前回王者イングランドは出場しないが……
5月23日にポーランドで開幕したU-20ワールドカップに“前回覇者”の姿はない。
U-20W杯では優勝チームに次回大会へのシード権が与えられない。そのため2年前の覇者であるイングランドも欧州予選となるU-19欧州選手権に出場した。しかし、最後の出場枠を懸けた試合でノルウェーに敗れて本大会出場を逃したのである。
だが、“イングランド人”の連覇の夢が潰えたわけではない。今大会でも、1人だけだがイングランド人の指揮官がいるのだ。彼の名前はデズ・バッキンガム。34歳にしてニュージーランドU-20代表を率いる今大会最年少の監督だ。
イングランド出身のバッキンガムは、10代の頃にプロ選手になる夢を諦めて指導者の道に進んだ。地元のクラブ、オックスフォード・ユナイテッドでU-9チームの指導から始めて、11年間をかけてファーストチームコーチまで上り詰めた。その間、地元の専門学校のチームも指導しながら、「多面的にサッカーを見る」ために自身もスポーツサイエンスや理学療法などを学んで様々な資格を取得した。
その後はニュージーランドに渡り、協会で選手育成の仕事に就き、そこからステップアップ。2017年2月には31歳でオーストラリアのウェリントン・フェニックスの監督に就任し、Aリーグ史上最年少の監督となった。その後はイングランドに戻りストークのU-23チームを指導した時期もあったが、再びニュージーランド・サッカー協会に誘われて昨年1月からU-20代表を率いている。
“3つの島国”のサッカー文化の融合
彼の指導方針は入念な準備と積極性にある。昨年8月にU-20W杯本大会出場を決めたあと、バッキンガムは実に61回も飛行機に乗って、世界各国でスカウティングを行ってきた。そしてイングランドU-20代表のポール・シンプソン監督にも会い、前回優勝の秘訣も学んだ。戦術面では、両サイドバックが積極的に高い位置を取る4-2-3-1で、全員が長い距離を走れるのが彼のチームの強みである。
彼のサッカー観はオックスフォード・ユナイテッド時代に培ったものだろう。なぜなら、彼には良い見本がいたのである。当時オックスフォードのトップチームを率いていたのは、今年シェフィールド・ユナイテッドをプレミアリーグ昇格に導いたクリス・ワイルダー監督なのだ。
ワイルダーは3バックのセンターバックが攻撃に参加する特殊な戦術で下部リーグを席巻してきた。同指揮官についてバッキンガムも「彼は革新的だ。それに誠実で、選手やスタッフへの思いやりがある。だから選手たちは彼のために戦うのさ」と話し、影響を受けたことを語っている。
また、今大会、バッキンガムには心強い名参謀までいる。それがジェフユナイテッド千葉やサンフレッチェ広島でプレーし、現在はニュージーランドU-20代表のアシスタントコーチを務める宮澤浩さんだ。言うならば、今大会のニュージーランドは“3つの島国”のサッカー文化の融合なのだ。
そのニュージーランドはグループリーグでホンジュラス、ノルウェーに2連勝し、早々に決勝トーナメント進出を決めた。第2戦では、イングランドの借りを返すようにノルウェーを2-0で粉砕した。この勢いのまま“イングランド人連覇”……と言いたいところだが、まず目指すは過去最高成績のベスト16超え。ここからの戦いぶりも楽しみなチームだ。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。