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ニクラス・ジューレ。ドイツとバイエルンの次代を担う大型CB。

2019.06.13

 ドイツ代表とバイエルンで不動の地位を築いてきた、イェロメ・ボアテンクとマッツ・フンメルスのCBコンビ。実力は申し分ないものの負傷離脱の少なくない彼らに割って入る活躍を見せているのが、23歳のニクラス・ジューレだ。

 バイエルンはアリエン・ロッベン、フランク・リベリ、ラフィーニャの退団が決まり、リュカ・エルナンデス、パバール等の獲得で来季に向け急速な若返りが図られている。ドイツ代表でも、ヨアヒム・レーブ監督からJ.ボアテンクとフンメルス、トーマス・ミュラーへの引退勧告がなされ世代交代が進められている。そんなドイツ代表とバイエルンの次代を担う大型CBジューレにフォーカスする。

最大の武器は、対人能力にあり

 ジューレは、ホッフェンハイムの下部組織出身。世代別ドイツ代表に毎年名を連ね、18歳の頃からコンスタントにトップチームでリーグ戦出場を重ねた。

 ホッフェンハイムの青年監督ユリアン・ナーゲルスマンの下でさらなる成長を遂げたジューレは、2017年夏に約2000万ユーロでバイエルンへと移籍。故障がちなJ.ボアテンクとフンメルスのCBコンビを差し置いて、昨季はリーグ戦27試合、今季は31試合に出場。安定したパフォーマンスを見せている。

 身長195cmと大柄なジューレは、空中戦では無類の強さを発揮する。反面、アジリティに欠けるのが玉にキズだが、それ以外の能力は押しなべて高水準である万能型だ。トップスピードは、CBの中でもトップクラス。カバーリングやビルドアップもそつなくこなすことができるが、彼の最大の武器は対人守備だろう。

 フィジカルコンタクトの強さだけでなく、敵の脚からボールが離れた瞬間を狙った奪取やシュートブロック、タイミングの妙と技術を駆使したディフェンスは、敵アタッカーを次々とシャットアウトする。

ユリアン・ブラントと競り合うジューレ。サイズを生かし制空権を握る

特徴的なタスクは、「キミッヒ番」

 そんなジューレのバイエルンでの特徴的なタスクとして、攻撃的SBジョシュア・キミッヒの背後のケア、そしてビルドアップ時の「引き付け役」が挙げられる。

 バイエルンにとって、キミッヒのアシスト能力は大きな武器となっている。ただ、そのキミッヒが前線と絡み、精度の高いクロスボールを上げるためには、彼の背後のスペースを確実にケアする必要がある。

 バイエルンでキミッヒの背後のケアを行なうのは、ジューレの役目だ。カバーリングも得意とするジューレは、キミッヒの空けたスペース寄りにポジションを移し、侵入してきたアタッカーがドリブルを開始する前に奪取を試みる。スペースが広大で寄せきれなかった場合は、残ったDFの数、相手の数、周囲の状況を踏まえて、距離を詰めるか制限をかけつつ遅らせるかの判断を行なう。

 制限をかけつつ遅らせる判断をした場合はボールホルダーと、そして隣り合う味方と一定の距離を保ちつつ後退。相手のドリブルが大きくなれば奪取に出るが、それよりもまず味方と連係をとり、間や背後を通されないようにする。自身の背後に抜けようとする選手に対してはポジションを微調整してパスコースに入りつつ、オフサイド位置に抜けてしまうのを待つ。

 ボールホルダーと、背後に抜けようとする選手を同一視野に入れることは困難である。そのためジューレは後退する際、頻繁に首を振っている。首を振るタイミングは、ボールホルダーがドリブル中ボールタッチをした直後、脚からボールが離れた瞬間だ。ボールが脚から離れた瞬間は、ホルダーはアクションを起こすことができない。

