イタリアサッカー連盟の先駆者が明かす、データアナリストの仕事
ビッグデータ時代の到来を迎えた今、そのデータを“ 解釈”するデータアナリストの需要は増す一方だ。しかしながら、彼らが現場でどのような仕事を担っているのかはなかなかうかがい知れない。そのデータアナリストの仕事の最前線について、イタリアサッカー連盟(FIGC)でマッチアナリストを担当するアントニオ・ガリアルディが、イタリアのWEB マガジン『ウルティモ・ウオモ』で大いに語った貴重なインタビュー(2018年7月27日公開)を特別公開する。
アントニオ・ガリアルディは、イタリアにおけるサッカー統計データ分析の先駆者の1人だ。今回は彼とともに、各年代のイタリア代表で統計データがどのように活用されているかを掘り下げた。
IDP(危険度指数)とは?
攻撃の危険度を客観的に測定するもの。IDPとxGの評価には近似性がある
──アントニオ、以前、マウリツィオ・ビシディとのインタビューの中で、あなた方が開発した危険度指数(Indice Di Pericolosità=IDP)についての話が出ました。この指標について教えてもらえますか。
「ビシディが考案し、私とマルコ・スカルパが共同で開発したものです。大元になる考え方は、『どちらのチームが勝利に値したのか』という問いに答えるために、攻撃の危険度を客観的に測定する、というものです。
どんなスポーツにおいても、結果を規定するのは得点です。もちろんそれはサッカーでも変わりません。しかしゴールというのは非常に発生頻度の低いイベントであり、チームのパフォーマンスをより深く理解するためには、ゴールの数を考慮するだけでは不十分です。そこでまずは決定機、すなわちGKの前でフリーになった選手にボールが渡った状況を数えるようになりました。そこから始まって、ラスト30mで起こった一連のイベントを拾い出し、そのそれぞれを評価して点数をつけるという方法を確立していきました。そうして生まれたのがIDP です。
これは言ってみれば、アマチュアボクシングのポイント制のようなアプローチでサッカーチームのパフォーマンスを評価する仕組みです。アマチュアボクシングでは、当たったパンチすべてについて審判が評点をつけてそれを積み上げていきますよね。IDPも、1試合の中でゴールに結びつき得るすべてのイベントを拾い出し、そのそれぞれにポイントをつけていきます。試合が終わった時点でそのポイントを比較すれば、それぞれのチームの攻撃がどれだけ効果的だったかを評価することができます。
当初は、A代表の試合においてすべてのイベントを手作業で拾い出しタグづけしていました。そして2014年からはSICS(イタリアのデータ分析会社)が我われのモデルを使ってセリエA、セリエBの全試合のデータを収集するようになりました。それを通してわかったのは、このモデルが導き出したデータとリーグ戦の最終結果に密接な連関があることでした。それは、私たちが当初設定した問いが正しかったことを示す最初の答えになりました」
──我われが使っているゴール期待値(xG)と同じタイプの連関ですね。
「IDPとxGが、違う出発点からスタートしているにもかかわらず、ほとんど同じ結論に到達することは確認済みです。xGは位置情報をベースに算出されており、より堅固な数学的モデルに基づいています。IDPは、主観的でありながらもより高い精度でプレー状況を評価するモデルであり、xGと比べるとより戦術との関連性が深い。例えばIDPでは、シュートで終わらなかったプレーも評価の対象になっています。いずれにしても、xGとの一致は、IDPをゼロから開発した我われにとってその仕事の正しさを立証してくれる大きな材料になっています。
さらに言えば、我われのモデルの正しさを立証してくれる統計データは他にも複数あります。例えば、1ゴールあたりのIDPは30 ~33ポイントという平均値に収束しています。これはどのリーグでも、またどのシーズンでも変わりません。もちろん、チームの攻撃力による偏差は存在します。決定率が高い、あるいは強力なストライカーを擁するチームは、1ゴールを挙げるのにIDPが20ポイントもあれば十分です。一方、順位表の下の方には1ゴールに45ポイントを必要とするチームもあります。しかしこの20から45という偏差も、リーグやシーズンにかかわらず一定です。
IDPのモデルは時間とともに精緻化されてきています。当初、それぞれのイベントに対する評点は、我われの経験に基づいて主観的に決められたものでしたが、ある時点で過去のデータに基づいてそれを計算し直しました。さらに、セットプレーについてもIDPのデータを収集するようになりました。現在FIGCでは、アンダー世代のすべての代表チームについて、自前でデータを収集する体制が確立されています。一方セリエAとセリエB、そしてA代表、U-21代表、そして女子代表については外部の会社に依頼しています」
