2部で首位を快走中
先月お伝えした通り、サウジアラビア人富豪トゥルキ・アル・シェイクが買収したリーガ2部のアルメリアが快調に首位を走っている。第7節を終え13得点3失点と抜群の安定感で、昇格候補のウエスカを破りラジョ・バジェカーノと引き分けて無敗を守った(5勝2分)。
前回GM、スポーツディレクター、監督を入れ替えたところまではお伝えしたが、その後もオーナーのアル・シェイクによる大改革は続いた。若い将来性のあるタレントを狙う、という今流行の補強戦略に方向転換し、夏の移籍市場で13人の選手を獲得。ノッティンガム・フォレストから買ったアルビン・アッピアーはマンチェスター・ユナイテッドも狙っていた選手だった(もっとも、その陰で新オーナー到着までに獲得済みの8人のうち7人を放出……)。補強に費やした金額2100万ユーロは2部でトップなのはもちろん、1部リーグの11クラブよりも上だった。
セティエンら招き本格的に“勉強”
グラウンド外でも積極的な改革を展開。年間チケット購入者に抽選でアウディ2台をプレゼントするという豪快なファンサービスで、1万人超の購入者を集めた。この勢いに乗ってクラブエンブレムの変更を提案。古い革製のサッカーボールをあしらった古風な意匠を、プレミアリーグのエンブレムを想わせるライオンの絵柄のモダンなものにしようとしたが、これはファンに反対された(ライオンのマスコットだけは実現するかも)。
ただ、それもまずSNS上でファンの意見を聞き、反発の声が多いと見るとオーナー自ら「エンブレムは好きだ。変えるべきでない」と発言。取締役会の勇み足を制する体裁を取って逆に好感度を上げるなど、なかなか巧みである。
強引な改革は必ずファンの反発を招き、ファンにソッポを向かれた改革は必ず失敗する。それは今のバレンシアを見れば明らかだ。この新オーナー、剛腕なだけでなく、その辺りのスペインでの外国人オーナー挫折パターンをよく学んだようだ。
また、この新オーナーはサッカーを勉強すると称してキケ・セティエン、アイトール・カランカ、パブロ・マチンらを招いて私的懇談会を開いている。合理的な選手の配置をセティエンから学んだ時のそれは、ホワイトボードを挟んで話し合う本格的なものだったらしい。その他ロックフェスティバルを開催しサッカーファン以外の若者や市の観光・商業関係者を取り込むことにも成功している。
もちろんスポーツ的な成功が大前提で、チームが結果を出せないと何をやっても駄目なのだが、なかなかユニークなクラブになろうとしていて目が離せない。
Photo: Soccrates/Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。