プレミアリーグの18-19最優秀監督には、マンチェスター・シティを連覇に導いたグアルディオラが選ばれた。ノミネートを受けた監督は、惜しくも2位に終わったリバプールのユルゲン・クロップ、トップ4の座を維持したトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ、ウォルバーハンプトンの7位躍進を実現したヌーノ・エスピリト・サントを含む4名。だが、昨シーズンのプレミア監督として、カーディフのニール・ウォーノックを忘れてはいけない。
リーグ順位は、「惜しくも」降格の18位。開幕前には同じ昇格組でも残留は固いとされたウルブズとは違い、降格の最有力候補とみなされていた。リーグ最低記録(11ポイント)を更新しての断トツ最下位すら予想された。そのチームを最終節前週まで残留争いに留めたのがウォーノックだ。カーディフが見せた残留への執念は、グアルディオラのシティに見られた勝利への意欲と同様に特筆すべきものがあった。チームスピリットは、冬に新FWとなったはずのエミリアーノ・サラが契約直後に他界するショックにも萎えなかった。
持てる力を最大限に引き出すことにかけては、補強なしで優勝争いにも絡んだポチェッティーノと比べても遜色はない。引いて守るカーディフは、ソル・バンバが守備の要。ウォーノックは「ファン・ダイク以上のCB」と持ち上げたが、その実像はプレミア1年目の34歳だ。非力な攻撃陣でチーム3位タイのリーグ戦4得点を挙げたMFカラム・パターソンは、2年前まで右SBだった。それでも、昇格1年目に約150億円を補強に割いた19位フルアムよりひと月も長く残留を争い続けた。その背景には、クラブが短期合宿を提案した2月中旬の数日間を、サラの飛行機事故で命の尊さを思い知らされた選手たちに家族と過ごす時間として与え、心と体の充電を図った指揮官の配慮もあった。
自らのプレミア復帰は「あり得ない」
昨シーズン途中で70歳になった自身のバイタリティは、スマイルでも人気のクロップばりに健在だった。奮闘虚しく逆転負けした3月のチェルシー戦では、語らずしてユーモアも披露。試合後、終盤の2失点で不利な判定を下した審判団に歩み寄ると、ブーイングで同意するホーム観衆には笑顔の拍手で応えながら、“お叱りの視線”を浴びせ続けた。会見では「世界最高のリーグに世界最低の審判員」と口走り、FA(協会)の処分対象に。すると、クラウドファンディングで300万円近い罰金をカンパする動きが起こり、明らかなオフサイドからチェルシーの同点ゴールを決めたアスピリクエタも援助を誓った。
敵地でマンチェスター・ユナイテッドを下した最終節後には、「個人的にもプレミアでの最終戦だ」とのセンチな発言も。契約満了となる今季はカーディフで再び昇格を目指すが、自らのプレミア復帰は「あり得ない」という。集団を束ねる者としての情熱、手腕、人間味と、どれをとっても今季トップクラスだったウォーノックを、プレミア“最有終監督”として称えたい。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。