デニス・ザカリア。「スイスのパトリック・ビエラ」のポテンシャル。
2018-19シーズン、ブンデスリーガのボルシアMGでは5人ものスイス人プレーヤーがリーグ戦出場を果たした。かつてはグラニト・ジャカ(現アーセナル)も在籍し、現在はGKのヤン・ゾマー、CBニコ・エルベディが評価を高めている。ボルシアMGにとってスイスという国は、欠くことのできない人材の宝庫となっている。
そんなボルシアMGが2017年夏、約1000万ユーロでスイスのヤングボーイズから獲得したのが、当時20歳であったデニス・ザカリアだ。同時期にドルトムントへと移籍したマフムード・ダフードの後釜として加入した彼だが、そのプレースタイルはまったく異なる。「スイスのパトリック・ビエラ」という触れ込みで加入した大器は、瞬く間にチームの中心としての地位を確立した。
高いボール奪取力と、大きなストライド
スイスリーグのベストヤングスター2016を受賞。191cmと恵まれた体躯で「スイスのパトリック・ビエラ」と称されたザカリアは、その名の通りボール奪取力と、大きなストライドを活かした推進力あるドリブルを武器にしている。
スイス人のセントラルハーフには、守備能力に特長を持ついわゆる「潰し屋」と呼ばれるタイプの選手が多い。ロシアワールドカップメンバーではバロン・ベーラミ、ブレリム・ジェマイリ、ジェルソン・フェルナンデス。その他、ナポリで活躍したギョクハン・インレルや、ブンデスリーガではお馴染みのファビアン・ルステンベルガー、ピルミン・シュベグラー等、挙げだしたらきりがない。
ザカリアも例に漏れず、潰し屋の系譜だ。その系譜に名を連ねる選手の中でも彼のユニークな特徴と言えるのが、191cmの身体に備わった長い手足を活かしたボール奪取だ。
ザカリアは、腕の使い方がうまい。腕で敵の前進をブロックして動きを鈍らせ、長い脚を伸ばしてボールを刈り取るのが得意技だ。相手の脇に腕を入れるイメージで敵の腕を払いのけ、一歩分踏み込んだ状態で行なわれるボール奪取は速攻の起点となる。自身のテリトリーに侵入したアタッカーからボールを奪い取る技術は圧巻であり、最大の特徴と言える。
高さ以上に評価される、カウンターへのケア
同じく守備面での長所として、長いストライドを活かしたカウンター阻止も挙げられる。191cmと長身だが、自チームのCKの場面では相手ゴール前には上がらず反撃に備える。高さ以上に、そのカウンターケアが評価されているのだ。
ブンデスリーガ第30節RBライプツィヒ戦では、CKのクリアから受けたカウンターの場面で、リーグきっての快足を誇るティモ・ヴェルナーにスピード負けせずシャットアウトしてみせた。トップスピードのザカリアを振り切るのは至難の業であり、ウイングの選手の縦への突破にも滅法強い。
長いストライドは、攻撃時にも活かされている。狭い空間でのドリブルは得意としないが、前方にスペースがある状態で行なわれるドリブルは驚異的だ。敵が足を出すタイミングでボールに触れ、ドリブルの軌道をわずかに変えることで敵をかわしていくボールタッチは、パトリック・ビエラやトゥーレ・ヤヤと重なる。
また、今シーズン養われたのがバランスをとる動きだ。今季のボルシアMGでは、22歳のフロリアン・ノイハウスが3ゴール8アシストと輝きを放った。万能型のノイハウスは基本的に中盤で走り回り攻撃を活性化させるタイプだが、ザカリアはこのノイハウスの動きにうまく連動してみせたのだ。
例えば、ノイハウスが引いてビルドアップに加わった際、敵の中盤が空けたスペースにスルスルと侵入し攻撃の起点となった。
ノイハウスがFWを追い越す動きを見せれば、連動して空くスペースのケアに走った。中盤の選手の、こうしたバランスをとるための状況判断力はチームに安定感をもたらす。ザカリアの存在は、ボルシアMGの安定とノイハウスの躍動に貢献していたのだ。
なぜ、ザカリアの強みは出しにくくなったのか?
若き才能にとって、チーム状態や監督との相性は成長における重要なファクターだ。
ヘッキング監督率いるボルシアMGは、昨シーズンは[4-4-2]、今シーズンは[4-1-4-1]をメインシステムとしていた。[4-4-2]の際はチーム全体が押し込まれやすく、低い位置でザカリアがボール奪取に奮闘するシーンが目立った。自身のテリトリーに仕掛けてきた敵からボールを強奪し、そのままカウンターに移行できる彼の良さは引き立ったが、チームとして見ると守勢が長引く苦しい試合が多かった。
反面、今季から採用されている[4-1-4-1]では、ライン間に守備に長けたアンカーを配置することで、中盤の選手が前にプレスをかけやすくなった。押し込まれる展開が減り、以前より高い位置で奪うことができるようになったのだ。
しかし、ザカリア自身の強みは活かしにくい状況へと変化した。基本的に1トップの脇まで前進してプレスをかけるのは、インサイドハーフであるザカリアの役目だ。ここでのプレスの目的はボールを奪うと言うよりも、特定のエリアに誘導するという意味合いが強い。つまり[4-4-2]での「ボール奪取役」から[4-1-4-1]での「誘導役」に変わったのだ。
ボール奪取に関しては無類の強さを発揮するザカリアだが、誘導・制限する守備は苦手としている。受け持つエリアから追い出す動きは見せるが、周囲の味方と連携して奪うためのプレッシングはほとんど見られない。
これはザカリアだけでなく、チームとして共通する課題でもあった。チームとしての狙いが浸透しておらず、奪いどころが定まっていない。奪いどころが定まっていなければ、誘導の行いようがない。このチームとしての共通意識の低さが、ザカリアの良さを潰してしまっていた。
高まらないチームとしてのクオリティは、シーズン後半の失速にも繋がっている。ボルシアMGのシーズン後半戦の成績は、6勝4分7敗。CL圏内を目指して戦っていたにもかかわらず、負け越しているのだ。対して、3位のRBライプツィヒは10勝5分2敗、4位に入ったレバークーゼンは11勝1分5敗。徐々にチームとしてのクオリティを上げていったライバルたちに置いていかれてしまったのが、内容だけでなく結果にも表れた。
ザカリアと同じインサイドハーフでも、レバークーゼンのユリアン・ブラントは自身のウインガーとしての持ち味を武器に飛躍を遂げた。繰り返しになるが、若き才能にとってチーム状態や監督との相性は成長における重要なファクターであり、今季のザカリアは昨季ほどのパフォーマンスと成長を見せることができなかった。
マルコ・ローズ新監督のもとで
ザカリアにとって、2019-20シーズンは勝負の年となるだろう。
ボルシアMGは、ザルツブルクからマルコ・ローズ監督を招へいすることを決めた。クラブのSDを務めるマックス・エバールは、どんなに結果が出なくとも監督を信頼し一定の時間を与える。ザルツブルクとの契約を残していたにもかかわらず招へいしたローズに対しては、なおのことだろう。選手にとっては、ローズとの相性が悪ければ長期にわたって出場機会を失う可能性もあるということを意味する。
ELとリーグの二足の草鞋となるため、仮に開幕時点でレギュラーの座をつかめなかったとしても、一定のプレー機会が与えられるはずだ。ローズ新監督から多くを学んだザカリアが、「スイスのパトリック・ビエラ」として他を寄せ付けないパフォーマンスを見せることに期待したい。
Edition: Sawayama Mozzarella
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
とんとん
1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。