VAR導入でPKが20〜40本増える?
プレミアリーグ史上初の“ミッドフィールダー得点王”が誕生する日は近いかもしれない。
ブンデスリーガやセリエAから遅れること2年、プレミアリーグも来季からようやくVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を導入する。これで物議を醸す判定は減るはずだ。その一方で、急増する可能性があるのがPKだ。
トッテナムのDFヤン・フェルトンゲンは、先日のチャンピオンズリーグ準々決勝で同僚のダニー・ローズがVAR検証によりハンドのPKを取られたあと、テクノロジーの影響を危惧した。「スローモーションで見れば多くのシーンがPKに見える」とベルギー代表DFは首をかしげる。「相手選手を引き倒さなくても、スロー映像を20回も見ればPKに見えてくる。今後数年でPKは20~40本ほど増えると思う」。
さて、もしフェルトンゲンの予言が正しいのなら、来シーズン以降のプレミアで得点王候補に急浮上する選手がいる。その選手とは、守備的MFながら今季リーグ戦で12得点しているクリスタル・パレスのルカ・ミリボイェビッチである。
PK職人で知られるミリボイェビッチは、今季リーグ最多となる10本(11本中)のPKを決めており、プレミアのシーズン最多PK得点記録まであと1本に迫っている。実は昨季もリーグ最多をマークしており、PKの決定力では彼の右に出る者などいないのだ。
クリスタル・パレスの知られざるPK職人
ミリボイェビッチは「PKは宝くじではない」と断言する。彼は各チームのGKの映像を確認し、試合前から蹴る方向を決めて練習するという。そして最も重要なのは「経験を積んで落ち着いて蹴れるようになったことだ」と明かす。また、今季パレスがマンチェスター・ユナイテッドに次ぐPK数を獲得していることも偶然ではなく、「足技に長けたアタッカーがボックス内で仕掛ける」という戦術だと話す。確かにパレスは、ウィルフリード・ザハが今季プレミアで6本のPKを獲得しており、リバプールのモハメド・サラー(5本)を抑えて最多を記録している。
では、絶対的エースのザハが「彼ほど冷静には蹴れない」と自ら獲得したPKを譲ってしまうミリボイェビッチの精神力は、一体どこで培われたものなのか。恐らく、少し複雑な背景を持つ祖国セルビアが彼を逞しくしたのだろう。さらにレッドスターやオリンピアコスなど、その国最大のビッグクラブでプレーすることでも鍛えられたようだ。「オリンピアコスは常に“マイナス2ポイント”で試合がスタートする。つまり引き分けさえも許されないのさ」と語るように、その国の王者たるクラブで勝利への執念を養った。だから「PKを外す気がしない」と言い切れるようになったのだ。
実のところを言うと、セリエAやブンデスリーガでは、VAR導入後もPKの本数に大幅な変化はない。だが万が一、VARとプレミア特有の激しさが相まってPKが激増するのなら、そのときはセルビアのPK職人から目が離せなくなる。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。