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エドガー・ダービッツ。職人を支える「水を運ぶ人」の価値

2019.08.07

ジネディーヌ・ジダンと競り合うユベントス時代のエドガー・ダービッツ

戦術で読み解くレジェンドの凄み #4

過去から現在に至るまで、サッカーの歴史を作り上げてきたレジェンドたち。観る者の想像を凌駕するプレーで記憶に刻まれる名手の凄みを、日々アップデートされる現代戦術の観点からあらためて読み解く。

第4回は、無尽蔵のスタミナでフィールド全体をカバーし、強靭なフィジカルと類稀なスピードを活かしたボールハントで鮮烈な印象を残したエドガー・ダービッツ。その特徴を前面に押し出し全盛期を過ごしたユベントス時代と、「異質」として輝いた姿が現代サッカーにも繋がるバルセロナやオランダ代表時代、2つの顔をプレイバックする。

アヤックス、オランダ産の「異質」

 アヤックスのユース出身。オランダサッカーの象徴とも言えるアヤックスでデビューしたエドガー・ダービッツだが、そのプレースタイルはアヤックスあるいはオランダ代表としては異質だった。

 168cmと小柄だが、ラグビー選手のようなガッシリとした体格。フィジカルコンタクトの強さ、スピード、運動量は抜群、テクニックもしっかりしていたがテクニシャンというタイプではない。華麗なパスワークのアヤックスやオランダの選手たちの中では、むしろ珍しいタイプである。

 1991-92シーズン、アヤックスでプロデビュー。1994-95シーズンには、20歳にしてミランを下しCL優勝を経験した。その後セリエAのミラン、ユベントスと移籍。彼の全盛期がいつかと言われれば、このユベントス時代になるだろう。

 2005年1月に半年間の期限付きで加入したバルセロナでは、低迷していたチームを急浮上させる立役者となった。この時のバルサはロナウジーニョの活躍が鮮烈な印象を残しているが、戦術的にはダービッツのハードワークが大きかった。

バルセロナ時代、当時セビージャに所属していたダニエウ・アウベスからボールを奪取するダービッツ

 オランダ代表には1994年にデビュー、1998年フランスワールドカップではベスト4進出に貢献している。しかし、2002年日韓ワールドカップはチームが予選敗退で本大会へ出場できず。次の2006年ドイツ大会では当初キャプテンに指名されていたが、所属のインテルでの出場機会減少が影響して最終メンバーには入れなかった。

 アヤックス、バルセロナ、そしてオランダ代表でのダービッツは他の選手とは違う個性の持ち主で異質だったわけだが、そのためにチームの潤滑剤としてうまく機能していたとも言える。自陣から敵陣までをダイナミックに広くカバーするプレースタイルは、イングランドのボックス・トゥ・ボックス型のMFであり、それがパスゲーム志向の強いチームに力強さと推進力をもたらしていた。

 こうした異質の選手がチームを機能させる例はダービッツだけではない。1970年代の西ドイツでは、屈強な選手たちがそろったチームの中で1人だけ南米選手のようなフランツ・ベッケンバウアーが落ち着きとヒラメキを与えていたし、1986年メキシコワールドカップに優勝したアルゼンチンでは、ハードワーカーの集団の中でディエゴ・マラドーナだけが特別で異質だった。他の選手と異質の個性、才能が、チームカラーの中でアクセントになるわけだ。

ハードワークの価値

 ダービッツはいわゆる「水を運ぶ人」だ。

 ヨーロッパの徒弟制度において、「水を運ぶ人」は主役ではない。運んで来た水を使うのはマイスターの仕事だった。煉瓦職人なら、実際に煉瓦を積むのは親方など専門職人の仕事だった。「水を運ぶ人」は下働きをするわけだが、川や井戸へ水を汲みに行って何度も運ぶのは重労働で、それなしには作業ができないことを考えると不可欠な仕事だったのは間違いない。水を運ぶこと自体は誰にでもできるかもしれない。しかし、特殊技能者であるマイスターが水まで汲んでいたのでは、とてもではないが作業ははかどらないのだ。水を運ぶ重労働は縁の下の力持ちであり、マイスターと「水を運ぶ人」はどちらも欠かせなかった。

 アヤックス、バルセロナ、オランダ代表はいずれもマイスター集団だった。戦術的にも同系統の3チームでもある。それだけに、マイスターたちを繋ぐダービッツの存在は貴重だった。マイスターが多いほど、「水を運ぶ人」の価値も増すわけだ。

