高校女子サッカー人口は39万人
女子サッカー界でアメリカは絶対的な女王だ。ワールドカップは全ての大会で3位以上の成績を残している。それどころか、2003年に導入された女子FIFAランクでトップ2から外れたことがない。
彼女たちの強さには理由がある。歴史や環境、予算や競技人口、どれを取ってもアメリカは群を抜いているのだ。では、なぜここまでの女子サッカー大国が誕生したのか。そのきっかけを作ったのは、1972年に成立されたTitle IX(タイトル・ナイン)という連邦法だ。この「教育法第9篇」は、連邦政府から助成を受ける教育機関での性差別を禁止する法律だ。これにより、学校でスポーツを始める女生徒が大幅に増えたのである。
米『CNN』によると、全米の高校の女子サッカー人口は、1971年には700名程度だった。それが法案をきっかけに、女子ワールドカップが初めて開催された1991年には12万人まで増加した。そして1999年の母国開催のW杯制覇で女子サッカー人気はさらに加速。2018年には39万人に達した。
そもそもの人口が違うので単純な比較は難しいが、日本の高校の女子サッカー部員数は1万人程度と言われている。アメリカは、いち早く女子サッカーへの投資を始めたこともあり、絶対数で他を圧倒しているのだ。
しかし他の国、特に欧州勢の成長も著しい。伝統的に女子サッカーが強い北欧勢に加えて、男子のサッカー大国が女子サッカーでも台頭してきている。その結果、今回のワールドカップのベスト8は、「アメリカ+欧州7チーム」という顔ぶれになった。それでもアメリカの女王の地位は揺るがない。そう言い切れるだけの勝負強さが彼女たちには備わっているのだ。
ピッチには才能、ピッチ外には容赦ないOG
先日、イングランド女子代表のフィル・ネビル監督は「グループステージの日本戦では選手たちが言い争ってくれた」と喜んだ。仲良しムードだけでは試合に勝てないので、「アメリカ代表のように」仲間同士で言い合える環境が必要と力説したのだ。
たしかにアメリカの女子サッカーの成熟ぶりは、元同代表のGKだったホープ・ソロの発言に象徴されている。今大会、『BBC』のコメンテーターや『ガーディアン』紙のコラムニストなどを務める彼女は、実に手厳しい発言を連発しているのだ。まるで古巣ユナイテッドに愛の鞭を振るうロイ・キーンのようである。
たとえば、アメリカのジル・エリス代表監督については「自分たちのミスを選手に見せて修正させない」と、同監督が選手に甘かったことを指摘。さらに事実上の決勝戦の呼び声が高い準々決勝のフランス戦に向けても、「もうどこもアメリカにひれ伏さない。アメリカが無敵じゃないことは証明されている」と警鐘を鳴らす。「アメリカを倒したいなら、アメリカのDFラインにプレスをかけること。DFラインの判断力やパス精度は良くない。不安定ね」と弱点まで明かしているのだ。
単純に「辛辣なコメント=サッカー文化の成熟」と決めつけることはできないが、スコットランド女子代表と比べると対照的なのだ。グループステージ最終戦、スコットランドはアルゼンチンを相手に残り15分間で3点差を追いつかれてしまった。同試合で86分まで選手交代をしなかったシェリー・カー監督は、疑問視こそされたが批判の的にはならなかった……。
ピッチ上には選りすぐりの才能、ピッチ外には容赦ないOG。ワールドカップ連覇へ“女王”に死角はない。
Photos : Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。