──IDPはあなたたちの仕事にとってどのような助けになっていますか。個々のプレーヤーのパフォーマンス向上にはどのくらい役立つのでしょうか。
「FIGC育成年代統括コーディネーターのビシディは、U-15からU-21まで各年代にわたって年間およそ100試合をチェックしています。すべての試合をライブで見ることはできないので、見ていない試合については、ビデオアナリシスとデータ分析に基づく我われの戦術レポートを参照します。いずれにしても、データは我われの主観的な分析と評価をサポートするものという位置づけです。それはコーディネーターや私だけでなく、チームを率いる監督たちにとっても同じです。
IDPはチームのコレクティブなパフォーマンスを評価する指標です。xGからはプレーヤー個人のパフォーマンスを読み取ることもできますが、IDPはチームがコレクティブに決定機を作り出すプロセスに注目し評価するものです。監督たちはチームとデータを共有することを通じて、アクティブに戦うことの重要性を彼らに示します。より多くのIDPポイントを生み出せば、長期的に見て試合に勝つ確率を高めることができるからです。
個の成長という観点について、我われはもう1つ別のモデルを開発しました。これはキーパス、つまり敵守備ラインを越えたパスをカウントするものです。もともとの発想は、パスの数をカウントするのではなく、その有効性を測定することが必要だというものでした。敵のプレッシャーラインを越える縦パスは、他のいかなるパスとも異なる価値を持っています。これはトップ下がFWに送り込むスルーパスだけに当てはまる話ではありません。DFが2ライン間にいるトップ下に送り込む縦パスもまた、同じかそれ以上の重要性を持っています。これは個々のプレーヤーの成長にとっても大きなインパクトをもたらします。キーパスをカウントすることによって、DFは自らの戦術理解度、プレー選択の能力、キックの精度を知り、向上させることができるのですから。
このツールは、タレントの発掘にとっても有効です。というのも、キーパスは我われが採用しているゲームモデルと深く連関しているからです。他の部分で欠点があったとしても、キーパスを数多く記録している選手がいれば、彼の欠点を修正するための特別なトレーニングを用意することはあっても、セレクションから外すことはないでしょう。彼が持っているタレントは我われにとってとても貴重であることは明らかだからです」
選手の成長への寄与
明確な数字が、プレーを磨く上での助けになっていることは間違いありません
──アンダー年代の選手は年齢にかかわらずすべて同じ基準で評価しているのですか。
「ええ。IDPのモデルと収集するデータはすべての年代の代表チームで共通です。マッチアナリシス部門は現在、各年代代表の試合を分析するスタッフ6人とフットサル代表専門のスタッフ1人で構成されています。国際コンペティションでは、他チームのデータも収集しています。U-21代表については外部の専門会社に外注しているので、データもさらに充実しています」
──代表選手についてはクラブでのパフォーマンスデータも記録しているのですか。
「現時点では行っていませんが、できればいいなとは思っています。この種のデータ収集を行っている会社は、今のところ存在していません。現時点でも議論の対象になってはいますが、作業を受託してくれる会社が必要です。我われ自身が、U-17年代のリーグ戦のデータをすべて収集することは絶対に不可能ですからね。クラブサイドの了承も必要ですが、彼らにもデータが手に入るというメリットがあるわけですから。現時点で、育成年代チームのデータを収集・分析しているのはユベントス、ミラン、ローマくらいです。
女子サッカーのセリエAでもデータが収集できればいいと思っています。代表選手のクラブにおけるパフォーマンスをチェックできるだけでなく、新しいタレントの発掘にも役立ちますからね」
──他国の育成年代代表がデータ分析をより積極的に導入している印象はありますか。
「そういう印象はありませんね。ドイツではデータに大きな注意が払われていることは知っています。DFBにはデータ収集・分析専門の部署がありますから、間違いなくこの観点から見れば我われよりも進んでいると思います。特にA代表についてはそうですね。ただ、U-15からU-21までの育成年代についても我われと同じレベルの取り組みがされているかどうかはわかりません」
──我われ『ウルティモ・ウオモ』のインタビューでアレッサンドロ・バストーニ(インテルDF/現イタリアU-21代表)が、U-19代表で統計データがどのように活用されているかを話してくれました。こうした形で成長のサポートを受けた選手たちのうち、向こう数年間にA代表で活躍できるタレントはどのくらいいるのでしょう。
