冨安躍動、その一方で「本当のMVP」は……
27日、ボローニャは公式HPでセリエA開幕戦となったエラス・ベローナ戦のファン選出によるMVPを発表し、得票率86.67%という高い数字で冨安健洋がMVPに選ばれた。同クラブのフェイスブック公式ページでは「本当に素晴らしい選手」「今のところ一番の補強だ」「ずっと昔からウチでプレーしていたようにも思えた」という賛辞が続く中、「本当のMVPはミハイロビッチ監督だよ」というコメントもあった。急性骨髄性白血病の治療で入院していたボローニャの大学病院から一時退院し、指揮を執ったシニシャ・ミハイロビッチ監督に対する賛辞の声だ。
「ミハイロビッチ監督は通常通り試合の指揮を執る」
ボローニャが公式にリリースを出したのは、試合の1時間前のことだった。前泊地だったベローナ市内のホテルにミハイロビッチ監督が姿を見せた時、当然選手は驚いた。「本当にびっくりしたし、そのあとは感情がこみ上げてきてみんな無言になっていた。でも自分たちと一緒にいてくれることは嬉しかった」とはアンドレア・ポーリの弁。
試合になると帽子をかぶり、ほとんどの時間立ちっぱなしで戦況を見守り、指示を送った。ニコラ・サンソーネは「『オレは必ず開幕戦でピッチサイドにいる』と監督は僕たちに約束していて、その言葉を守った。勝利を捧げられなかったのは残念だった」と語った。
ミハイロビッチ監督は試合終了の少し前に、ピッチを後にした。記者会見には出ず、リッカルド・ビゴンSDの付き添いのもと、マスクを付けて早めに通路を後にした。地元紙の報道によれば、ハイヤーで直接ボローニャの病院へ戻って無菌室へ入り、26日は1日中静養していたという。
「監督は患者としても模範的だった」
文字通り病魔と闘い、グラウンドに戻ってきたミハイロビッチ。だがこれはもちろん彼の独断ではなく、医師団の監修によって行われたことだった。
その1人であるボローニャ大学付属病院血液科のミケーレ・カーボ教授は27日、複数の地元メディアに証言。「先週の木曜日に、監督からグラウンドに行きたいという強い意思表示があった。ただ骨髄の機能は毎日モニタリングをしなければいけないものだから、すぐに約束はできないと返事した。すると監督は『先生、私は貴方の意思に反することはいたしません』とおっしゃった。金曜日に検査で良い数値が出て、土曜日と日曜の間にも問題はなかったので許可を出した」と経緯を説明した。
試合の間の指示も出していた。車に乗せて行ってもらう際には、感染症対策のためマスクの着用を義務付ける。一方で野外にいるときには、むしろリスクは少ないためマスクはしなくてもいいと薦める。「映像を見た限りでは、指示に忠実に従っておられた」と語ったカーボ教授は、「入院してからずっと、監督は患者としても模範的だった。非常にきつい化学治療を受けた後でも、40日経てば元いた場所に帰れて、今までの歩みをやりなおすことができる。そんなメッセージを他の患者に与えておられた」と賛辞を送った。
なお現在のところ、次節SPAL戦(30日)のベンチ入りは未定だと報道されている。
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。