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サポーターはとにかく語りたい。「外国籍選手列伝」が流行る理由

2019.06.20

 ここ数日、Jリーグ各クラブのサポーターによって「歴代外国籍(外国人)選手列伝」と銘打ったブログやnote記事が次々アップされるという謎のムーブメントが起きており、6月18日現在でなんと50本以上の“列伝記事”が確認されている。なぜそこまで広まったのか、彼らの心を突き動かしたものは一体何だったのだろう?

ささいなきっかけから生まれた流れ

 この一連の流れの先駆けはなんと、まさかのこのわたくし。本当に特に意味もなくて、何の気なしに書いたnote記事がきっかけだった。

 私事ではあるが、新年度からの部署異動により業務が激増。なかなか試合をじっくり観返す時間がなくなり、当然レビューなどの記事もたまにしか書けない。そんな状況からの現実逃避的な意味もあってか、自分でも理由はよく分からないのだが、推しクラブであるレノファ山口の『歴代外国籍選手列伝』というnote記事をアップした。6月4日のことである。

 この時はまだ、特にそれほど話題にはならなかった。レノファ山口の外国籍選手と言っても、歴史の浅い貧乏クラブだけに総数が少なく、有名な選手や他のJクラブで活躍したような選手もごくわずかなので当然と言えば当然だろう。

 しかし、数日後に状況が一変する。tkqさんによって企画?がパクられ(笑)、『ジェフユナイテッド千葉歴代外国籍選手列伝』がアップされると、大きな反響を呼んだ。

 かつて「ネットサポの長」とも言われたインフルエンサー、tkqさんの影響力、そのセンス溢れる文章力、ジェフ千葉という歴史あるクラブに在籍した数々のスーパー助っ人や面白助っ人のエピソードが共感を呼び「面白かった」「他のクラブのものも読んでみたい」「自分でも書いてみようか……」という反応から、ついには「僭越ながら書いてみました!」「自分の知っている年代だけですが……」などと、続々と後に続く者たちが現れたのだ。

ファンは常に「語りたがって」いる

 ただ面白い文章を読んだからと言って、これだけの人間が同様の記事を続いてアップすることはなかなかない。この件について最大のキーワードとなったのは、あらゆるジャンルのファンが根源的に持つ「語りたい」という欲求だろう。それを絶妙な塩梅で解き放たれた格好だ。

 ファンはとにかく語りたい、聴いてほしい。学校で、職場で、ファミレスや居酒屋で語り、それでも熱量が抑えきれない人はさらにSNSやブログで発信する。自分の蓄積された記憶を解き放つべく、できることならオリジナルのデータベースや『選手名鑑』のようなものを作りたいという人もいるだろう。ただそこまでのものとなると労力も大きく、タイミングやテンションにも左右されなかなか踏み切れるものではない。

 その意味ではまず、タイミングが良かった。J1は6月1日に第14節が行われたのち、14日に再開されるまで中断期間に入っていた。代表戦を眺めつつも、熱を持て余していたサポーター諸兄が多かったと思われる。(中断期間ではないのに多くの記事がアップされたJ2勢はやはりどこかおかしい。笑)

 さらには「外国籍」という括りが量的にちょうど良かった、という点も挙げられるだろう。アップされた記事を見ると、対象期間が5〜10年という人が多かった。この期間の「日本人選手」を語るとなると大変な労力だが、「外国籍選手」であれば(クラブにもよるが)そこまで人数は多くない。このくらいの人数ならば、とスイッチが入った人が多かったのではないか。そもそも張本人のわたしがその口である。

「アーカイブ化」が文化の土壌となる

 サポーターの役割とは何だろうか。大きな2本の柱として「応援活動」と「経済活動」が挙げられる。声援を送る、応援歌を歌う。チケットを買ってスタジアムへ通う、グッズを買う。これらはサポーター活動の根幹と言っていいだろう。

 それに加えて、私がもうひとつ大事だと思うのが「語り部」としての役割だ。

 特にJクラブにおいては、クラブ公式のリソースに限界がある。上の記事では「公式以外のアカウントによる発信」について触れたが、もうひとつの車輪として重要になってくるのが「ファンによる発信」だ。

 近頃マーケティング界隈でよく耳にする「UGC(User Generated Contents)」という言葉をご存じだろうか。「ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称」ということになるのだが、大雑把に言えば「WEB上の口コミ」のことだ。広告というものが受け入れられにくくなった時代、そもそも広告活動が限られるJクラブにおいて、どれだけUGCを生み出せるかは大きなカギとなってくる。これはある意味、刹那的なものでもあるが、今回のような「アーカイブ的UGC」とも言えるものが生まれてくることもある。

 ファンは語りたい、語ってクラブに貢献したいが、それがそのまま消費されていくことに寂しさも覚えている。今回はファン自らがアーカイブをぼこぼこと生み出していったが、クラブが意図的に仕向けていくのも手ではないか。まずは歴代のスタグルだったり、イベントだったりの単純なコンテンツ整理でもいい。歴史を紡ぐ、またはその手伝いをすることはサポーターにとって大きな幸福だろう。自分たちのサポーター組織の、応援の歴史を整理していくことも将来への貢献になる。

 歴史においてはしばしば、マニアが個人的に貯蔵していた記録や資料が大きな歴史の一部となることがある。各々が記憶を資料化し、語り継いでいくことがやがて「サッカーが文化となる」ことに繋がっていくだろう。ピッチの中や応援席だけではなく、こんなところにも戦いがあるのだ。

Photo : Getty Images

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ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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