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福山SCCが持つ熱量とビジョン。地域一丸で「福山創生」を目指す

2019.04.25

異色の対決となった広島の天皇杯県代表決定戦

 4月21日(日)に中国地方各地で天皇杯県代表決定戦が行われ、各県の代表が下記のとおり決定した。

鳥取:ガイナーレ鳥取(J3)
島根:松江シティFC(JFL)
岡山:環太平洋大学(中国大学L)
広島:SRC広島(地域L)
山口:徳山大学

 いずれの県も有力候補が順当に勝ち上がった印象だが、今回はその中で異色の対決となった広島県代表決定戦についてリポートする。

 決勝に駒を進めた一方は中国地方の雄、SRC広島。2016年には中国地域リーグ優勝を飾っており、昨年、一昨年も3位の好成績を残している強豪だ。3年連続で天皇杯本戦にも出場しており大本命といえる。

 そしてもう一方のブロックから勝ち上がったのが、県リーグ2部所属の福山SCC(福山スポーツコミュニティクラブ)である。

 県2部ということは【J1>J2>J3≧JFL>地域リーグ>都道府県リーグ】というピラミッドからすると7部相当となる。そんなチームが格上の廿日市FC(地域リーグ)や福山大学といった強豪を破り堂々の決勝進出を果たしたことが、下部リーグファンの間で密かな話題となっていた。

 どんなチームなのかと気になって現地に足を運んでみたが、ウォーミングアップの時点ですでに、ただならぬ雰囲気が感じられた。

 まず選手の姿勢が良い。ジャンプも素軽く、ヘディングなど空中での姿勢制御も安定しているように見える。プロフィールの身長/体重や実際の体格が、県リーグとは思えない体つきをしている。ロングキックやロンド(鳥かご)の精度にしても、およそ県リーグのレベルとは思えなかった。予備知識なしで「いま練習しているのはJ2のチームです」と紹介されたら、疑いも無く信じてしまったかもしれない。

惜しくも天皇杯出場はならなかったが大健闘を見せた福山SCC

県2部の福山SCCが醸し出す不思議な魅力

 試合開始からSRC広島が激しくプレッシャーをかける。SRC広島は質実剛健ないわゆる「社会人の強豪」チームで、並みのチームであればプレスに圧倒されそのまま飲み込まれてしまうところなのだが、その広島が思うようにボールを奪えない。福山SCCは個々のキープ力が異様に高く、複数に囲まれても何とかしてしまう。特に14番の平山諒、10番の若宮健人などは2、3人を剥がして展開する体の使い方と技術を発揮し、8番の藤田啓介は時折セルヒオ・ブスケッツと見紛うようなプレーを披露していた。

 下部リーグからの快進撃ということで、試合前に想像していたのは強固な組織力だったり、尖った戦術を持ち合わせているチームだった。しかし実際は真逆というか、いびつではあるが強烈な「個」を持った集団だった。県3部から県2部に昇格した今季は選手全員が入れ替わっているらしく、チーム始動からわずか3カ月弱。そのため組織力というものはあまり感じられずに脆さも見せるが、選手一人一人のインパクトは大きかった。チャンスの数では完全にSRC広島のペースといっていい試合展開なのだが、福山SCCはとにかくファーストサード・ミドルサードでなかなかボールを失わない。プレスがまったくはまらないため、優勢なはずのSRC広島の選手が終始イライラしているという、不思議な試合展開が続いた。

 攻守にまだまだ組織整備がなされてないため、高いテクニックを誇りつつもファイナルサードでは「各人のとんちの噛み合い具合」頼みとなり決定機は少なめ。中盤の要である高田健吾を累積停止で欠いていたこともあり、守備ではカウンターで一気にゴール前まで迫られるなどチャンスと被チャンス数が割に合っていない感じではあったが、各選手のキープやターン、サイドチェンジなどの技術は十分に見応えがある。自陣でプレッシャーがある状況でも躊躇なくつなぐ姿勢はボラ・ミルティノビッチ時代の中国代表を彷彿させた。(例えが古くて申し訳ない。。。)

