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王者打倒のまたとない好機か ドイツの盟主バイエルンの憂鬱

2019.09.13

ドイツサッカー誌的フィールド

皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、今ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。

今回は、8連覇に暗雲? 移籍市場でのバイエルンの苦戦ぶりに見る、“タイトル争い”の可能性”。

 バイエルンサポーターの多くは、この夏かなりナーバスになっていた。今年の移籍市場は非常に複雑で、彼らがターゲットにしたフレンキー・デ・ヨンク、ロドリ、マタイス・デ・リフトは別の移籍先を選び、レロイ・サネは進展があるかというタイミングで負傷により長期離脱。対抗馬ドルトムントがニコ・シュルツ、ユリアン・ブラント、トルガン・アザールにマッツ・フンメルスとトップトランスファーを次々と発表していたにもかかわらず、である。ドルトムントのハンス・ヨアヒム・バツケCEOは「ドルトムントは言い訳なく優勝争いをするつもりだ」と、珍しく攻撃的だ。

 片やバイエルンは……彼らが探しているのはワンランク上の選手たちであったが、「にもかかわらず、移籍市場で3桁台(1億ユーロ台)の移籍金を出すのをずっと拒んできている。確かにそれは、伝統的なファンの多くが望むことである。しかしながら、CL制覇という目標とは折り合わない。このクラブは偉大な過去を誇りにし、将来のことは視界にないようである」(『シュピーゲル』電子版)。

狂乱の市場で、それでも出し渋る

 そしてこれは、ブンデスリーガにとってまたとないチャンスである。もう何年かぶりに、ドルトムントがバイエルンと同じくらい良いチームを有し、そしてひょっとするとより良い監督の下でタイトル争いをスタートすることができるからである。

 バイエルンのオファーを断りマンチェスター・シティ行きを決めたロドリの言葉は、バイエルン首脳陣の耳にはさぞ痛かったであろう。

 「そう決めるのははっきりしていた。シティは最も偉大なチームの一つで最高の選手たちがプレーしている。そしてもちろん、監督がペップ・グアルディオラだからだ」

 移籍市場において、バイエルンはもはや巨人ではないのだ。多くのビッグネームだけでなく、ジョアン・フェリックスやフレンキー・デ・ヨンクといったスター候補でさえもバイエルンに獲得のチャンスはなかった。「すべての移籍がゼーベナー・シュトラッセ(バイエルンの本拠の住所)を通り過ぎて行った。バイエルンには誰が残るのだろうか?」と『フランクフルター・アルゲマイネ』紙は挑発的に問う。

 バイエルンの問題の一つは、自分たちを常に海外のメガクラブと同じ目線の高さで見ていたために、抱える最高の選手たちを売却してこなかったことである。だから、例えばアトレティコ・マドリーとは違い移籍金を稼げなかった。また、こうした状況の時に資金を調達する手段を持ち合わせていない。

 「この夏ついに、抑制の利かないこの市場でバイエルンがいかに苦しんでいるかが明らかになった。彼らはまず、市場の“狂気”に対する自分たちのあり方を定義しなければならない」と『南ドイツ新聞』は指摘する。

 確かにバンジャマン・パバールとリュカ・エルナンデスを獲得してはいる。しかし前者の3500万ユーロは高過ぎだとささやかれており、後者は8000万ユーロと実際、DFとしては非常に高額だった。一方で、フランク・リベリ、アリエン・ロッベン、ハメス・ロドリゲスを失った攻撃陣の強化はどんどん難しくなっていく。

本稿執筆後にペリシッチ(左)とコウチーニョを獲得。ただし、ともに買い取りオプションつきのレンタル補強である

懐疑の声は選手方面からも

 この移籍市場での停滞を受け、マヌエル・ノイアーの代理人が「マヌエルには上昇志向がある。私の印象では、イングランドのトップ4チームとの差はすでに決定的であり、バイエルンはマヌエルの目標に本気で向かっていける状態にない」と言い放った。選手たちはメガクラブに水を開けられたくない。バイエルンは収益ランキングで4位(上にはレアル・マドリーとバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドだけ)にいるのだから、それは可能であるはずだ、と。

 「ドルトムントが獲得したのは『もしかしたらドイチェマイスター(リーグ王者)になることができるかもしれない』選手たちだった。一方、バイエルンが必要としているのは、(鬼門となっている)CL準決勝で勝てる選手なのだ。だがそうした選手たちはあまりにも高額で、バイエルンへは来ないのだ」と『南ドイツ新聞』は状況を説明する。

 この夏、特別なことがあったとすれば、それはドルトムントが身の丈に合った範囲で非常に良い動きをしたことである。クリスティアン・プリシッチとアブ・ディアロこそ失ったが、 すでに昨季、うまく機能していたチームをピンポイントで強化。ゆえに『ベストドイチェ・アルゲマイネ新聞』はドルトムントのバイエルン撃破を予想している。いずれにせよ、7年間にわたるバイエルンのリーグ独占状態を破るチャンスが、今季より大きかったことはないであろう。


Photos: Bongarts/Getty Images

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バイエルン戦術

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。

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