DFの歴代最高額選手となった男
今夏、イングランドのサッカー界で「お金」について注目を集めた選手といえば、レスターからマンチェスター・ユナイテッドに移籍したイングランド代表DFハリー・マグワイアだろう。
移籍金8000万ポンド(約108億円)は、リバプールのオランダ代表DFフィルジル・ファン・ダイクの7500万ポンド(約101億円)を抜いてディフェンダーの史上最高額だった。そのマグワイアが、9月14日のプレミアリーグ第5節で移籍後初めて古巣と対戦した。レスターのファンからは、「失せろ、マグワイア。お前なんか要らない。うちには(チャーラル・)ソユンジュがいる♪」とチャントを歌われながらも、見事に敵の攻撃をシャットアウト。完封勝利に貢献した。
試合後、ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督は「価値を証明してくれた」と同選手を称えた。
「ハリーはピッチ内外でリーダーなんだ。チームがボールの保持に苦しんでいると、彼がボールを足下に置いて落ち着かせてくれるのさ」
開幕4試合で1勝しかできずにいたユナイテッドを、そして指揮官を救ったのは、世界最高額のDFだった……と、移籍金にまつわる話はこのくらいにして本題に入ろう。冒頭で述べたマグワイアの「お金」というのは、8000万ポンドという目が眩む移籍金のことではない。もう少し庶民的な「50ポンド(約6800円)」の話なのだ。
新50ポンド札の肖像にマグワイアを!
今夏、イングランド銀行は新50ポンド札の肖像に数学者であるアラン・チューリング(1912-1954年)を採用すると発表した。チューリングは、コンピューターのモデルとなるチーリングマシンで知られる英国の偉人である(らしい)。
では、数学とは無縁に思えるマグワイアに何の関係があるのだろうか? 実は、イングランド銀行が50ポンド紙幣の人選を公募した際、あるフットボールファンがマグワイアを推薦したのである。それも、2018年ワールドカップ期間中にホテルのプールでユニコーン型の浮き輪にまたがっているマグワイアの写真を推薦したのだ。すると、賛同の署名がネット上でなんと5万件も集まり、代表チームメイトのカイル・ウォーカーも「実現させてくれ! 俺は5ポンド札でいいからね」とSNSで支持することに。
そうしてちょっとした盛り上がりこそ見せたものの、当然、マグワイアが採用されることはなかった。そもそもイングランド銀行は、採用すべき「科学者」の候補を募っており、サッカー選手のマグワイアはそもそも対象外だったのだ。
いずれにせよ、このニュースを聞いたとき「あの忌々しい50ポンド札ね」と思った方も多いはずだ。英国に滞在したことがあれば、一度は「50ポンド札を受け取ってもらえない問題」を経験しているはずだ。一部の小規模なお店は、偽札を警戒して50ポンド札での支払い自体を受け付けていないのである。
今回の新50ポンド札は、ユニコーンに乗ったマグワイアこそ拝めないが、受け取り拒否問題は少し改善されるかもしれない。2021年頃から流通予定の新50ポンド紙幣は、従来の紙製ではなく、より偽造が困難なポリマー製になるというのだ。ちなみに、すでに5ポンドや10ポンドのお札はポリマー製に移行しており、20ポンド札も2020年からポリマー製になる予定だという。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。