「プロサッカークラブの新規顧客はお断り」
オランダの3大銀行のひとつ、ラボバンクが「プロサッカークラブの新規顧客はお断り」という方針を打ち出し、波紋を呼んでいる。「サッカーは詐欺や資金洗浄に利用されるハイリスクがある」というのが、その理由だ。
オランダには34のプロサッカークラブ(1部18チーム、2部20チーム。うち4チームがリザーブチーム)があり、そのうち8割がラボバンクとの取引があるという。商業的にもラボバンクとプロサッカー界の関係は密接だ。テルスターのスタジアムはネーミングライツで「ラボバンク・アイモント・スタディオン」と名付けられている。
RKC、フォルトゥナ・シッタルト、VVVはスタジアムの中にラボバンク・ラウンジがある。17歳以下のAZファンに対しては「ラボバンクAZ口座」というキャッシュカードを発行している。この口座を開くとAZ選手のサイン入りボールのプレゼントがあったり、ラボバンク主催のAZファン感謝デーに参加できたりする。
「ラボバンク、プロサッカークラブを顧客として拒む」と『NRC』紙が報じた8月19日は、ちょうどフォーレンダムが「ラボバンクとスポンサー契約を3年延長した」と発表した日と重なっていた。他にもラボバンクの支店は地元のクラブのビジネスシートを買っている。
「あまりにサッカー界の資金洗浄に対して無防備」
「新規顧客お断り」は「新たな案件の交渉はしない」と読み取る向きが多いようだ。現在続いている商業ベースの付き合いに関しては「途中で契約を打ち切ることはない」というが、その後のことはわからない。中にはサッカークラブで副業をしている行員もいるようだが、今後はそれも禁じるという。
こうしたラボバンクの方針転換に、ウィーレム2のマルティン・ファン・ヘール社長は「まだラボバンクからの説明はないが」と前置きしつつも「ラボバンクは長年のスポンサーで、スカイボックスを持っている。ウィーレム2の地域貢献プロジェクトにも賛同してくれているのに」と驚きを隠せない。
ラボバンクがプロサッカー界との関係に神経を尖らせている背景のひとつに、中央銀行のオランダ銀行が2017年1月13日、「オランダの銀行は、あまりにサッカー界の資金洗浄に対して無防備」という警告を発したことがあるだろう。これは内々の警告ではなく、オランダ銀行のホームページ上にも載っている、かなり強い警告だ。
仮に資金洗浄を見逃したらどうなるだろう。これはサッカー界とは関係のない事件だったが、ING銀行は2011年から16年にかけて当行の口座が資金洗浄に使われてしまい、7億7500万ユーロ(約915億円)という莫大な罰金を課せられた。ABNアムロ銀行は「資金洗浄に対する取り組みが甘い」と指摘され、1億1400万ユーロ(約135億円)の対策費積み増しを求められた。
外国人のクラブ買収にも厳しい目
すでに、ラボバンクはデン・ボッシュとローダJCに対して、厳しい態度に出ている。この2つのクラブに共通するのは「外国人のクラブ買収」だ。
ラボバンクは、デン・ボッシュのユース育成部門とパートナー契約を結んでいる間柄だが、それでもグルジア人のカキ・ジョルダニア(かつてフィテッセのオーナーだったメラブ・ジョルダニアの息子)がデン・ボッシュの買収を試みると、資金の出どころが明確でないため「他の銀行に口座を作り直してください」と依頼したという。結局、KNVB(オランダサッカー協会)のプロライセンス委員会がジョルダニアの買収を認めなかったため、今もデン・ボッシュはラボバンクの口座を維持している。
ローダJCの会長に就いたばかりのメキシコ人のマウリシオ・デ・ラ・ベガは、クラブへの送金をラボバンクによってブロックされている。「なんという邪魔をしてくれるんだ」とスポークスマンはデ・ラ・ベガ会長の憤りを代弁した。
KNVBは今回のラボバンクの意向を懸念しており、トップレベルでの話し合いが持たれるようだ。
今のところ、ABNアムロ銀行とING銀行が、ラボバンクに続く兆候はない。とくにING銀行はオランダ代表(男女)やアマチュアフットボール全体、Gフットボールなどのスポンサーをしており、ラボバンクのような、あからさまな対応を取るのは難しいだろう。
Photo : Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。