アーセナルで躍動する生え抜きの秘蔵っ子
今季のアーセナルで、MFダニ・セバージョスやFWニコラ・ペペといった鳴り物入りの新戦力に負けないくらいファンを喜ばせているのが、生え抜きの台頭だろう。とりわけ、開幕からスタメンに抜擢された20歳のMFジョー・ウィロックの活躍には、多くのファンが胸を躍らせているはずだ。
彼のプレースタイルをひと言で表すと、軽やかな足技でボールも運べるプレーメイカー。ひょろっとした体型なので、ニックネームを付けるとしたら「頑丈なアブ・ディアビ」といったところか。プレースタイルに関してはたしかにディアビに似ているが、「頑丈」という部分は願望ありきだ。
そのウィロックは、ご存知の方も多いと思うが、アーセナルの下部組織出身の“ウィロック3兄弟”の末っ子だ。一番上のマティー・ウィロック(23歳)は、15歳でアーセナルから放出されたあとマンチェスター・ユナイテッドのユースに加入。今季からイングランド3部のジリンガムでプレーしている。
2番目のクリス・ウィロック(21歳)は2017年までアーセナルに在籍していたが、出場機会を求めてポルトガルのベンフィカに移籍した。今季は、そのベンフィカからイングランド2部のウェストブロムウィッチにローン移籍している。
彼ら3兄弟は、17年5月のアーセナル対マンチェスター・Uのリザーブチームの試合で3名そろってピッチに立ったことで話題になった。結局、今ではトップリーグ在籍は一番下のジョーだけになったものの、カップ戦で兄弟対決が実現するかもしれないので注目だ。
サッカー界、意外と深い「3兄弟」の歴史
サッカー界の3兄弟といえば、アザール(エデン、トルガン、キリアン)、ポグバ(フロランタン、マティアス、ポール)、高木(俊幸、善朗、大輔)などが有名である。だが、世界的には知られていないものの、ウィロックの30年前にもイングランドで注目を浴びた3兄弟がいる。それがサウサンプトン出身の“ウォレス3兄弟”である。彼らは1988年、3名とも同時に、しかも同じチームでピッチに立って脚光を浴びた。
一番上のダニーは、16歳313日にしてサウサンプトンでトップチームデビューを果たした“元祖ワンダーキッド”。25年後にセオ・ウォルコットに抜かれるまで、セインツの最年少デビュー選手だった。彼の5歳下にはロッドとレイの双子がいた。彼らもサウサンプトンでキャリアをスタートさせてトップチームまで登り詰める。そして1988年10月、レイがシェフィールド・ウェンズデー戦でデビューを果たし、晴れて3兄弟が1つのチームで同時にピッチに立ったのだ。
イングランドのトップリーグで、3兄弟が同じチームでそろって出場するのは1920年以来のことだったという。その時は、カー3兄弟(ジャッキー、ウィリアム、ジョージ)がミドルズブラの選手としてプレーした。だが英紙『The Guardian』によると、もっと凄いチームがあったという。それは1878年のノッツ・カウンティーである。なんと、3兄弟が2組もいたというのだ! カーシャム3兄弟とグリーンハウチ3兄弟である。
しかも彼らは単なる兄弟ではない。ハリー・カーシャムはFAカップで通算49ゴールを決めており、この数字は今も破られていない同大会の歴代最多ゴール記録。一方でアーネスト・グリーンハウチは、1872年にイングランド代表の記念すべき初ゲームに出場した初代イングランド代表選手なのだ。
そして、現存する世界最古のプロクラブでは、2019年も「兄弟」の絆は健在である。ノッツ・カウンティーは今年の夏に買収されたのだが、クラブを買い取ったのがデンマークの兄弟だった(さすがに3兄弟ではないが)。彼らは、賭けのアドバイス用に試合などを分析する『football radar』社を経営して成功を収めたという。さてさて、その分析力で5部のクラブをどこまで導けるか見ものである。
Photo : Getty Images
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。