ベティス、アラベスともに監督交代
リーガ終了後、乾貴士の所属先であるベティス、レンタル先のアラベスがそろって監督の解任を発表した。これで来季の乾の処遇はわからなくなった。
乾のパフォーマンスはアラベスで明らかに向上した。新天地ではレギュラーの座が約束され得意なサイド(エイバル時代と左右は逆だったが)のポジションを任され、攻守の切り替えのプランが異なるもののカウンターということではエイバルと共通の、慣れ親しんだプレースタイルだったのだから当然だろう。よって、ベティスの監督がセティエンのまま、アラベスの監督がアベラルドのままであれば、レンタル継続がベストだと思われたし、報道によれば実際にアラベスもベティスに継続を申し込んでいたらしい。
クラブの規模、伝統からしてアラベスが堅守速攻以外のスタイルを来季選択するとは考え難い――とここまで書いたところで、アシエル・ガリターノの監督就任のニュースが飛び込んできた。
A.ガリターノは今季、ソシエダを解任される前はレガネスを率いてカウンターサッカーをしていた。新監督が前監督同様、乾にレギュラーの座を与えるかどうかはわからないが、戦力として計算しているのは間違いないだろう。アラベス残留はリスクの小さい安全な選択のように思う。
ベティスの新監督は果たして誰に?
一方、ベティスの方は、当のアベラルドからボルダラス(ヘタフェ)、ピュエル(前レスター)、コクー(前フェネルバフチェ)、カタールで選手を引退したばかりのシャビまで、様々な名前が上がっていて、監督候補たちの志向するプレースタイルもまちまち。ボルダラスがガチガチの堅守速攻、アベラルドはいずれパスサッカーをやりたいという夢を持つがやはり堅守速攻、ピュエルはやや守備的なパスサッカー、コクーはより攻撃的で、シャビはグアルディオラに師事する最もラジカルな“クライフ原理主義派”である。
ベティスにとって本来プレースタイルを変えるのは得策ではない。前監督が求めたものと新監督が求めるものが異なれば、蓄積してきたものが無駄になるし、大幅に選手を入れ替える必要が出てくるからだ。
しかし、そのリスクを承知でベティスは堅守速攻へ舵を切るかもしれない。そもそもセティエン解任は、パスサッカーがファンとメディアに「まどろっこしい」と嫌われたのが理由であり、プレースタイルに手を付けないわけにはいかないのだ。
乾にはベティス復帰はチャレンジという意味では魅力的に映るに違いない。だけど、継続路線の新監督が就任した場合には、サイドに張れず窮屈なスペースに押し込められ苦しむ、今季前半戦の二の舞になるかもしれない。逆に、堅守速攻の新監督が就任したらチャンス到来と言える。
Photos: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。