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無冠のワトフォードを率いて絶対王者シティに挑む「働き蜂」

2019.05.17

無冠のワトフォード、FA杯で快挙なるか

 欧州サッカーシーズンも佳境を迎え、各国でタイトルの行方が決まりつつある。まさに胸躍る時期なのだが、代わり映えしない王者の顔ぶれにウンザリという人もいるかもしれない。バイエルンがブンデスリーガを制すると、今季の欧州5大リーグはもれなく「リーグ連覇」で幕を閉じるのだ。

 それでは、国内カップ戦はどうだろうか。フランスではストラスブールやレンヌの優勝が話題を集めたが、彼らでさえ今回が初戴冠というわけではない。そんな今季の欧州5大リーグにおいて、まだ「初タイトル」の可能性を残すクラブが2つだけある。1つ目はDFBポカールの決勝でバイエルンと対戦するRBライプツィヒだ。彼らは2009年のクラブ設立から急速に躍進を遂げた新興勢力であり、優勝経験がないのも納得だ。

 もう1つはというと、121年の歴史を誇りながら主要タイトルに縁がないイングランドのクラブだ。過去には惜しいところまで勝ち上がったこともあるが未だに無冠のまま。そのチームこそ、今月18日(土)のFAカップ決勝戦でマンチェスター・シティに挑むワトフォードである。そしてこの無冠チームを率いるのが、これまた主要タイトルとは無縁のスペイン人、ハビ・グラシアなのだ。

誰より早く出勤し、誰より遅くまで働く監督

 たしかにグラシアは、中規模クラブしか率いたことがないため優勝経験がない。それでも彼には、誰にも負けないと誇れるものがある。それは人一倍強い勤労意欲である。世間で「働き方改革」なるものが叫ばれるなか(日本だけかもしれないが)、彼はクラブの愛称であるスズメバチさながらの“働き蜂”を地でいく監督なのだ。

 49歳の指揮官は、毎朝7時にはクラブの練習場にやってきて誰より遅くまで仕事をする。「他の監督はここまで時間を必要としないのかもね。でも私には必要なんだ」と『The Times』紙のインタビューで説明している。自信を持って試合に臨むために労を惜しむわけにはいかないのだ。

「敵について知れることは全て知ったと納得できるまで仕事をする。この情熱がなければフットボール界から去るべきさ」

 その勤勉さは、教師だった両親譲りである。「努力、努力、そして努力」をすれば、不可能はないと学んだという。さらに彼の出生にも秘密があるようだ。グラシアの誕生日は5月1日の「メーデー」。多くの国で「労働者の日」として祝日に定められている。だがグラシアは、今年の誕生日も7:00~18:30の通常営業だった。仕事を終えると、クラブのアカデミーに所属する息子と一緒に帰宅し、家族みんなで夕飯を食べ、チャンピオンズリーグのバルセロナ対リバプールをTV観戦したという。それが自分への「最高の誕生日プレゼントだった」と笑う。

 今週末のFAカップ決勝の相手は、国内3冠を目指すシティだ。そして敵将は、グラシアとは対照的に現役時代からタイトルを総なめにしてきたペップ・グアルディオラである。両チームの実力差はあえてここで説明するまでもないだろう。それでも両者がウェンブリーのピッチに立ったとき、最強シティは“無冠の男”によって丸裸にされているかもしれない。

Photo: Getty Images

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ハビ・グラシアワトフォード

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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