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国際化の盲点……ブンデスリーガのスカウティング競争と不正アクセス

2019.05.28

 「裏切り者はニューヨークから働きかけていた」という見出しで、スッパ抜きで有名なドイツ最大の大衆紙『ビルト』が記事を出した。一見、サッカーとは関係ないようにも見えるタイトルだが、今後のサッカー界に大きな影響を及ぼしかねない「スパイ行為」の告発記事だ。

 フランクフルトのスタッフによるRBライプツィヒのデータへの不正アクセスを報道した『ビルト』の記事は、ドイツ国内の大手メディアに引用され、瞬く間に広まった。

RBライプツィヒの外部データバンクに不正アクセス

 事件の詳細は、アイントラハト・フランクフルトのU-17チームの監督が、RBライプツィヒの育成選手のスカウティングデータバンクに5664回もの不正アクセスを繰り返していた、というものだ。

このデータバンクは、ミュンヘンにあるデータ会社「インターナショナル・サッカー・バンク(ISB)」が提供するサービスで、RBライプツィヒはU-15までのカテゴリーの選手たちのデータをこの会社に管理させている。今回の一件は、フランクフルトの育成機関のPCからの不正アクセスに気づいた同社がフランクフルトを相手に訴訟を起こしたことで、事件が公衆の目に晒されることとなったのだった。

「裏切り者」は“RBグループ”のなかにいた

 だが、問題は、この不正アクセスを可能にしたのは、RBグループ内部のスタッフのしわざだったことだ。ニューヨーク・レッドブルズのスタッフが、フランクフルトのスタッフにログインのデータを提供したことも明らかになっている。

 年間1万7000ユーロ(約200万円)の手数料で、欧州および南米のU-15までの有望選手のデータバンクの提供およびスカウトの手配まで請け負うISB社のユルゲン・コスト社長は、アクセスされたデータの内容を説明する。「フランクフルトU-17の監督は、ライプツィヒがどの選手に興味を持っていたのか、全てのデータを見ることができました。選手の評価、契約年数、移籍金、そしてプレーのビデオなど、参照できる限り、最も深い部分まで見ていたようです」と話し、数十万ユーロ単位の損害賠償を請求するとしている。

 フランクフルト側は、この元監督の単独犯であることを強調し、ライプツィヒ側とも協議を進めていくことを明らかにした。

熾烈な若年層のスカウティングと経済的合理性の限界

 RBライプツィヒの広報担当であるフロリアン・ショルツ氏も、この一件に関して詳細を公表した。

「我々が保持するISBの育成機関用のデータバンクに、有害になるほどの回数のアクセスがあったことを認めます。このアクセスは、元RBライプツィヒ職員のアカウントを通じて行われていました。しかし、今の段階では、この一件とアイントラハト・フランクフルトの選手獲得には関連がないと判断しています」

 この一件は、若年層のスカウティングが熾烈になり、ビジネスとして巨大なものになっている一面を示している。国際企業にとって難題のひとつであるコンプライアンスの徹底に、世界中に拠点を置く“RBグループ”も頭を悩ませているようだ。データのデジタル化や管理のアウトソーシング、クラウドの活用など、合理化と経済性の先端を極めれば極めれるほど、ヒューマンエラーのリスクも大きくなるというパラドックスを抱えた将来の行方を示唆する事件となった。

Photo: Getty Images

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RBライプツィヒフランクフルト育成

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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