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活路は増える「国外育ち」にあり ロシアの10代マーケット事情

2019.10.11

地元開催となった2018年のワールドカップでベスト8入りを果たし、国内でサッカー熱が盛り上がりを見せたロシア。UEFAランキング6位につけクラブコンペティションでも強豪の一角に位置するが、こと育成に関しては深刻な問題を抱えているという。そんなロシアの「10代マーケット」を含む育成事情を紹介する

 ロシアプレミアリーグはUEFAのリーグランキングで現在6位。そのレベルは決して低いわけではない。しかし、アンドレイ・アルシャビンやジルコフらの世代以降、ロシアから欧州トップクラブに渡る選手は皆無で、昨季ようやくアレクサンドル・ゴロビン(モナコ)が挑戦を始めたばかりだ。ソ連時代の体質が残るロシアのクラブは厄介な交渉相手であるという認識が欧州に広まり、選手もまた国内で十分な年俸を得ているため、リスクを犯してまで現在の地位を捨てることはしない。その結果、世界の移籍市場でロシア人選手への関心が薄くなっている。

 代表クラスの選手たちが国内に留まり続けているこの状況は、10代の若手たちにとっては深刻な問題だ。ゼニトの育成施設「スメナ」の関係者は「トップチームに昇格できる選手は毎年1人いるかどうか。彼らは現段階ですでに行き詰まりを実感している」とその厳しさを語る。ロシアは経験重視の傾向が強く、チャンスに恵まれない有望株の選手は1部の下位クラブや2部でプレーすることになるが、その環境はゼニトやモスクワの強豪とは雲泥の差。成長も期待できずそのまま中堅クラブを転々とする選手が大半で、自国のタレント不足の一因となっている。

「種は撒かれた。これからは収穫」

 そのため、近年は10代のうちから欧州各国で修行を積み、ステップアップを狙うケースが増えた。チェコで2シーズン半を過ごし、現在フィテッセで指揮を執るレオニド・スルツキ監督の信頼を受けてオランダへ渡ったブヤチェスラフ・カラバエフ(今夏ゼニトに加入)、2013年のU-17欧州選手権優勝の原動力となったGKアントン・ミトリュシキン(シオン)はトップチームの主力となり、昨季バルセロナBに在籍していたDFロマン・トゥガリノフ(エスパニョールB)や、エドガル・セビキャン(レバンテ・フベニールA)といった10代の選手も今後が期待される。

 また、昨年のW杯開催へ向けた強化の中で顕著になったのが、デニス・チェリシェフ(バレンシア/レアル・マドリーの下部組織出身)のように国外で育ったロシア人選手の代表加入だ。ロシア革命、第二次世界大戦、ソ連崩壊と時代の変動とともに政治的弾圧を逃れ、またはより良い生活水準を求めて多くのロシア人が国を離れた。ソ連崩壊以降だけでも1500万人以上の人々が世界各国に移住している。テニス界ではマリア・シャラポワのように10代から外国でトレーニングを受けた選手の活躍が当たり前のようになっているが、サッカー界でもドイツ育ちのロマン・ノイシュテッターやコンスタンティン・ラウシュ (ともにディナモ・モスクワ) 、ギリシャ育ちのユーリ・ロディギン(ガジアンテプBB)のような逆輸入選手が続き、その是非を問うような議論もほとんど見られなくなった。

2018年11月のドイツ戦でニャブリとボールを争うノイシュテッター。プロ選手だった父がプレーしていたドイツの地で育ちドイツ代表でも出場経験を持つが、2016年にロシア代表を選択した

 ロシアのメディアはこれまで、国外でプレーするロシア人選手の詳細をビッグクラブ以外はあまり報じていなかった。しかし、際立ったタレントが不在の現状を憂いてか、「種は撒かれた。これからは収穫の季節」とばかりに新たなスター候補を求めて欧州クラブで成長するロシア系の子供たちに注目し始めている。


Photos: Getty Images

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Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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