ネーションズリーグ決勝に沸いたオランダ
323万9000人のオランダ人が、ポルトガルとのUEFAネーションズリーグ決勝戦をテレビで見たのだという。人口1700万人の小国オランダにとって、これはかなりの好数字だ。ネーションズリーグには賛否両論あるだろうが、フランス、ドイツとのグループステージ、イングランドとの準決勝を激闘の末、勝ち進んだオランダの試合はいずれもエンターテイメント性が高く、オランダ人の受け止め方はかなりポジティブ。グループステージの最中には「ネーションズリーグを考案した人は天才だ」という論評まであった。
結局、オランダは最後に力尽き、0-1というスコア以上の惨敗をポルトガルに喫したが、この間にオランダはFIFAランキングを14位まで戻した。2017年8月に36位だったことを思えば、かなりのV字回復だ。
翻って、EURO2020予選は……
密かに快進撃を続けている国/地域がある。EURO2020予選でオランダと同組になった北アイルランドが、ベラルーシ、エストニアに4戦4勝し、グループCのトップに立ったのだ。
2011年から指揮を執るマイケル・オニール監督のもと、北アイルランドは侮りがたいチームに成長し、EURO2016にも出場してベスト16に進出。18年ロシア・ワールドカップ予選ではプレーオフでスイスに惜しくも敗れたが、FIFAランキング36位という数字を鵜呑みに出来ない手強いチームだ。
現在、オランダはその北アイルランド、ドイツに次いで3位にいる。最悪のシナリオは9月6日、ハンブルグで行われるドイツとのアウェーマッチに、オランダが負けること。この日、北アイルランドは試合がないため、順位表はこうなる。
1位 ドイツ(4勝0敗、勝ち点12)
2位 北アイルランド(4勝0敗、勝ち点12)
3位 オランダ(1勝2敗、勝ち点3)
※ドイツと北アイルランドの直接対決はこれからのため、順位は得失点差で決まる。
北アイルランドは残り4試合、ドイツ、オランダとの直接対決のみ。ハードワークをベースとするプレースタイルは、失うものがない強みとシンクロする。とりわけベルファストでのホームゲームは「ドイツ、オランダにひと泡吹かせてやるぞ」というもの凄い雰囲気になるだろう。普通にやればオランダが勝つだろうが、その「普通にやること」が難しい。
オランダがエストニア、ベラルーシ相手の4試合を、取りこぼしなしの無傷で切り抜けることが出来るのか、というのも不安要素だ。北アイルランドとの勝ち点差が開いた中、オランダには「絶対に勝たないといけない」という心理的プレッシャーがかかっている。とりわけ10月13日のベラルーシとのアウェーゲームは鬼門になるかもしれない。
ネーションズリーグからのプレーオフ進出枠
仮に予選を3位で終えたとしても、オランダは来年3月のプレーオフに出場する権利を得ている。ネーションズリーグはリーグA(1部リーグに相当)からリーグD(4部リーグに相当)の4部リーグ制で、それぞれ4グループで構成されている。グループ首位の16カ国には、EURO予選プレーオフ出場権が保証されており、オランダはプレーオフを経由してEURO本戦に出る道が残されているのだ。
ところが、ここでポルトガル対オランダというビッグゲームが実現する可能性がある。6月14日付けの『アルヘメーン・ダッハブラット』紙でマールテン・ワイフェル記者が予想するシナリオを引用すると――。
<ネーションズリーグ・リーグAの各グループ首位チームのうち、イングランドとスイスはEURO予選を勝ち抜いて本大会に出場するとする。その場合、代わりにプレーオフに出場するのはクロアチアとアイスランドになる可能性がある。プレーオフ準決勝の組み合わせはポルトガル対アイスランド、オランダ対クロアチア、そして続く決勝戦は……>
サッカー大国の誇りを取り戻したオランダだが、EUROの険しい予選を勝ち抜き、さらに本大会で爪痕を残さぬ限り「完全復活」とはまだ言えない。
Photos : Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。