 この瞬間を逃さずに首を振り、裏に入ろうとする選手の位置を的確に捉え、ポジション修正やマークの受け渡しを行なう。

 ペナルティエリア手前まで来たら、後退から迎撃に移る。ここで敵が横パスを選択すれば、味方が戻る時間をさらに稼ぐことができる。

 縦パスを選択した場合は、スピードを活かしてフィジカルコンタクトを試みるか、シュートモーションに合わせて距離を詰め、シュートブロックに向かう。さらに深くドリブルで侵入する選手に対してはマイナスのクロスを警戒する。両腕を隠し、残した左脚にマイナスクロスを当てて敵の攻撃をせき止めるシーンは今シーズン何度も見られた。

 キミッヒがDFながらブンデスリーガ2位の13アシストを記録できたのも、ジューレが背後を的確にケアしていたことが影響しているといえるだろう。

ジューレやノイアーらのパフォーマンスが安定していてこそ、 キミッヒ(左)は思い切った攻め上がりを見せられる

ビルドアップで「引き付ける」能力の高さ

 ジューレのビルドアップはホッフェンハイム在籍時、ナーゲルスマンの下で成長した。ボールを受けたら、前方に運びつつ敵を十分に引き付けてから鋭いくさびのパスを出せるため、前線の選手にスペースと時間を与えることができる。

 単純なパスの精度だけならフンメルスの方が上手だが、「引き付ける」能力は負けていない。CBにとって、くさびのパスの精度と同じくらい必要とされるのがこの「引き付ける」能力だ。敵を引き付けて守備陣形を広げ、前線の選手にスペースと時間を与える。これができないと、いくら良いパスを打ち込んでも味方は狭いスペースで八方塞がりとなってしまう。「引き付ける」能力は、前線のプレーヤーにとって非常に頼もしいスキルなのである。

 この能力は、3バックの右を務めていたホッフェンハイム時代に培われた。4バックを採用するバイエルンでは、当時の名残からか、ハーフスペースに向かって斜めにボールを運ぶ姿が頻繁に見られた。

 斜めに運ぶということは、進行方向と身体の向きがサイドに向いているため、敵にサイド方向の守備意識を植え付け、横方向の動きを強いることにつながる。スライドの移動距離が伸びるのだ。距離が伸びればポジショニングミスも出やすく、SHはより楽にハーフスペースでボールを受けることが可能となる。

 そのためセルジュ・ニャブリとの相性は非常に良い。また敵のプレスが弱ければ、手薄となる逆サイドへの展開も可能だ。左SBのダビド・アラバ、そして前線に向けて、敵の頭越しのロブパスを出すこともできる。コースを切る敵の守備を無効化できるというのも、強みのひとつだ。

課題は、アジリティ不足からくる身体の向き

 進行方向と身体の向きで敵をあざむくジューレだが、縦方向にパスの出し先がなく、相手のプレスもかかっている場合のプレーには課題がある。

 この場合のジューレは、隣のキミッヒにパスを出す。敵が集まってきている状態であるためキミッヒの選択肢も限られる。GKに戻すか、ジューレにリターンを返すことが多い。

 小回りの利かないジューレはこのリターンを、後ろを向いて右脚で受けてしまうのだ。こうなると、選択肢はGKへのバックパス一択。大きなタイムロスとなり、敵に守備陣形構築の時間を与えてしまう。ここで受け直しの動きをこなして、前を向いてリターンをもらえれば、フンメルスやCHを用いての展開も期待できる。

 これは一例であるが、「アジリティの不足からくる、身体の向きの調整」に課題があり、ビルドアップのもたつきの原因となっている。今後修正していくべき課題であろう。

おわりに

 ドイツではヨナタン・ター、ニクラス・シュタルク、ルーカス・マイ等、質の高い若手CBが成長している。

 バイエルンでもジューレと同世代のリュカ・エルナンデス、パバールが補強され、若返りが図られている。ドイツ代表、CLでのバイエルンともに近年苦戦を強いられているが、ジューレはこの両チームで今後中心を担うであろう選手だ。偉大なJ.ボアテンク、フンメルスの後任として、2人の不在を感じさせないようなプレーが期待される。

6月のEURO予選2連戦ではともに先発フル出場しシャットアウト勝利に貢献。ドイツ代表復権の鍵を握る選手の1人として懸かる期待は大きい

Edition: Sawayama Mozzarella
Photos: Bongarts/Getty Images

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ドイツ代表ニクラス・ジューレバイエルン戦術

Profile

とんとん

1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。

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