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中井卓大(レアル・マドリー)。モドリッチより「強い」選手の途上

2019.04.20

 「白い巨人の卵」が来日した……と言うと、「なんのこっちゃ」という感じだが(そもそも巨人はたぶん哺乳類だろう)、レアル・マドリーのU-16チームが日本にやって来ている。4月19日に神奈川県平塚市で始まった「U16キリンレモンカップ」に出場するためだ。

 この大会、昨年はU-15年代のカテゴリーで開催されており、今年で2回目となる。レアル・マドリーのこのカテゴリーには日本人MF中井卓大が所属しており、ちょうど彼の進級に伴って大会のカテゴリーも上がった格好である。それだけ「あのレアル・マドリーに所属する日本人選手」というバリューがあるということなのだろう。

 「ピピ」の愛称で知られる中井の名前は日本人のサッカー好きには随分と広く知られているし、この日もNHKを含めたテレビ各局が集結していた。CSテレ朝チャンネルでは放送も予定されており、夜のニュースショーである『報道ステーション』でも大きく扱われる予定とのことだった。紙メディアより映像メディアの熱が大きいのは久保建英の時と似ている。テレビ業界には大して詳しくないが、そういう需要があるのだろう。

 個人的には中井一人だけでなく、所属リーグでも首位を独走し、来週にはもう優勝が決まりそうだというレアル・マドリーのこの年代のチームを観られることを楽しみにしていたのだが、5人の主軸選手が年代別代表チームに招集されて来日できなかったとのことで、この点はちょっと残念だった。「正直、昨年来日したチームよりレベルは落ちると思う」(クラブスタッフ)ということで、実際に日本勢との試合は内容的にそこまで大きな差がつくことはなかった。

来日中のレアル・マドリーU-16(カデーデA)チーム

 第1試合でレアル・マドリーは東京ヴェルディと対戦。Jリーグのユースチームは「高校1年生だけでチームを作る」となると人数的に難しいものがあるので、東京Vは大会規定に基づいてオーバーエイジ選手も数名補強しつつ、中学生も加えた形で完全に臨時編成のチームを作ってこの大会に参加。U-17日本代表候補に選ばれるような選手から、中学2年生の有望株まで幅広くそろえたラインナップである。

 東京Vユースはかつて中島翔哉らが奔放に遊び心に富んだプレーを見せていた時代とは異なり、ポジショナルプレーをベースにしたロジカルなサッカーをするチーム。大会主催者が「これをレアル・マドリーにぶつけてみたらどうなるんだろう?」と思ったかどうかは定かでないものの、興味深いカードだったのは間違いない。

 試合はポゼッションプレーに関して東京Vが上回る時間帯も長く、ボールは動いていたし、レアル・マドリーのSB裏を使うところまでは形も作れていた。レアル・マドリーを率いるトリスタン・ダビッド・セラドル・ロドリゲス監督が「東京Vは時には非常にオフェンシブであり、戦略をちゃんと持っている素晴らしいチームでした」と振り返ったのも社交辞令ばかりではあるまい。ただ、東京Vがゴール前の危険地帯へ進出できた回数は数えるほど。逆にレアル・マドリーは少ないチャンスで抜け目なくゴールネットを揺らし続け、カウンターから個人能力で東京Vのやや淡泊な守備を破るなど4つのゴールを叩き込む。結局、4-1と大差での勝利になった。

 欧州・南米のトップクラスのチームと対戦した時の日本人選手のコメントは大体決まっていて、「向こうの選手は(日本と違って)決めるところを決めてくる」というやつなのだが、この試合はまさにそんな内容に。よく言われるシュートスピード、パススピードの差にも繋がるキックの質はもちろんだが、ゴール近くでのボールの置き方・運び方といった部分でのスキル、そしてもちろん、ディフェンス側のスキル・能力差がスコアの差になって表れてしまう。

