かつてはプレミアで14ゴールも、その後は……
8月9日、ベルギーリーグのズルテ・ワレヘムは、ブルンジ代表FWサイド・ベラヒノの獲得を発表した。
ブルンジ出身のベラヒノは、10歳の時にイングランドへ渡り、ウェストブロムウィッチの下部組織でプレー。U-21イングランド代表では、ハリー・ケインよりも得点数が多く、将来のイングランドを背負って立つ選手と期待された。そのトッテナムへの移籍話も浮上し、ケインとの2トップも期待されたが、交渉は上手くいかず、移籍は実現しなかった。
ベラヒノは、2014-15シーズンにプレミアリーグでキャリアハイの14得点を決めた。ステップアップを狙い移籍を志願するが、トッテナム移籍は破談に。2度のオファーを断ったクラブとの関係が悪化し、さらに度重なる練習遅刻などピッチ外での素行も悪化していき、パフォーマンスは低迷。16-17シーズン前半戦は出場4試合にとどまり、1月にストーク・シティへ1000万ポンド(約14億1000万円)で売却された。
新天地のストークでも活躍できず、17-18シーズンにはチームは2部へ降格。今年2月13日には、ロンドンのウェストエンドでの警察の検問により、法定限度の3倍のアルコールが検出され、飲酒運転で逮捕された。5月の裁判では75000ポンド(約958万円)の罰金と30カ月の免許取消処分が下された。飲酒運転の発覚により、トップチームのメンバーからも外され、契約が2022年まで残されていたが、構想外となってしまった。
新天地を率いる「名伯楽」は元警察官
6月から行われていたアフリカネーションズカップに、ブルンジ代表の一員として出場したベラヒノは、3戦全敗で敗退後、所属元のストークへは戻らず、ベルギーのズルテ・ワレヘムの練習に参加した。8月3日にストークが契約解除を発表し、約1週間後にズルテ・ワレヘムへ移籍金なしで加入することが決まった。
ベラヒノの新天地となるズルテ・ワレヘムは、昨シーズンは11位で、近年はベルギーリーグの中位を定位置としている。「エッセフェー」の愛称で親しまれるクラブは、2001年にズルテセVVとKSVワレヘムの合併によって誕生。年間予算1500万ユーロ(約18億円)でベルギーでも中位の財政規模でありながら、2006年の1部昇格以来、ベルギーカップ優勝2回、プレーオフ1は5回進出、12-13シーズンの2位が最高順位と、ダークホースとしての位置付けである。
そんなチームを率いるフランキー・デュリー監督(62歳)は、プロ選手としてのキャリアはないものの、1990年に、前身の1つであるズルテセVVを率い、ヘントやベルギー代表のコーチなどでチームを離れた3年間を除き、30年近くチームの指揮を取っている。2007年までベルギー連邦警察に勤務しながら、選手、指導者として活動していた異色のキャリアの持ち主だ。就任した当時は5部所属だったチームを1部に定着するチームに成長させ、2011年には降格危機に陥っていたクラブのために、U-21代表監督を辞任してまで復帰するなど、エッセフェーには欠かせないクラブの象徴として親しまれる。
12-13シーズンには、当時チェルシーから期限付き移籍で加わったFWトルガン・アザール(現ドルトムント)を擁し、アンデルレヒトとデッドヒートを演じ、プレーオフ1最終節の直接対決まで、優勝争いを演じた。2013年にローマに引き抜かれたルディ・ガルシアの後釜として、リールの新監督のオファーを受けるが、クラブと10年契約を結んでいる。ホームのズルテ市とワレヘム市をあわせて5万弱の地方都市のクラブの躍進を支え、2度のベルギーリーグ最優秀監督を受賞。両市の名誉市民として讃えられている。
元警察官と問題児、関係は良好
ズルテ・ワレヘムの公式のSNSアカウントには、ウェストブロムウィッチ、ストークのサポーターを始め、ベラヒノ獲得に対して多数の辛辣なコメントが寄せられている。
しかし、ベラヒノとデュリーは、お互いをリスペクトしているという。デュリーは「サイドの獲得は私がリクエストしたもの。彼の過去のことなど気にしない。選手の評価とは、人の話を聞いて決めるものではなく、自分の目で見て決めるものだ。私からしたら、パワーもテクニックも優れて大好きな選手だよ。彼とは1時間面談したが、素晴らしいメンタリティを持っている。プレミアリーグへ復帰できるように手助けしたい」と信頼を寄せている。
ベラヒノも「イングランドを去るまで、ズルテ・ワレヘムのことは知らなかった。しかし、(ウェストブロムでチームメートだったロメル・)ルカクを通じてデュリーの評判を聞いて、練習に参加することにした。再びトップレベルで戦うためにも、キャリアを再構築したい」と話した。
ベルギーリーグデビュー戦となった第3節では、先発出場したベラヒノは、77分に左足からのミドルシュートを決めて、前年優勝のヘンクから2-0の勝利を奪い取る立役者となった。ズルテ・ワレヘムは、昨シーズン得点王のハムディ・ハルバウィ、14得点のテオ・ボンゴンダら主力4人を放出し、攻撃力低下が懸念される難しい状況で、開幕2試合無得点スタートだったが、ベラヒノの活躍が今後のチーム成績に大きく関与していくだろう。復活に期待したい。
Photos : Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。