「バストーニは、過去3 シーズンに最も多くのキーパスを記録したDFです。この明確な数字が、彼が自らのプレーを磨く上での助けになっていることは間違いありません。我われは、彼が遠からずA代表でも活躍できるポテンシャルを持っていると評価しています。
より一般的に言うと、月に1回しか招集できない選手に対して、我われの仕事がどれだけのインパクトを持っているかを評価するのは簡単ではありません。幸いにも我われのコーディネーターはこの仕事の有効性を強く信じており、ほとんどのクラブが手をつけていない育成年代のパフォーマンス分析を、代表レベルで行う体制を作ってくれています」
マッチアナリストの役割
対戦相手の分析はビデオの準備が9割。統計データは、敵よりも自チームに焦点が当たる
──A代表のマッチアナリストとしては、どのようなミッションが課されているのでしょう。A代表の試合がある時の作業スケジュールを教えてください。
「私のミッションは、トップクラブのマッチアナリストに課されるそれと変わりません。つまり、味方と敵の双方について、ピッチ上で起こるすべてに関する客観的なデータを収集・分析するというものです。客観的なデータ分析というのは、具体的には次のようなことを指します。技術よりもチーム戦術にフォーカスしたビデオ分析、そして統計データに基づくレポート。
マッチアナリストの仕事は、その90%がチームに提供するための戦術分析ビデオの準備、そして10%が統計データの分析に充てられます。これはA 代表でも、ヨーロッパのメガクラブでも同じだと思います。次の試合を準備するために、マッチアナリストは対戦相手の直近5試合から10試合をチェックし、分析ビデオを作成します。そこには、どのように攻撃をビルドアップするか、どのように敵陣にボールを運び、どこからどのようにフィニッシュを狙うか、最も危険な選手は誰で、チームとしての長所はどこにあるかが、簡潔に整理されます。
守備の局面に関してもそれは変わりません。どのようにプレスを仕掛けてくるか、SBはどのように前に出てくるか、我われのゲームメイカーを誰がどのようにマークするか。そしてとりわけ、敵の守備の弱点がどこにあり、どのように攻略すべきかを特定するのが、マッチアナリストの重要な仕事です。その場合にはとりわけ、我われと同じシステムで戦う相手との対戦に注目することが重要です。最近の例を1つ挙げると、オランダについては、彼らの[3-5-2]を我われの[4-3-3]とどのように噛み合わせてくるのかに焦点を合わせて分析しました。
そして試合が終われば、今度はタクティカルアングルから撮影したビデオをもとにした自チームのパフォーマンス分析を行います。技術的なディテールを認識するのは難しいアングルですが、コレクティブな振る舞いを見るには最適です。
自チームのパフォーマンス分析においては、監督とマッチアナリストの立場は逆転します。試合前にはマッチアナリストの意見が非常に重要です。これはスタッフ全員の中で対戦相手を最もよく知る立場にあるからです。しかし試合後は、監督がチームのパフォーマンスをどう考えどう受け取ったかの方に重点が置かれます。監督はチーム、そして個々のプレーヤーの心理状態を誰よりもよく把握しているので、単に分析的な視点で見るよりも広い視点からプレー状況を解釈することができます。
統計データに関しては、敵のパフォーマンスよりも自チームのそれに焦点が当たります。対戦相手の分析はビデオアナリシスとプレーヤー分析だけでも、ゲームプランを準備するには十分ですが、我われのチームのパフォーマンスに関しては、より詳細に掘り下げる必要があります。統計データを使えば、ピッチ上で何が起こっていたのかをよりよく理解することができます。例えば、この試合では敵陣でのボール奪取が11回あったけれど、これは従来の平均値18と比べて明らかに低い数字だ、というふうにね」
──マッチアナリストの仕事にとって、試合前の分析ではビデオ、試合後の分析では統計データが中心になるというのは、常にそうなのでしょうか。
「一言で言えば、答えはイエスです。もちろん、その時々の事情に左右される部分はありますが。ビッグクラブの監督の中には、対戦相手を詳細に研究しながらその内容をチームにはまったく開示しない人も少なくありません。メンタルな側面はここにも関わってきます。対戦相手のビデオは見せない、それは自分たちの方が上であり、相手がどうであろうと自分たちの試合をするからだ、という理屈です。しかし実際のところ彼らのスタッフは対戦相手を非常に深く分析しており、その結果に従ってSBには誰を起用してどういうタスクを与えるか、インサイドMFはどのようなポジショニングを取るかといった戦術のディテールを決めているのです。
