三好康児が移籍したベルギーのロイヤル・アントワープとは?
「グレートオールド」と呼ばれるクラブ
8月20日、日本代表MF三好康児が、ベルギーリーグのロイヤル・アントワープへ移籍した。川崎フロンターレから今シーズン終了までの期限付き移籍となり、買取オプションがついた契約となる。
ロイヤル・アントワープは、ベルギー北部のアントウェルペン州の州都で、ベルギー2番目の人口50万人の都市、アントウェルペンをホームとする。ヨーロッパ第2の港を持つ工業都市で、世界最大のダイヤモンドの取引量を誇る。日本では「フランダースの犬」の舞台としても有名だ。
1880年に「アントワープ・クリケット・クラブ」として設立。イングランド人の学生たちが設立者のため、英語表記の「アントワープ」が採用されている。クリケット、テニス、ラグビーと共にプレーしていたのがサッカーで、1889年にサッカー部門として「アントワープ・フットボール・クラブ」が設立。1926年に登録番号が導入されると、アントワープはベルギーで当時現存する最古のクラブであったため「1」が登録された。そのため、愛称も「グレートオールド」として親しまれる。
ホームスタジアムは16,144人収容のボサイルスタディオン。1895年の国内リーグ創設から約120年で、リーグ優勝4回、カップ優勝2回の実績を誇り、1993年にはUEFAカップウィナーズカップで準優勝に輝いており、ベルギーのクラブとしては、欧州カップ戦の最後のファイナリストである。ベルギーでも屈指の熱狂的なサポーターに支えられ、2部時代でも1万人を超える集客力を誇った。同じアントウェルペンをホームとする現在2部のベールスホットVACとは、アントウェルペンを二分する激しいライバル関係で、「アントウェルペン・ダービー」ではしばしば暴動騒ぎも起こる。
マンチェスター・ユナイテッドのベルギー支部
アントワープは、1998年からマンチェスター・ユナイテッドとパートナーシップを結び、同クラブに所属する若手選手が経験を積むために、または労働許可証を取るためにプレーした例が多く、過去にはDFダニー・ヒギンボザム、DFジョン・オシェイ、DFライアン・ショークロス、DFジョニー・エバンス、FWフレイザー・キャンベルなどプレーし、05-06シーズンには元中国代表FW董方卓(ドン・ファンジョウ)が18得点を挙げ、2部リーグ得点王に輝いたこともあった。
また、現ヴァンフォーレ甲府のピーター・ウタカが2006年から2年間所属し、07-08シーズンには、22得点を挙げ、こちらも2部リーグ得点王に輝いている。1993年から2年間は元オーストラリア代表FWジョン・アロイージ、01-02シーズンには元韓国代表FWソル・ギヒョン、2002年から2年間は元カタール代表FWフセイン・ヤセルと、アジア、オセアニア地域の出身選手が多くアントワープでプレーしている。
財政危機を乗り越えて復活
90年代後半から、財政難により苦戦を強いられたアントワープ。2004年に降格してから、資金繰りが厳しく、2007年には宿命のライバル、ベールスホットとの合併が噂されたり、クラブ内での内紛などで、10年以上、2部暮らしを強いられた。13-14シーズンには、かつてのオランダの名選手、ジミー・フロイド・ハッセルバインクが監督に就任するも、中位に低迷した。
転機が訪れたのは2015年。ズルテ・ワレヘムの会長を務めていた実業家のパトリック・デキュイパーがアントワープの過半数の株を取得すると、若手選手を中心にチームは台頭。16-17シーズンの優勝プレーオフでは、ルーセラーレに勝利し、13年ぶりの1部復帰を果たした。
1部リーグ復帰を果たした後のアントワープは、スポーツディレクターに元スタンダール・リエージュのルチアーノ・ドノフリオが就任すると、新監督にラースロー・ボローニを招聘。1部復帰初年度は8位で終えたアントワープだが、昨シーズンは序盤から上位争いを演じ、リーグ屈指の堅守と鋭い速攻を武器にレギュラーシーズンを6位で終え、初のプレーオフ1に進出。プレーオフ1では4位に順位を上げ、シャルルロワとのヨーロッパリーグ出場プレーオフに勝利し、22年ぶりの欧州カップ戦出場権を獲得。資金が年々増加し、今シーズンは3500万ユーロ(約41億円)と、ヘント、スタンダール・リエージュとほぼ同額となっており、今シーズンは優勝候補の一角として注目されている。
個性的な面々がそろうアタッカー陣
1956-57シーズン以来、63年ぶりの優勝を狙う古豪アントワープ。三好と切磋琢磨する攻撃陣には個性的な面々がそろう。33歳の元コンゴ民主共和国代表FWディウメルシ・ムボカニは、不動の1トップだ。かつてモナコ、ボルフスブルク、ハル・シティなどで期待を裏切り続けたストライカーも、ベルギーリーグでは水を得た魚のように活躍しており、スタンダールとアンデルレヒトで合わせて5度のリーグ優勝に貢献。2012年にはベルギーリーグの最優秀選手賞に当たる「ベルジャン・ゴールデンシュー」を受賞している。33歳ながら、卓越したボディバランスでアクロバティックなゴールを決め、ポストプレーもこなす、ベルギーでは本当に頼りになるエースだ。
そして、ポジションを争うであろうトップ下には、イスラエル代表40キャップ以上の33歳のベテラン、MFリオル・ラファエロフがプレーする。クルブ・ブルッヘで7年間プレーした後、昨シーズンからアントワープに所属。フィジカルを重視し、上下動の激しいサッカーだが、単調になりやすいチームにおいて、ラファエロフのテクニックは重要なアクセントとなる。ムボカニを囮に使いつつ、自らが裏へ抜け出してゴールを狙う老獪さも見ものだ。
他には、アクロバティックなゴールで2017年の最優秀ゴールを受賞したポルトガル人ウインガーのイボ・ロドリゲス、正確なキックでプレースキックのキーマンとなるMFジョフロイ・ヘーレマンス、昨季はシントトロイデンの攻守の要として活躍したMFアレクシス・デ・サールなど、多種多様の実力者がそろう。ポジション争いのライバルとしては手強いが、同時にチームにとっては頼りになる選手たちだ。彼らと並んでプレーする三好とアントワープの活躍に期待したい。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。