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大物買い一転、今夏は10代2人。リバプール「移籍委員会」の展望

2019.10.28

リバプールのハーベイ・エリオット

近年“本当に欲しい”即戦力に大金を費やし、進化を遂げたリバプールだが、今オフ獲りにいったのは16歳、17歳と控えGKのみだった。そこには、彼ら特有の補強オペレーションが存在する。

 2018年、フィルジル・ファン・ダイクアリソン・ベッカーという守備の選手の獲得に計1億5000万ユーロ(約180億円)を投じて大きな話題をさらったリバプールだが、そうした一見派手な投資とは裏腹に、今のクラブの移籍市場における立ち回りは堅実かつ慎重というイメージだ。大きな動きがなかった今夏の移籍市場が、それを象徴していたと思う。

 夏に獲得したのは、10代の有望株であるDFセップ・ファン・デン・ベルフ(←ズウォレ)とMFハーベイ・エリオット(←フルアム)の2人と、シモン・ミニョレが退団してアリソンが負傷したGKの穴埋め要員であるアドリアン、短期契約のロナーガン(ともにフリー)だけ。ユルゲン・クロップ監督は「現在のチームに大金を費やす必要があるとは思わない」とし、必要なのは「今いる選手たちのグループとしての連係を深め、ある程度の期間まとまってチームを進歩させること」だと話した。

主観、客観、ビジネス的判断の三位一体

 つまるところ、それがクロップとリバプールのポリシーだ。マンチェスター・シティやレアル・マドリーほど湯水のごとく使えるわけではなくとも、ビッグクラブと呼ぶにふさわしいくらいの資金力はある。だが、本当に必要な選手、クロップの哲学に高確率でフィットする適正な選手が、適正なタイミングで、適正な(とクラブが考える)価格で市場に出回っていなければ、財布に手は付けない。例えば2016年の夏がそうだった。左SBが手薄だったが、適正なターゲットがいなかったため補強を見送り、ジェイムズ・ミルナーをコンバートした。そして1年後、ハル・シティが2部に降格して市場に出回ったアンドリュー・ロバートソンを獲得し、抜け目なくこのポジションを埋めた。16年夏に急いで無理な補強をしていたら、ロバートソンの今の活躍はなかったかもしれない。

 この手の“忍耐”ができるようになった背景には、クラブ特有の補強のオペレーションがある。今のリバプールでは、クロップ監督の“主観”、データに基づく分析・スカウティングチームの“客観”、そしてオーナーであるFSG(フェンウェイ・スポーツ・グループ)の“ビジネス的判断”の三位一体が機能し、総じて「移籍委員会」と言われるこの三者のゴーサインが出たその道の「トップエンド」(最高級)のターゲットにのみ、獲得のオファーを出す。3つのフィルターを通しているから、闇雲に選手を獲ってくることはない。

 逆の言い方をすれば、だからこそ近年はファン・ダイクやアリソン、さらにはサディオ・マネ、モハメド・サラー、ロバートソンら吟味して獲得した選手が軒並み“ヒット”している。さらに言えば、いたずらに選手を獲ってくることなくスカッドを肥大させ過ぎないことで、シティと比べて選手層は薄いかもしれないが、クロップが大事にしている融和性や団結、チームワークが育まれているという見方もできる。

彼らも10代カテゴリーの「トップエンド」

 だから、昨季は目と鼻の先で逃したプレミアリーグ制覇を成し遂げるためにはさらなる大物の補強が必要だった、という声も確かにあるのだが、昨季のチームを“いじる”というリスクを負ってまで加えたい適正なターゲットが市場に出回っていなかった、と考えれば、この夏の移籍市場での立ち居振る舞いはある程度説明できる。その分、次回以降のウィンドウでトップエンドのターゲットが市場に出た際には、ここぞとばかりに、また金に糸目はつけずにその選手を確実に獲りに行くだろう。ファン・ダイクやアリソンの時のように、本当に欲しい選手には市場の相場を大きく超える額でも支払うのがFSGだ。来るべきタイミングに向けて今夏は“貯蓄”の時なのだ、とフロントやクロップは考えているはずだ。

 その一方で、この夏に16歳のエリオットと17歳のファン・デン・ベルフを獲得したのは、リバプールのチーム作りが次の段階に入ったことを示唆している。

 2015年10月にクロップがやって来て「移籍委員会」が今の体制になってから、リバプールは指揮官のスタイルを体現するために必要な、チームの骨格になるような、いわゆる“既製品”の即戦力ばかりを獲得してきた。そんな中、エリオットとファン・デン・ベルフは初めて「10代で加入して即ファーストチーム入り」の新戦力と言える。U-17イングランド代表の前者はシティやRマドリー、バルセロナ、RBライプツィヒなどが、U-19オランダ代表の後者はアヤックスやバイエルンなどが狙っていたとされる逸材で、争奪戦を制した格好になる。彼らの場合も「10代の若手」というカテゴリーのトップエンドで、スカウティングチームが「クロップと彼のコーチ陣の下で大きく成長し、未来の主力になれる」と見込んだ選手たち。ある程度チームの骨組みが定まってきたからこそ、クラブは中長期的なチーム強化という未来に向けた計画をスタートさせたということだろう。

リバプールのセップ・ファン・デン・ベルフ(左)
オランダで“第2のファン・ダイク”と期待を集める大型CBファン・デン・ベルフ。2018年3月に16歳でプロデビューし、往年の名DFヤープ・スタムに学びながら、2018-19シーズンはエールディビジで15試合に出場とすでにトップレベルを体感。9月のリーグカップ3回戦終盤に出場しリバプールのトップチームデビューを飾っている


Photos: Getty Images

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寺沢 薫

1984年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、2006年からスポーツコメンテイター西岡明彦が代表を務めるスポーツメディア専門集団『フットメディア』に所属。編集、翻訳をメインに『スポーツナビ』や『footballista』『Number』など各媒体に寄稿するかたわら、『J SPORTS』のプレミアリーグ中継製作にも携わった。

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