このタイプの監督は、必ず自チームのビデオを選手たちに見せます。ゲームモデルは継続的に進化し、完成度を高めていかなければならないからです。それゆえ、ビデオを通して現時点でのパフォーマンスの長所と欠点を共有し、そこからさらに改善し向上すべきポイントを提示していくというアプローチが取られます」
──あなたの仕事のプロトコルは、監督には左右されないのでしょうか。
「それはされません。私のプロトコルは常に一定です。例えば、対戦相手の選手1人ひとりについての統計データをまとめたレポートは、プランデッリ監督の就任に合わせて私が今の仕事に就いた時から、監督が代わっても現在までずっと作り続けています。
しかし監督によって要請されるものは違いますし、私も監督の戦術的な考え方に対応する必要があります。具体的には、ビデオのプレゼンの仕方やレポートの内容ですね。ビデオをデータよりも重視する監督もいれば、次の試合に向けたミーティングを1回やるのではなく、毎日のトレーニングに合わせて分割することを望む監督もいます。
典型的な1週間のスケジュールで言うと、火曜日には監督に対戦相手がどのように守るのかをまとめたビデオを見せ、それに対応した攻撃のトレーニングメニュー作成の参考にします。続いて木曜日に向けて守備のトレーニングメニューを準備するために、相手がどう攻撃するかをまとめたビデオを用意します。
高い位置からプレッシャーをかけて敵陣でボールを奪うために、敵のビルドアップだけをまとめたビデオを求める監督もいますし、裏のスペースをどのタイミングでアタックするかを決めるために、敵最終ラインがFWの動きにどう対応するかをまとめたビデオを求める監督もいます。ラインを上げようとするならば裏のスペースを突くことを考えますし、ラインを下げる傾向があるならば2ライン間に戻ったFWに当てる方が有効です。とはいえ、私の仕事のベースは常に一定です」
マッチアナリシスの未来
ホログラムやVRが活用されるようになるデータサイエンティストという新たな仕事
──選手たちはどうですか? 自分のプレーをビデオで分析したり、敵のプレーデータを参照したりする機会をどのように受け止めていますか。
「ほぼ全員が自分のプレーを分析したビデオを求めますね。特にDF、加えて何人かのMFは敵アタッカーの分析にも大きな注意を向けています。
全体的な傾向として、アタッカーはそれほどこの側面に注意を払いません。ポジションによって、ピッチ上の振る舞いや認識には違いがあると思います。アタッカーは自分の才能とテクニックによってピッチ上の状況を解決できると考えている。反対にDFやMFはコレクティブな側面により敏感です。幸運なことに、自分が一発決めてやるという反射的な本能は、特にアタッカーにとっては根本的な重要性を持ち続けるでしょう。他のポジションの選手たちに関しては、戦術的な文脈を分析し理解するプロセスはますます重要になると思います。最後のところでは本能や直観に従って決定機を作り出しそれを決めるとしても、そこに至るまでの過程においては、状況を読み取り、冷静に評価・判断する能力を磨くことが、どんなチームにとっても不可欠です。
A代表では、ユベントスのDFたちがこの側面に最も大きな注意を払っています。おそらくそれは、ある種のトレーニングメソッドに慣れているからでしょう。若い選手たちに、対戦相手や自分たちのパフォーマンスを研究・分析することの重要性を最も強く説いているのも彼らです。彼らが示す模範は、欧州カップ戦に出場しないようなクラブでプレーしている、経験の浅い選手たちにとってはすべてと言っていいほど重要です。トップレベルの選手が、自由時間を対戦相手のビデオを見たり分析レポートを読むことに費やしているのを目の当たりにするわけですから」
──FIGCという立場から客観的に見て、イタリアのクラブの状況はどうですか。セリエAのほとんどのクラブはマッチアナリストをスタッフに加えているのでしょうか。
「イタリアの状況はそれほど悪くはありません。FIGCもここ数年、ある種の変化を後押ししてきました。ユベントス、インテル、ローマといったトップクラブは、ヨーロッパのライバルたちと比べても遜色ない体制を整えています。
しかし全体の平均レベルはまだまだ上がる余地を残しています。マッチアナリシスの体制を十分に整えているクラブは、まだそれほど多くない。イングランドでは17–18シーズンに降格したストークですら、トッテナムやマンチェスター・シティと変わらないレベルのマッチアナリシス部隊を持っていました。イタリアでは、最もイングランドのレベルに近いユベントスの体制は、中堅以下のクラブのそれとは大きな差があります。
トップクラブを除く大半のクラブは、監督のスタッフにマッチアナリストが加わっています。それは監督たちがその重要性を認識しているからです。それが不足しているのは、クラブのマネージメントレベルです。バイエルンは2017年だけで200万ユーロをマッチアナリシス部門に投資しました。イタリアで最も多くを投資しているクラブでも、おそらくその10分の1程度の数字でしょう。