フランスワールドカップの準々決勝アルゼンチン戦でのダービッツ

 一方、ユベントスはその点で少し事情が違った。マルチェロ・リッピ監督が率いたユベントスは徹底したハードワークのチームだった。ほぼ全員に水を運ぶ仕事も求められていて、ダービッツはその中心としての居場所が用意されていた。チームカラーとの相性では、ユベントスこそがピッタリだ。ただし、ユーベはハードワークのスタイルだったが、ジネディーヌ・ジダン、アレッサンドロ・デル・ピエという例外的なマイスターもプレーしている。ハードワークだけで強力なチームができるわけではなく、技巧とインスピレーションで「違い」を作れる存在も必要である。ハードワークをベースにしたチームだけに、天才的なマイスターへの依存度も高くなる。そこで、単に1人分の仕事を忠実にこなすだけでなく、2人分の仕事量でマイスターを支えられるダービッツのような選手もまた必要だった。

歴史は繰り返す:ポゼッションスタイルの“救世主”

 現在、「違い」を作れる選手と言えばバルセロナにおけるリオネル・メッシだろう。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタらの下部組織育ちの仲間との連係、バックアップを得て、メッシが才能を爆発させていた時期のバルセロナはサッカー史上でも例外的なスーパーチームだった。何もかもうまく機能していて、かつ圧倒的な実力差がある時には、ダービッツのようなタイプは時に必要とはされない。しかし、どんなチームにもサイクルがある。ピークを過ぎれば下り坂に差しかかかる。他のチームもさまざまな対策を講じ、その差も次第に小さくなっていく。

 シャビもイニエスタもいなくなったバルセロナは、メッシへの依存度が増した。メッシにはそれまで以上に「違い」を作ってもらわなくてはならないので、メッシの守備を軽減するようになっていった。エルネスト・バルベルデ監督は、それまで使ったことのない[4-4-2]システムへついに舵を切っている。メッシの起用法としては、2トップで前線に残しておくのが最も無理がないからだ。しかし、そうなるとMFにはシャビやイニエスタのようなクリエイティブな選手ばかりでなく、「水を運ぶ人」が必要になってきた。2017-18シーズンに所属したパウリーニョや現在プレーしているアルトゥーロ・ビダルは、シャビやイニエスタとはまったくタイプの違うハードワーカーで、それまでのバルセロナにはあまりいない選手である。ダービッツと似た彼らの活躍は、ある意味バルセロナがピークを過ぎてしまった証と言えるかもしれない。

 ダービッツが活躍したオランダ代表も過渡期だった。1998年ワールドカップでオレンジ軍団を率いていたのはフース・ヒディンク監督である。ヒディンクはアヤックスの監督ではなく、80年代の新興勢力であるPSVにCLの前身であるチャンピオンズカップ優勝をもたらして名を上げた人物だった。オランダの本流であるアヤックスのスタイルとは異なり、もっと守備とハードワークに重きを置く堅実なサッカーである。ヒディンク監督にはオランダらしさもあるとはいえ、より現実的な方向へシフトしてベスト4の結果を出した。システムもアヤックス流の[4-3-3]または[3-4-3]ではなく[4-4-2]に近かった。

 ヒディンク監督の後、アヤックス型への揺り戻しが起こる。再びピークを作ろうという流れの中で、ダービッツは次第に居場所を失っていくことになる。一方、ヨーロッパのサッカー自体がハードワークの徹底が重視されるようになり、ダービッツ系のハードワーカーが量産されていった。それだけが原因ではないにしても、ダービッツの希少価値は薄れ、競争力を失っていった面はあったかもしれない。

 誰に対しても自分の意見をはっきり言うのはオランダ人の特徴だ。そのためにオランダ代表は内部分裂がしょっちゅう起きていた。ダービッツも所属クラブでの諍いがしばしばで、全盛期を築いたユベントスでもリッピ監督と対立している。これもキャリア形成のうえでマイナスに働いた感は否めない。

 ただ、ダービッツのような選手は常に必要とされる。「違い」を作れる才能は貴重だが、例えばドリブルで敵を粉砕してゴールを決めるのは、90分間のうちの数分に過ぎない。才能が輝くのは数秒かもしれないし、場合によってはゼロかもしれない。90分間のほとんどはチームのために働くこと、「水を運ぶ」ことに費やされる。そうでなければ現代サッカーはもはや機能しないし、強力なチームどころか勝負の土台すら作れない。1分だけ仕事をして、あとは人任せという流儀はもはや通用しないのだ。バルセロナにしても、桁違いの得点を量産してくれるメッシだからこそ特例にできているが、年間20ゴール程度のストライカーなら、「水を運ぶ」仕事をやらなければいけない。その意味では、誰もがダービッツであることを求められている時代と言える。

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 スピード、スタミナ、フィジカルといった天与の才と、アヤックスで培った水準以上の技術を兼備。フィールド全域をカバーして「水を運び」マイスターを支えるエドガー・ダービッツが、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場する。

 「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい。

<商品情報>

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ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
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メーカー:セガゲームス

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Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images

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エドガー・ダービッツ戦術移籍

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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