初戦ドローのなでしこ、第2戦の相手はスコットランド
なでしこジャパンは、女子ワールドカップの初戦で格下のアルゼンチンと引き分けてしまった。これで14日に行われるグループステージ第2戦は、サバイバルマッチの様相を呈することになる。
対戦相手はW杯初出場のスコットランドだ。何と言っても警戒すべきは背番号8を背負うゲームメイカーの“小さな巨人”ことキム・リトル(28歳)である。初戦のイングランド戦ではトップ下で動き回り、1-2で敗れたとはいえ、巧みなボールタッチでチャンスを作り出していた。普段はアーセナル・ウィメンに所属しているリトルは、今季リーグ制覇に貢献してベストイレブンにも選出された。
そしてリトル同様にイングランド女子リーグでベストイレブンに選出されたのが22番のFWエリン・カスバートである。彼女はイングランド戦では1トップとしてDFラインの裏を狙ってチームの攻撃をけん引した。
文武両道、BBCでコラムを書くW杯選手
20歳のカスバートは、チェルシーFCウィメンでプレーしながら通信大学にも在籍する文武両道プレーヤーで、今大会中は英『BBC』のウェブサイトでコラムを書いている。開幕直前にもコラムが掲載されたが、そこには不安や興奮が綴られていると思いきや「苛立ちが止まらない」と書かれていた。その理由は今時の若者らしく、大会期間中に見る「Netflixの番組が決まっていない!」からだという。でも、いざとなったら「くだらない」けど恋愛リアリティーショーを見るそうだ。一番リラックスできるため、2017年の欧州選手権ではチーム全員でハマったのだとか。それからリラックスで言えば、入浴剤用に「20kgも塩化マグネシウム」を持ち込んでいるそうだ。
年頃の女の子事情が分かるお茶目なコラムなのだが、そこはやはりW杯選手である。今回出場する他の551名と同じで、彼女もまた色々なことを犠牲にしてきたサッカー少女なのだ。
大会前、最後の強化試合のあと、選手には数日のオフが与えられた。カスバートはその時間を家族と一緒に過ごしてエネルギーを充電した。そしてフランスへ飛び立つ朝、父から1枚の写真を渡された。「お前はいつも家族のために頑張ると言うが、自分ためにプレーするんだ」と父は声をかけてくれた。渡された写真を見ると、そこにはグラスゴー・レンジャーズのジャージに身を包んだ幼い頃の自分が写っていた。そして写真の裏には、父の手書きのメッセージが添えられていた。「夢が叶うまで、来る日も来る日も練習に明け暮れた“この少女”のために頑張るんだ」と。
カスカートは、父と抱擁を交わして車に乗り込むと、家が見えなくなるまで進んでから泣きじゃくった。そして家族への感謝の気持ちを誓い、「父が次にこの少女を見るとき、その子はW杯の舞台に立っているんだ」と強い決意をしたという。そんなエピソードとともに、彼女はコラムを締めくくった。
Photos : Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。