無視するわけにいかないのは、クラブのマネージメントレベルで人事の継続性が低くなっていることです。以前なら、ゼネラルディレクター(GD)やスポーツディレクター(SD)は5年、10年同じクラブで仕事をしたものでした。しかし今日のGDは任期が短く、極端なケースでは5カ月や10カ月しか持ちません。そういう立場に置かれたGDは、マッチアナリシス部門や育成部門への投資に興味を持ちません。すべての資本をトップチームの強化に投下して、目先の結果を追求しなければならないからです。彼のキャリアを保証してくれるのはそれであって、長期的な視点に立ってクラブの体制を整えることではありません。マネージメントレベルで人の動きが少ないクラブがピッチ上でも安定して結果を残しているのは、決して偶然ではなく、彼らが蒔いた種を時を経て収穫しているからです。
マスコミの仕事は私たちの助けになります。『ウルティモ・ウオモ』の分析データを活用した戦術分析記事は、ある種のカルチャーを普及するのに役立っています。全国ネットのTV 局も同じような取り組みを始めれば、さらに大きな後押しになるのでしょうが」
──マッチアナリシスの未来をどう見ていますか。
「視覚的な側面はまだまだ向上するでしょう。近い将来、データをよりわかりやすくリアルに見せるために、ホログラムやVRが活用されるようになると思います。VRに関しては、イングランドでプロトタイプを見せてもらいました。イタリア代表にも導入するべく準備しています。
基本となる考え方は、選手たちが試合でのプレーを敵味方との距離感も含めて主観的に追体験できるようにすることで、認知と判断のプロセスを向上させようというものです。VRがもたらす学習効果は、ビデオと比べても明らかに優れています。
同時にマッチアナリストという仕事もさらに進化して、活動の場もオフィスからピッチにより近づくでしょう。ドイツの例を出して説明したように、分析とトレーニングの準備は、今後さらに統合されていくに違いないからです。
以前、イタリア代表ではどんなふうに仕事をしていたか、一例を挙げましょう。木曜日には、伝統的なやり方に従ってU–18とのトレーニングマッチを組んでいました。アンダーの監督には、次の試合はクロアチアとやるから同じ[4-3-3]でやってほしい、と要望するだけにとどまっていました。
しかしある時点から、U-18にクロアチアの分析ビデオを見せながら説明するようになりました。同じ[4-3-3]でも彼らのそれには特徴があったからです。右ウイングのペリシッチは頻繁に中に入って来る。当時のクロアチアは左サイドに本来セカンドトップのオリッチを、その背後のSBには非常に攻撃的なタイプを起用していました。つまり、U-18を一般的な[4-3-3]ではなく、クロアチアという特殊事例に合わせた[4-3-3]で戦うように準備したのです。こうした形での分析とトレーニングの統合は、今後さらに進んでいくでしょう。
データはもはやあらゆるレベルに入り込んできていますが、収集の方法は手動でのタグづけから、NBAのようにビデオトラッキングと統合されたシステムに変わっていくでしょう。具体的に言えば、毎秒24回のサンプリングによって取得される位置情報とイベント単位のタグづけによるテクニカルな情報が統合されるということです。この統合によって新しいタイプのデータ、例えば距離を基準とするデータが出てくるでしょう。ゲーゲンプレッシングやダブルマーク、スペースを作り出すためのフリーランなどが定量的に計測・評価できるようになるはずです。
データ収集方法の革新は、客観的なデータと主観的な戦術評価との統合にも繋がっていくでしょう。当然の結果として、試合分析、対戦相手分析、個人のプレー分析、そしてスカウティング、すべての領域でデータの重要性が高まっていく。
この分析データの進化は、マッチアナリストの仕事の領域も変化させるはずです。マッチアナリストはビデオ分析を中心とする戦術分析に特化すると同時に、アナリシス部門を統括する立場になる一方で、統計データの分析を専門に扱うデータサイエンティストというより専門性の高い仕事が新たに発生してきます。すでにイングランドではそういう流れになっています。これに適応できなければ、この世界で生きて行くことは難しくなるでしょうね。データの積極的な活用をサポートしようとしない、あるいは妨害するようなタイプのディレクターたちは、今や絶滅が確定した恐竜のような存在だと言うべきでしょう」
Interview & Text: Alfredo Giacobbe
Translation: Michio Katano
Photos: Getty Images
Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。