フランスのeスポーツを追う(3)先駆者、PSGの「CGO」に聞く
フランスの「eSports」事情についてお伝えするミニ連載の第3回。
フランスのプロサッカークラブで、初めてeスポーツ部門を設立したのがパリ・サンジェルマンだった。今回は、PSGのeスポーツ部門の統括責任者、CEOならぬCGO(チーフ・ゲーミング・オフィサー)こと、ヤシン・ジャーダ氏にご登場いただいた。
ジャーダ氏もかつてはセミプロのプレーヤーだったが、完全にプロの競技者となるには限界を感じ、別の形でeスポーツに携わりたいと考えていたところ、縁あってPSGの同部門立ち上げに参画することになった。始動する前の構想の時点から関わってきた立ち上げメンバーだ。
現在はCGOとしてあらゆるオペレーションに目を配らせている他、約40人の選手とも連日連絡を取り合っている。
eスポーツ選手を専門とするエージェントも
──PSGのeスポーツ部門を立ち上げるにあたり、構想期間は約2年ということでしたが?
「たくさんのことを話し合う必要がありました。たとえばどのゲームを選ぶのか。
まずはサッカークラブであることで『FIFA』シリーズ。『ロケットリーグ』はモータースポーツとサッカーの融合のようなゲームなので、これもサッカー関連ということで選び、さらにはPSGのアジアへのマーケティング戦略も考慮して、中国ベースの『Dota 2』。東南アジアでは、ほぼすべてのプレーヤーがスマートフォンでプレーしているので、中でも一番注目度の高い『モバイルレジェンド』を選択しました。
また最近追加した『Brawl Stars』はより若い層をターゲットにしたもので、大規模なトーナメントはない代わりに、選手同士の密着度が高く、長期的にチームを育成していける要素があることから加えました」
──かつて参戦していた『リーグ・オブ・レジェンド』をやめた理由は?
「最初にチームを立ち上げたのがこのゲームだったのですが、それだけに失敗も多く、たとえば選手のリクルートも難しかったですし、資金がかかりすぎて(注:『リーグ・オブ・レジェンド』の参戦スポット購入には1200万ユーロが必要)、ビジネス的にも成立しなかったのです」
──戦闘系がないのは?
「立ち上げ時の第一次計画に入れなかったのですが、今後加える方向で進めています」
──ゲームメーカーとの利権の問題などは?
「我々が参加しているゲームはすべて、すでに確立されているものばかりなので、特に問題はありません。事前にゲームのエディターと、内容について、参戦することでお互いについてどのような利点があるかなどをしっかり確認します。PSGではそのプロセスを非常に丁寧に行っています」
──スポンサー問題は?
「PSGでは、部門ごとにスポンサーが違うのでそれも問題にはなりません。現在、eスポーツに関心のあるブランドが我々のeスポーツ部門のスポンサーになってくれています」
──選手のリクルート法は?
「とにかく試合をたくさん見て、良い選手、魅力のある選手に目をつける。あるいはトーナメントで勝った選手を勧誘する、という2つの手法が主ですね。他クラブとのライバル争いもありますが、ネットワークが大きいことは我々の強みでもあります。すでにeスポーツ選手を専門とするエージェントも出始めていて、実際のサッカーと同じように契約をバイアウトしたり、トランスファーもあります」
──選手からの売り込みも?
「もちろんそれもあります。毎日のようにメールをもらっていますよ」
ゆくゆくは日本にも参入を
──eスポーツの選手は、やはり生まれもっての才能が大きいのでしょうか?
「天性の才能がやはり大きいでしょうね。たとえば、相手を分析するのに自分は10時間かかるが、同じだけのことを2時間でできてしまう人もいる。より短い時間で多くのことを習得できるんです。まあ、サッカー選手と同じですよね」
──PSGの選手となることのアドバンテージは?
「世界的に認知されたブランドを背負ってプレーできること。彼らはチームのジャージを着てプレーする。この業界ではPSGの選手のレベルが高いことは知れ渡っていますから。あとは考え方の問題です。何かを代表するということは、ベストであることを自分に課すことにもつながる。1人でゲーム感覚でプレーしているときとは違って、コンペティションになったとき、何かを代表している、というのはとても大きいことです。
あとは、彼らもこのクラブのプロジェクトの一員ですから、サッカー選手など他競技の選手と交流したり、カタールにいるeスポーツ選手は、リアルなサッカーもプレーしていたので、パリに呼んで、このクラブのユースクラブでプレーするチャンスも与えられました。
このようにeSportsとリアルなスポーツをリンクさせることに関しては、PSGでは他に類を見ないことができていると自負しています」
──選手たちの活動形態は?
「チームで生活をともにしている“同居組”と“自宅組”があって、同じ家に住んでいる選手はいつも一緒にやっているので必要ないですが、自宅組に関しては、毎回、大会の前に集合して集中合宿を行います。『FIFA』などは個人競技なので、練習時間なども自分でコントロールできる自宅組がほとんどですが、『Dota 2』のようにチームでやる競技では、一緒にプレーするので共同生活が合理的ですね。拠点は中国にDOTA班が2つ、ジャカルタと欧州に1つずつ。現在はドイツ(ベルリン)ですが、近々フランスに移す予定です」
──データ収集などもクラブで組織的に?
「『FIFA』では、選手ひとりひとりにパーソナルコーチをつけています。強制ではないですが、現在5選手のうち3人がパーソナルコーチをつけていますね。『Dota 2』は5人1組でプレーするので、チーム全体に2人のコーチと2人のアナリストをつけています。『モバイルレジェンド』はコーチ1人とアナリストが1人。ゲームをフォローして準備するにはいろいろ必要なので、選手が必要なものを与えてあげられるようサポートしています」
──クラブとして選手に要求することは?
「自分がやっている競技に真摯に向き合ってほしい。それだけで、他の要求は特にありません。それに、そんなに厳しい締め付けもありません。選手自身が、なぜ自分がここにいて、自分が何をしたらいいのかわかっているので。それはつまり練習して、競技に勝つことです。このレベルでやっている人たちにとってゲームは「仕事」です。「趣味」ではない。その時点でメンタリティは完全に変わります。生きるためにやっているわけですから」
──今後、日本人選手をリクルートするようなことは?
「実はすでに日本のゲームに参戦して、日本にPSGのeスポーツ部門を設立しようという案は進行中です。なので近い将来、日本人のPSG eSportsプレーヤーも誕生することになると思いますよ!」
eスポーツ部門から、PSG初の日本人プロ選手誕生なるか?
eスポーツミニ連載、最終回となる次回は、フランス全体のeスポーツ事情についてお伝えしたい。
Photo: Yukiko Ogawa
TAG
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。