うっかり口を滑らせたサバティーニ
「プルガルがヘディングでゴールを決めたが、皆さんは期待していたかね? マークをしていたのは誰だ? ”我われ”の日本人だったのか?」
18日、ボローニャの練習場で行われた記者会見の席で、技術部門統括者のワルテル・サバティーニがそう口走った。コパ・アメリカのチリ対日本戦で先制点を決めたボローニャ所属のエリック・プルガルの違約金条項について質問が及んだ時、獲得が噂されていたシントトロイデンの日本代表DF冨安健洋のことについ言及してしまったのだ。
交渉中のところをうっかり口を滑らせたというわけだが、この記事では冨安の移籍の話題そのものより、サバティーニという人物にスポットを当てることにしたい。カルチョの世界を代表する敏腕マネージャーとして知られた人物で、国内外の若手タレントに目をつけブレークさせてきた。その彼が、ボローニャで強化部門をコーディネートする立場に就任したということが、ひとつの大きなニュースとなっていた。
たしかな目利きで引く手あまた
ラツィオではコラロフやリヒトシュタイナーを引っ張り、パレルモにいた時はパストーレやグリクらを発掘し、そして11年から6年間所属したローマではラメラにピャニッチ、アリソン、ナインゴランと、枚挙にいとまがないほど数多くの優秀な選手を見つけてきている。クラブの経営体質がなかなか改善しない中、ローマがUEFAファイナンシャル・フェアプレー制度への適応に成功したのは、この人が探し当てた選手をうまく売却し、利益に充てることができた部分が大きい。ダイヤの原石とも言える若手に対する目利きは確か。経営陣と意見が合わず1年で関係が終了したが、2017年から江蘇蘇寧とインテルの両方の強化統括も任されていた。ビッグクラブからも引きはあり、ローマへの復帰も噂になっていたほどだ。
それほどの人物を雇い入れたということが、ボローニャの野心を示している。就任から4年目を迎えるカナダ人資本家のジョーイ・サプート会長は「クオリティを引き上げる時がきた。これからは常に順位表の左側(10位以上)にいることを目標とする」と、投資とさらなる強化を明言した。つまり残留できれば満足、という地方クラブの座に甘えないこと。そのための頭脳として「カルチョにおける伝説的な人物」と評価するサバティーニを口説き落としたのである。そのサバティーニは18日の会見で「『伝説』という評価は寛大すぎる」と語りつつ、「ここには素晴らしく統制された組織がある。将来への好循環を作り出し、欧州を目指せるような戦いをしていきたい」と意欲を口にした。
なおサバティーニは冨安について、口を滑らせついでに「まあ(プルガルのゴールの)責任は他よりも小さいだろう。彼はミスをしないからね」と今までプレーにチェックを入れてたと思しき評価も語っている。果たしてどうなるか、注目である。
Photo : Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。