両親にとって重要だったのは「子供の幸せ」
「僕の経験からすると、親の期待は、どちらかといえば子供のパフォーマンスにネガティブな影響を与えると思う。子供たちからサッカーをプレーする喜びを奪ってしまうからね」
バイエルンでプレーする元スペイン代表のハビ・マルティネスが自身の幼少の頃を振り返えりながら、ドイツのスポーツ誌『ソクラテス』7月号の中の自身のコラムでそう綴っている。
10歳からスペイン国内でも屈指の育成アカデミーを要するオサスナでプレーしたハビ・マルティネスは、さまざまな保護者たちを見てきた。その中には、「将来の大金に目がくらんだ」人たちもいたという。ピッチの脇で子供のキャリアを計画し、プロになるんだと言い聞かせる人々……。
ハビ・マルティネスは、自分の両親がそういったグループに属さなかったことを思い出し、改めて感謝の気持ちを述べている。「僕の両親にとって、僕がプロになろうが、成功を収めてお金を稼ごうが、どうでも良かったんだよ。彼らにとって何よりも重要だったのは、僕自身が幸せだったかどうかなんだ」
子供のための評価軸「今日の試合は楽しめた?」
幼少時代から家族との結びつきが強いハビ・マルティネスにとって、幼少の頃は試合後に観戦に来てくれた母親に向かって行き、毎試合後にプレーの評価を聞くのが習慣だったという。マルティネスの母親は、その質問に答える代わりに、決まって同じ質問を返してきた――「今日の試合は、プレーを楽しめた?」。
彼が頷くと、ようやく母親は「そう。だったら、信じられないほど良いプレーをしたわね」と質問に答えてくれたと話す。子供たちのプレーが実際に良いか悪いかを評価するのではなく、自分の子供が好きなことを楽しめているのかどうかを確認していたのだ。
最後までプレーを楽しめた選手にチャンスはやって来る
このような経験から、ハビ・マルティネスは次のように自身の考えを説明した。多くの保護者たちは、自分の両親のように、子供の幸せそうな姿を見たいだけであり、どんなに才能があってもスポーツの世界で生きていける可能性は、本当に少ないことも理解している。そして、逆説的ではあるが、結局は最後までプレーを楽しめる選手だけにチャンスが与えられると言う。
「毎日、心から喜びながらサッカー場に向かえる選手だけが、文字通りボールを蹴り続けることができるんだ。そうして、アスリートとして生きていく夢を叶えるチャンスを手にするのさ」
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。