イングランド、次に目指すは女子W杯優勝
2年前、イングランド・フットボール界は転機を迎えた。U-17とU-20の世代別代表チームがワールドカップを制し、イングランドとして実に51年ぶりの世界タイトルを獲得した。その勢いのまま、フル代表も翌年のロシアW杯でベスト4に入り、その後のUEFAネーションズリーグやユーロ2022予選でも快進撃を見せている。
もし2017年が“新生イングランド”にとっての元年ならば、2019年はイングランド女子フットボール界の新たな幕開けとなるだろう。今年6月にフランスで開幕する女子W杯で、前回3位のイングランドは初優勝を目指しているのだ。そして、その女子フットボール界の旗手となるのが、元マンチェスター・ユナイテッドのフィル・ネビル(42歳)である。
昨年1月、フィル・ネビルが女子イングランド代表の監督に任命された際には、批判も多かった。当然といえば当然である。彼はユナイテッドやバレンシアでのコーチ歴こそあるが、監督経験は自分たちが所有する8部(当時)のサルフォード・シティでの1試合だけ。女子フットボールにいたってはずぶの素人に近かった。
だがフィル・ネビルは、『ガーディアン』紙のインタビューで「私が取得したのは男子サッカーを教えるコーチライセンスではない。サッカーを教えるライセンスだ」と当時を振り返って反論する。たしかにネビルは、歴代10位となるプレミア通算505試合出場という実績を誇る(あのスティーブン・ジェラードより1試合多い!)レジェンドだ。そして2人の名将――サー・アレックス・ファーガソンとデイビッド・モイーズ――に愛された男だ。GKとストライカー以外の全ポジションをこなす器用さで、「チームに穴が空いたら、サー・アレックスは私をそこに置いた」とユナイテッド時代を振り返る。
今では、その万能性のおかげですべての選手を指導できていると胸を張る。それでも、女子スポーツ界でも通用するかは別の話に思えた。監督就任時には、「女はいつも平等を訴えるが、請求書の支払いになると黙る」という何年も前に彼がツイッターに書き込んだ冗談が物議を醸し、謝罪を余儀なくされた。不適合と見られても仕方なかった。
だが、彼には家族という心強い味方がいた。解説者を務める有名なお兄ちゃんではなく、ネビルと双子のトレイシーさんだ。トレイシーさんはネットボール(バスケに似たスポーツ)の元女子代表選手で、2015年からは代表監督を務めている。フィルの相談にも「女子選手は一流アスリートの扱いを求めるので、手加減せずに厳しく接すること」と貴重なアドバイスをくれた。だから彼はファーギー流の“ヘアドライヤー”で選手を叱り飛ばすこともあるという。
かくして監督から一流の扱いを受けたイングランド女子代表は、今年3月に開催された強豪国だけが参加する「シービリーブス・カップ」でなでしこジャパンを3-0で下して頂点に立った。次は、日本とも再戦するW杯本大会である。目標を聞かれたフィル・ネビルは「優勝」と断言。「私からするとベスト4は失敗」だと、頂点だけを見据えている。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。