 続く第2試合で対戦したのは桐光学園高校。こちらは純粋な1年生チームで、レアル・マドリーと対戦できるということで普段は3年生を含めたAチームでリーグ戦に出ている選手も呼び戻しての参戦である。ただ、入学間もないまま時期であり、一緒に練習した時間は絶対的に短い。果たしてどのくらい戦えるのか少し心配だったが、蓋を開けてみれば確かなチームスピリットを持った戦いぶりを見せた。

 1年生チームを預かる久保昌成コーチが「それを出せなければ高校サッカーじゃないですから」と断言したファイティングスピリットを個々が持ち、ビビることなく(そしてしっかり助け合いながら)レアル・マドリーに立ち向かった成果である。やや不運なPKから失点してしまったが、相手ゴールに迫るシーンも作った。もちろん、2試合目ということでレアル・マドリーがメンバーを少し落とし、早めの選手交代をしてきたという要素も加味しておく必要はあるのだが、善戦と言っていい内容だった。ただ、この試合でも結局、ゴール前だけは自由にやらせてもらえなかった点は1試合目と変わらない。連動して動く中でシュートコースには必ず人がいてゴールは隠されている。このあたりの徹底は、やはりさすがだった。

■「伸長」の只中

 何も知らない第3者がこれら2試合について試合経過をまとめたマッチレポートをしたためた時、中井の名前が出てくる可能性はおそらくそう高くないだろう。2試合ともにボランチの位置で先発し、1試合目はフル出場、2試合目は後半途中に交代となったが、そこまで飛び抜けたパフォーマンスを見せたわけではない。もちろん光るプレーもあって、技術レベルの高さを感じさせるシーンはあったが、中井自身も満足した様子はなかった。また自らの課題についてもこう語っている。

 「もっとディフェンスを強く、うまくなりたい。もっとシュートも良くしていきたい。エリアの外からのミドルを狙っていくように言われているが、今日はそこも出せていなかった」

 昨年秋にU-15日本代表に呼ばれた際も、特に課題となったのは守備面だった。日本時代はFWの選手で、9歳でスペインに渡ってからトップ下となり、現在はボランチでプレーする。そのポジションでリーグ戦24試合6得点と攻撃面では実績を残しており、ボールタッチなどにも憧れだと言う「モドリッチ」の片鱗はあるが、総合的にはまだまだ発展途上の選手である。

 指揮官は「(中井は)感覚をしっかり持っていて、テクニックもある選手。肉体的な面でもどんどん成長していると思う。将来はモドリッチのような選手になるだろうと思う」とそうした見方を肯定した上で、こう付け加えた。「モドリッチより“強い”選手に育ててあげたいと思っている」と。

 そもそもこの年代の選手が「途上」なのも当たり前である。年齢的に伸びしろがあるというのはもちろんそうだが、身長もまだまだ伸びており、現在180cmに達したところ。体重も1年で3、4kg増えたそうで、こうした「伸長」が起きている成長期の選手はパフォーマンスが最大化されないもの。真価が見えてくるのは身長の伸びが止まってからなので、長い目で観るべきだろう。焦っても、結局は誰も得をしないのだ。

 年代別日本代表への招集について待望論もあるが、まだまだ身長が伸びている最中ということも加味すると、ここは少し慎重でもいいかもしれない。視察に訪れたU-17日本代表の森山佳郎監督も、「変な期待だけ先行しても本人のためにならない。ゆっくり焦らず見守ってあげてほしい」と過熱しがちな周囲に釘を刺す。年代別代表を経験する意義は何と言っても国際経験を積める点にあるわけだが、その点ではレアル・マドリーでプレーしている時点で中井は特別な経験を積み続けているということもある。この点でも、やはり焦る必要はない。

 中井が将来「“強い”モドリッチ」になってくれれば日本サッカー界として頼もしいことは間違いない。だからこそ、現在の彼があくまでその「途上」にあることも忘れるべきではないだろう。

Photos:Akihiko Kawabata

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中井卓大

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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