もうカルチョは男のものではない。アズーレの躍進に湧くイタリア
女子イタリア代表、W杯ベスト8入りでブームに
25日、フランスでの女子ワールドカップで決勝トーナメントに進出したイタリアは、中国を2-0で破り準々決勝に駒を進めた。試合後、モンペリエのホテルでは大勢のサポーターが選手たちを出迎え、チームとともに決勝トーナメントでは史上初となる1勝を祝った。
そして本国イタリアでも、“アズーレ(女子代表の愛称)”の活躍はブームにまで拡大している。
TV中継は国営放送『RAI』と衛星放送『スカイ・イタリア』が担当しているが、イタリアvs中国戦におけるRAIでのチャンネル占有率は35.7%に達した。視聴者数も推定で470万人に達しているのだという。RAIは複数のチャンネルを有しているが、イタリア戦の中継に充てられるのはメインとされる『RAI 1』。つまりマイナースポーツではなく、男子代表と同様の扱いになったということである。「1933年に(ファシスト政権の)ムッソリーニは女性にサッカーを禁止した。そこから考えると、RAI 1で中継されたことは画期的なのだ」という反応もネット上にあった。
そもそもイタリアでは「カルチョは男のスポーツ」だという考えが根強い。「スピードも遅く、当たりも緩く、技術的にも今ひとつの女子サッカーなどサッカーではない」という反応を示す人も少なくはなかったのだ。そんな偏見の中で、最後のW杯出場から20年近く不遇を味わう中で、育成部門は努力する。以前のニュースでも紹介させていただいた通り、資金力のある男子のプロクラブが女子チームを運営できるようにもなり、リーグは活況へと向かっている。今回のブームとアズーレの躍進は、そうした関係者の根強い努力が実っての結果だ。
世界のトレンド猛追、次なる目標はプロ化
試合内容を見ていても、リソースが限られた中で世界のトレンドに追いつこうとした努力は見て取れる。攻撃の切り替えが早く、サイドを広く使って縦へと積極的に推進。一方で守備も組織的かつ戦術的だ。男子サッカーの名将に学んだミレーラ・ベルトリーニ監督は、試合中の大胆な戦術変更で流れを変えて勝利をもぎ取ってきた。
「20年間、イタリアの女子サッカーは世界から遅れていた。ブームは歓迎だが、選手たちには責任感を必要以上に感じて欲しくはない。そもそも責任なんて選手たちにはないし」
女性選手として初めてFIGCの殿堂入りを果たしたカロリーナ・モラーチェは中国戦後、女性誌のインタビューにそう答えて選手たちの健闘をたたえていた。
そんなイタリア女子カルチョの次なる目標は、やはりプロ化の促進である。W杯8強入りを果たした国々の中で、プロないしはセミプロ契約が女子選手に制度化されていないのはイタリアただ1つだけ。選手の給与はアマチュアの基準に基づくものでイタリアサッカー選手協会(AIC)のダミアーノ・トンマージ会長は自身のツイートで「イタリアサッカー連盟(FIGC)はプロ化を! 今こそ投資の時だ」と訴えている。
Photos : Getty Images
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神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。