オランダを暗黒期から解き放った女子代表チームの急成長と活況
「オランダサッカー暗黒時代」に咲いた一輪の花
男子のオランダ代表は2014年のワールドカップで3位という輝かしい成績を残したものの、16年ユーロ、18年W杯と2度続けてビッグイベント出場を逃してしまった。17年のヨーロッパリーグでアヤックスが決勝まで進んだとはいえ、欧州カップ戦におけるオランダリーグ勢の成績も、この頃は振るわなかった。
この「オランダサッカー暗黒の時代」に艶やかに咲いた一輪の花が、オランダ女子代表だった。彼女たちは地元の開催の17年ユーロで見事、欧州チャンピオンとなった。07年に女子エールディビジが発足してから、徐々に力を蓄えていった彼女たちは、オランダ国民のハートを完全に掴み、ユトレヒトの運河を巡る優勝パレードに人々は熱狂した。
6月7日からフランスで女子W杯が開幕する。オランダの大手スーパー、アルバート・ハインは15ユーロの買い物をすればオランダ女子代表のポスターをプレゼントする(私は、7ユーロほどの買い物でポスターをもらってしまった)など、店内は応援モードに包まれている。本屋に行けば、スター選手の1人、リーケ・マルテンスの自伝が平積みだ。オランダの新聞各紙は連日、女子代表の動向に紙面を割いている。W杯を目前に、彼女たちへの期待は高まるばかりだ。
W杯の壮行試合は6月1日、アイントホーフェンのフィリップス・スタディオンで行われた。相手はFIFAランキング6位のオーストラリア。8位のオランダにとっては現時点の実力を探るうえで格好の手合わせであると同時に、W杯初戦のニュージーランド戦に向け、理想的な準備試合になった。
立ち上がりからオーストラリアの激しいプレッシングに手を焼いたオランダは、ビルドアップがままならず苦戦した。3分には、左サイドバックのキカ・ファン・エスがデュエル後の着地で手の甲の骨を折ってしまい、11分にピッチを退くと病院に運ばれた(6月3日に手術。W杯出場に関しては現時点で不明)。
不用意なパスから、多くのミスがあった。それでも、最後はGKサリ・ファン・フェーネンダールのビッグセーブや、センターバックのドミニク・ブルッドワースの見事なカバーリングでピンチを脱した。こうして相手をゼロにさえ抑えておけば、オランダはシャニセ・ファン・デ・サンデン、ビビアンヌ・ミーデマ、マルテンスの強力3トップがチャンスを作り、ゴールを決める。オランダはファン・デ・サンデンの2ゴール、1プレアシスト、ミーデマの1ゴールによって、3-0で快勝した。
「CL決勝よりも面白かった」
オーストラリア戦には30640人の観衆が集まった。これは18年4月、同じくフィリップス・スタディオンで行われた北アイルランド戦で作った記録、30238人を更新するものだった。
ウィーへマン監督は「素晴らしいフットボールの夜をお過ごしください」というひと言で試合後会見を締めくくった。10分後の21時(現地時間)には、チャンピオンズリーグ決勝戦がキックオフされるのだ。だが、有名コラムニストのボルストが「CL決勝戦よりも、オランダ女子代表の練習試合の方が、テレビで見ていてずっと面白かった」と記したほど、彼女たちのサッカー・アミューズメントの質は高かった。
オランダ男子のサッカーは、オランダ代表がネイションズリーグ・ファイナルフォーに進出し、アヤックスがCLベスト4に残り、リバプールのCL優勝メンバーにはファン・ダイクとワイナルドゥムが名を連ね、U-17オランダ代表が2年連続で欧州チャンピオンになるなど、元気がいい。思った以上に早く、オランダは「暗黒の時代」を乗り越えたかに思える。
だが、いっとき、オランダ人は本気で「(男子の)オランダサッカーがトップに戻るには、あと10年かかるかもしれない。下手をすると、2度とトップに戻れないかもしれない」とネガティブになっていた。そんな中で、オランダ女子代表がサッカーファンに喜びを与えた功績は大きい。
今季、プレミアリーグの男子はファン・ダイク、女子はミーデマ(アーセナル)がベストプレーヤーに選ばれた。これぞ、オランダサッカーが暗黒の時代を脱し、春が訪れたことを表すシンボルだと私は思うのである。
Photo : Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。