10試合一斉開催、VARの部屋が足らない!
リーガエスパニョーラもいよいよ大詰め。今週末の第37節と来週末の第38節を残すだけになった。で、その2節に限っては他試合の結果を見てスコアを調整する不正の余地がないよう、試合は同日同時刻開催(通常は、裏カードを作ってテレビ放映権料が下がらないよう開催日時は重ならないように設定されている)となるのだが、問題はVARである。
マドリッドにあるスペインサッカー連盟本部のVAR室は8室しかない。8室それぞれで1試合ずつを担当するとしても、同時進行では8試合が限界ということになる。加えて、8試合分の映像音声データを一度に集中させた例はこれまでなく、キャパシティオーバーなど何らかのトラブルが起きる可能性も否定できない。
降格や残留、欧州カップ戦出場が決まる極めて重要な試合の決定的なシーンで、通信障害で画面が真っ暗なんてことが万が一起きたら大変である(公にはなっていないが、通信障害によってVAR抜きで裁かざるを得なかったケースが数試合あったと噂されている)。
「VAR車」を4試合で投入へ
そこで連盟は、第37節(現地時間12日18時半に一斉キックオフ)の10試合のうちVAR室は6室稼働に抑え、4試合で移動式のVAR車を投入することにした。
これはトラックの内部に複数のモニターとオペレーションデスク、審判席を備えたもの。スタジアムの横に駐車され、試合会場から映像音声データを直接受け取る。VAR車が出動するのは、ソシエダ対レアル・マドリー、バルセロナ対ヘタフェ、アトレティコ・マドリー対セビージャ、レガネス対エスパニョール。安全な駐車スペースが確保できること、スタジアムのインフラが対応可能なことで選ばれたという。
移動式となると、どうしても“簡易型”というイメージがあるが、オペレーションはVAR室と比べてもまったく遜色ないという。たとえば、チャンピオンズリーグのVARはすべてVAR車によるもの。UEFAは来季からVARを導入する予定だったが、それを急きょ今季のCL決勝トーナメント以降に早めたので、すべてを1カ所でコントロールする施設が間に合わなかったためだ。ここまでのCLでのジャッジぶりを見ている限り、移動式でも問題はないようだ。また、スペインでのVARデビューとなった昨年8月のスペイン・スーパーカップも、開催場所が海外(モロッコのタンジェ)だった関係でVAR車が出動している。
VARがなかった昨季までは、ミスジャッジや微妙な判定込みで降格や残留、欧州カップ戦の出場の可否が決まることが許容されていた。それが今はVARが機能するよう万全の態勢を整えて臨む。わずか1年で、リーガにとってこのテクノロジーがいかになくてはならないものになったかの証明である。
Photo: Getty Images
TAG
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。