 後半6分にはディフェンスラインのギャップを埋められずに、クロスからついに失点。その後も何度もとどめを刺されそうになるが奇跡的に持ちこたえ、最後はあわや同点という場面を何度も作ってみせた。最後まで不思議な、しかし魅力のあるチームだった。

目指すは2022年のJリーグ参入

 試合前には、サポーターとクラブスタッフの打ち合わせの様子も見学させていただいた。事前に集まったユニフォームサポはわずか5名(県2部でユニフォームを持ったサポーターがいるのにも驚きだが)。しかしながら、入念な打ち合わせからは人数とは関係ない熱意が感じられ、最後は「世界一カッコいい応援を目指しましょう!」と気勢を上げた。

 試合開始時刻が近づくにつれ観客席も続々と埋まり始め、気が付けば福山側の応援席には約200名が詰めかけていた。決勝の晴れ舞台とはいえ、福山市から会場である広島広域公園までは高速道路を使っても車で1時間以上かかる距離だ。県2部のクラブにこれだけの応援が駆けつけるというのは異例と言ってよく、福山SCCが地域に確かな根を張っていることの証左だろう。

福山SCCは選手、クラブとファンが一体になってJリーグ参入を目指す

 試合後に岡本佳大GMに話を聞くことができたが、その言葉からは確かなビジョンが感じられた。取り組み事例を挙げると、Jリーグを目指す社会人クラブはスポンサー企業に選手を受け入れてもらって給料を肩代わりしてもらう形が一般的だが、これはスポンサー企業にとっては負担であり、リスクも存在する。そこで福山の場合は、自前で事業を起こして選手にそこでの働き口を斡旋する、というスキームを構築しているという。

 練習についても、社会人チームに多く見られる夜間練習ではなく、あくまで「選手」として午前に練習を行い、午後に仕事をするというサイクルを取っている。県2部というカテゴリーに不似合いな技量の選手たちも、「独自のコネクションで志のある選手、戦える選手をスカウトしている」という辣腕ぶりだ。

 戦力値が高すぎるゆえに通常のリーグ戦では強化につながらないのではないか? という疑問も湧いたが「それについてはリーグ戦での1試合ごとの意識を高く持つとともに、上位カテゴリーとのトレーニングマッチを多く組んでいくことを計画しています。県1部、地域リーグに上がり、そして地域決勝という過酷な舞台を勝ち抜けるチームを作り上げるところまで長期的に考えています」と、先の展開までしっかりと見据えられている。

 岡本GMはさらに「将来的にはJ1まで上がれなくても、J2・J3で毎週数千人が集まる盛り上がりを福山に作りたい。福山市とともに成長していきたいんです」と語ってくれた。福山SCCは1年毎にカテゴリーを駆け上がっての2022年Jリーグ参入を目標に掲げているが、今日の熱量ならば本当にそのとおりに行くかもしれない、そう思わせるものがあった。

 福山市は人口46万人を抱える中核都市ながら、地理的要因と独自の文化性からカープ、サンフレッチェ、ファジアーノのいずれもが取り込みきれていないプロスポーツ空白地だ。内から発展するほうが可能性が高いかもしれない。実際にはまだ県2部リーグの1クラブに過ぎないが、今後の動向に注目していきたい。

【一般社団法人福山スポーツコミュニティクラブ】

2015年の「福山にプロサッカークラブをつくろう会」発足からわずか1年で法人化。2017年にはサッカートップチームを立ち上げ県リーグに昇格。2018年は県3部リーグを優勝して2部に昇格した。2022年のJリーグ参入と「スポーツを通じたまちづくり運動を広め、福山を活性化させること」を目標に掲げている。

写真提供: 福山SCC

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Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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