平凡化している。他クラブが育成に投資する中、シャルケはそれを怠り、相対的に魅力が低下してしまったのだ。シュナイダーはこう指摘する。
「才能あるドイツのタレントは、ドルトムントやボルシアMG、RBライプツィヒを選ぶようになっている」
シャルケはハンブルクと同じ道を歩んでいる――そんなふうにまで報じられ始めた。
もはやなりふりかまってはいられない。シュナイダーは順位のノルマを課さないことを発表した。
「順位を基準にすると、昨季のように混乱に陥る。最も大事なのは試合での情熱と闘争心だ。試合でそれが見られるかが、私たちのベンチマークになる」
シュナイダーは長期戦を覚悟。選手補強を最低限に抑え、スタッフに投資をすることを決めた。
テクニカルディレクターにレバークーゼンやバイエルンで結果を出したミハエル・レシュケを呼び、選手部門のコーディネーターに元選手のサシャ・リーターを置いた。また、バラバラの選手たちをまとめるために、元ドルトムント通訳のマッシモ・マリオッティをチームビルディング担当に抜擢した。ドメニコ・テデスコ時代は監督へのバックアップが乏しかったが、デイビッド・バーグナー新監督のサポート体制は確立されつつある。
下部組織でも同じ方針で、育成責任者のペーター・クネーベルは「インフラと指導内容に投資したい」と明言。育成コーチのための部屋が設けられ、統一されたゲーム哲学が作られ始めた。
名門は没落してしまうのか。その分岐点にいることは間違いない。
Photo: Bongarts/Getty Images
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。