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ドルトムントは「真実の愛」に目覚めた。マーケティングトレース第二回

2019.04.26

 フットボリスタをご覧のみなさま、こんにちは。ブランディングテクノロジー(株)の黒澤友貴です。前回は、セリエAの巨人・ユベントスについての分析を行ないました。おかげさまで、多くの方にお読みいただき感謝しております。

 第二回目となる今回は、ドイツ・ブンデスリーガでも随一の熱狂的なファンを誇り、香川真司選手が長く在籍していたボルシア・ドルトムントについてマーケティングトレース(※)を行ないます。

※優良企業のマーケティング戦略を図解・要約することで、誰もが再現可能にするための分析手法のこと

 フットボリスタの読者の方ならご存知の通り、ドルトムントはブンデスリーガ1の観客動員数を誇るクラブです。ブンデスリーガの観客動員数トップ3は、1位ドルトムント、2位バイエルン・ミュンヘン、3位シャルケ04となっています。

 本日のマーケティングトレースのテーマは、「なぜドルトムントはファンを熱狂させ続け、世界一の観客動員数を誇るブランドを築くことができたのか?」と設定して分析していきます。

アニュアルレポートで見る、ドルトムントの経営状況

 まずは、ドルトムントの経営状況を把握します。

※ドルトムントは上場企業であり、財務数字はアニュアルレポートにて公開されているため、アニュアルレポートの内容を確認しながら分析しています。

 売上・ブランド価値ともに右肩上がりに成長していることがわかります。

 財務数字を見ると順調に成長し続けているように見えるドルトムントですが、2000年代半ばに破綻の危機に瀕していたことは有名な話です。

 その際に危機に立ち向かった経験が、今のマーケティング・ブランド戦略の基盤づくりに繋がっていることがトレースすると見えてきます。

 では、ドルトムントが、どのように強いブランドを築いてきたのかを具体的に見ていきましょう。

ブランドアイデンティティの定義

 経営破綻の危機に陥ったドルトムントは「自分たちは何者か?」という問いに立ち戻り、ブランドアイデンティティを定めます。その時に設定したのが、クラブのモットー「Echte Liebe」(真実の愛)です。

 同時に、公式媒体やグッズに使用されるロゴやエンブレム、カラーを統一するなどして、顧客接点において一貫性のあるコミュニケーションが行われるようになったようです。

スタンドに掲げられたクラブエンブレム

 もともと地域に根付いてファンとの絆を大切にしてきたドルトムントでしたが、ブランド価値を言語化し、ステークホルダーと共有したことが、強く持続的に成長し続けるチームづくりに繋がっていることがわかります。

 ドルトムントのマーケティング戦略の中心にはこのブランドアイデンティティが存在していることが、トレースをしてみると強く感じることができます。

 ここから、具体的なマーケティング戦略を整理していきます。

3C分析から基本戦略を読み解く

ドルトムントの基本戦略を、顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の視点で分析していきます。

 ポイントを整理すると、下記の2点が全体戦略の特徴としてあることがわかります。

●チーム=自社(Company)のブランド価値をファン=顧客(Customer)に浸透させる
●競合チーム(Competitor)とのクラシコ(競争)はファン=顧客(Customer)を熱狂させる

 ファンを熱狂させるための構造ができていることが、3C分析から読み取ることができます。また、ドルトムントはデジタルマーケティング戦略にも早くから力を入れており、スタジアム環境含めてデジタルシフトを推進しています。

2014年にオープンした施設「FanWelt」(=FanWorld)。 「すべてのファンが集う場所」(セールス&マーケティング責任者のカルステン・クラマー)のためにクラブは800万ユーロを投じた

4P分析(マーケティングミックス)を読み解く

 4P分析でマーケティング戦略を要約すると下記の通りとなります。

 次に、ドルトムントの具体的なマーケティング戦略を4P分析から読み解いていきます。

・商品(Product):熱狂的なブランド体験
・場所(Place):オフライン=スタジアム体験×オンライン=デジタル接点
・広告(Promotion):デジタルを活用して熱を伝達する
・価格(Price):市民が気軽に入場しやすい価格設定=低価格で購入できる立ち見席が存在

 マーケティング施策の中心には、ブランドアイデンティティの中心にあるIntensity(熱狂的)がある。ここが鍵だと考えています。

 中でも興味深いのは、価格設定です。

 ホームスタジアムであるジグナル・イドゥナ・パルクには、立ち見席があることが有名です。この立ち見席の価格は、地域の人が観戦しやすいように価格は抑えられ、残され続けています。

 ドルトムント地域は、ドイツ国内で比較しても経済的に裕福な地域ではないようです。売上・利益だけ見れば料金をさらに高くすることもとるべき戦略になりますが、コアファンである市民ファンを大切にする姿勢が見受けられます。

ドルトムントファンが陣取るホームの南スタンド。急傾斜の立ち見席を熱烈なサポーターが埋めつくし、相手に威圧感を与える様は「黄色い壁」と称される

 ドルトムントはスポンサー企業も、グローバルブランドだけではなく、ドルトムント市付近に本社を構えるローカル企業が多くなっています。

 グローバルクラブでありながら、ローカルに根付いて、コアファンを大切にすることが、結果的に会員数の増加や売上・利益の増加に繋がっているのだと考えています。

参考①:地域企業との連携
参考②:https://www.bloomberg.co.jp/quote/BVB:GR

日本におけるマーケティング戦略

 日本におけるマーケティング戦略においても、無理に影響力のあるスポンサーと組むような手法はとっていません。

 スポンサーに対してワークショップを実施し、自分たちのブランドアイデンティティや戦略を共有する時間を大切にしていることがわかります。

ドルトムント、日本企業との関係性を強化へ。将来的なJクラブとの対戦も模索

 新たな市場に参入する際には、一気に売上拡大を狙わない。1.5倍ずつでも着実にファンを根付かせ、成長するやり方をとる。

 そのために、パートナー選定、その国にあったコミュニケーション戦略を探る。

 グローバル戦略の中でも、クラブが大切にし続けているブランドの軸を一本通した戦略があることがわかります。

アイデンティティを見失わないマーケティング

 ドルトムントのマーケティングトレースから見えてくるのは、「自分たちのアイデンティティを見失わないマーケティング」の大切さです。

 ドルトムントは、とにかく認知を広げて、グッズ収益を増やすというマーケティング手法はとっていません。下記3つの問いに向き合って、芯の通ったマーケティングを行ってきていることがわかります。

●自分たちのアイデンティティはどこにあるか?
●自分たちのブランドにとってコアなファンは誰か?
︎●コアファンを熱狂させるために誰とパートナーシップを組むべきか?

 ドルトムントはグローバルなサッカーチームですが、ローカルコアファンを大切にし続けている。

 サッカークラブにとって、勝つことは当然大切です。ただ、ドルトムントは、ブランドアイデンティティをブラさないことにより「勝ち負けを超越した、ブランドへの愛着がある状態づくり」に取り組んでいるのです。

 拠点であるローカルコアファンを大切にし、ブランドアイデンティティをブラさずにマーケティング戦略を展開することで、世界的な認知も獲得する。この戦略は、これから世界に出ていく日本のサッカークラブにとってもヒントになるのではないでしょうか?

Photos: Bongarts/Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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ドルトムントビジネスマーケティングトレース

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Tomoki Kurosawa

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