今季の欧州サッカーでは、3バックを敷くチームが増えている。ドイツでは、ユリアン・ナーゲルスマンが指揮するホッフェンハイム、長谷部誠が“リベロ”として注目を集めるフランクフルト、4バックを好むラルフ・ラングニックが率いるRBライプツィヒも3バックを併用するようになった。
ドイツサッカー連盟が一般雑誌として発行し、指導者向けに販売している冊子『フースバルトレーニング』の4月号では、「3バック特集」を組み、フランクフルトでの活躍が際立つ長谷部誠を表紙にしている。
ドルトムントの育成コンセプト
そのなかで、ドルトムントのU-15監督を務めるマルコ・レーマンが3バックの利点と注意点を紹介している。ドルトムントには、バルセロナのように一貫したコンセプトに基づいて決まったシステムでプレーするという決まりがないため、若い選手たちがさまざまなシステムでプレーできるように準備をすることに主眼を置いているという。
3バックもそのための訓練の一環であり、メンバー構成や対戦相手によって3バックと4バックを使い分けるという。そのなかで、今季はセンターバックとしてのポテンシャルが高い選手が比較的多いため、3バックでプレーする機会が多いそうだ。
レーマン監督は、3-5-2の“魅力”について次のように説明する。
「2トップ、そして攻撃的なセンターハーフ、前線に積極的に攻め上がる習慣を見に付けた両ウイング(サイド)バックを育成できる魅力があります。攻撃的な選手を育成するのが、我々の再優先事項ですからね」
バリエーション豊富なシステムも落とし込める練習環境
「たとえば、前半を4バックで戦い、後半は3バックで戦うようなこともします。もちろん、試合の流れの中でシステムを変えるようなこともします」と同氏が話すように、すでにU-15のカテゴリーで複数のシステムを習得させ、同年代のトップリーグで強豪ひしめくレギオナルリーガ西部の首位を走っている。
それを可能にする選手のレベルはもとより、指導環境はどうなのだろうか? 実際に指導を行っている読者に向けてリソースの話をすると、ドルトムントU-15の選手は22人(うちGK2人)。指導者は監督のレーマン氏とアシスタントコーチが2人、GKコーチが1人の4人体制のようだ。それにフィジオやマネジメントスタッフなどが数人サポートに付く。
プロ顔負けの環境だが、すでにU-15のカテゴリーでも移籍に10万ユーロ(約1235万円)の金銭が動くこともある世界だ。人事や資金、収支といった運営の面から考えると、ひとつのサッカーチームと考えるより、大企業の一部門と見なしたほうがイメージは掴みやすいのかもしれない。
前編では、現在のドルトムントを例として挙げ、U-15カテゴリーで3バックを含む複数のシステムを習得させられる状況とその環境を紹介した。後編では、より3バックの特性というピッチ上の話を紹介する。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。