18-19 Playback For The Coming Season#6
8月に入り、5大リーグ開幕の足音が近づいてきた。プレシーズンマッチを重ねチーム作りを進めている各クラブは、順調に歩みを進められているのか。その進捗を測るうえでは、昨シーズンのチームが抱えていた課題を正確に把握しておくことが欠かせない。
この昨シーズンの振り返り記事で課題を再確認することで、来たる19-20シーズンに向けた準備は的を射ているのか、的外れになってしまってはいないか、判断する手がかりにしてほしい。
SCHALKE | シャルケ
シャルケ失墜の歴史は今回が初めてではない。18-19のように2位でフィニッシュした翌シーズンに14位まで急降下するというのは、09-10→10-11とまったく同じである。ただ、当時はCLでクラブ史上初となるベスト4進出を果たしたため、今回ほど風当たりは強くはなかった。ドメニコ・テデスコ政権1年目の17-18にいきなりリーグ2位。シャルケには輝かしい未来が待っていると、ファンの誰もが期待に胸を高鳴らせていた。だが18-19、国内では序盤から何一つかみ合わないまま低迷。CLでは何とかGSを突破したものの、ラウンド16でマンチェスター・シティに2戦合計10点を奪われ惨敗。失望のシーズンとなった。
その要因の一つに、プレースタイル変更の失敗が挙げられる。2位になった17-18のシャルケは良くも悪くも、“相手のサッカーを壊す”ところがストロングポイントだった。守備では圧倒的な運動量と緻密な戦術で相手の攻撃を抑え込み、攻撃では競り合いに強いCFへのロングボールで相手のプレスを回避。ルーズボール化もいとわず強引に敵陣へ侵入する形で得点の確率は高くはないが、とにかく失点の危険性を回避し続ける。ただ、好成績には繋がったがアンチフットボールと揶揄(やゆ)されることも少なくなかった。
だからだろうか。テデスコは2季目に向け、次のステップに進もうとビルドアップからのチャンスメイクへの取り組みを図った。バイエルンからドイツ代表MFルディを獲得し、チームの中心に据えようとしたのはそのためだ。だが、相手をマイナス化していくサッカーの中で、選手たちは十分な成長を遂げることができていなかった。ルディがボールを持っても他の選手のサポートがないので、パスを回そうにもすぐにボールの出口を見失い、逆にそこを狙われて相手にカウンターをやすやすと許してしまう。気がつくとルディは戦犯扱いされ、ベンチにいる時間ばかリが増えていくという悪循環に陥ってしまった。
また、テデスコがやろうとするサッカーとクリスティアン・ハイデル元SDが連れて来る選手のクオリティにも隔たりがあった。チーム力を底上げできる補強はされず、「将来性」という言葉で修飾された選手ばかりが獲得される。飛び抜けた選手がいるわけではないのに、チーム一丸となれていたわけでもない。ドイツメディアはモロッコ代表アミヌ・アリ、アルジェリア代表ナビル・ベンタレブらがチームの規律を乱していた点を問題視していたが、クラブがテデスコの負担を軽減するために手を打つこともされないまま。結局、すべてが後手に回ってしまった。
19-20に巻き返しを図るべく、新監督にデイビッド・バーグナーを迎え入れた。期待値は高い。だが、シャルケにとってまず大事なのは基盤作りだ。すぐに結果を求めるのではなく、自分たちのサッカーを整理して、ぶれないビジョンを持つ。2、3年かけて、常に上位を狙えるような戦力の底上げを図ることが求められるのではないだろうか。
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。