ドイツサッカー誌的フィールド
皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、今ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。
今回は、育成大国の看板に傷? 冬の移籍市場が突きつけたドイツ勢の現実。
ワールドサッカーをある程度注意深く観察している人なら、移籍市場で奇妙なことが起きやすくなっていることに、遅くとも2017年の夏には気づいたであろう。あの夏、パリSGがネイマール獲得のために投じた金額は2億2200万ユーロ。今では中堅の選手にさえ2000~5000万ユーロの値がつく。
ブンデスリーガはこの動きをいぶかしく、同時にある種のフラストレーションを感じながら見ている。例えば、ボルシアMGのマックス・エバールSDは、現在の選手の売り買いの「狂乱ぶりを上回るものはない」とコメント。チームの強化に直結する即戦力を獲得することが、どんどん困難になる恐れがある。そして、この現状に対するドイツ国内の反応は興味深い。「古い市場は狂っている。だから各クラブは、新しい市場に投機するようになっている。まだ誰も知らない株を取引しようと試みるのだ」と書くのは『南ドイツ新聞』。700万ユーロで獲得し、現在その10倍の価値があるとされるドルトムントのジェイドン・サンチョのように、成長してくれることを願ってティーンエイジャーを獲得するのである。
「育成は機能している、移籍市場で」
シャルケはその順位と攻撃力の欠如を考えれば本来、信頼できるストライカーを緊急に必要としていた。しかも、カネはあったのだ。だが、獲得選手が発表された際、「ラビって誰?」と思った人が少なからずいた。この取引で、シャルケはマンチェスター・シティの口座に1300万ユーロを振り込んだという。まだプロデビューすらしていない18歳の若者のために、である。スプリントに優れたこのウインガー獲得は「年齢のことを考えれば、将来のための投資でしかないだろう」とは『ベルト』紙の評だ。
これと同じことが、冬の市場でブンデスにやって来た多くの選手について言える。降格の危機にあるシュツットガルトは、ガラタサライから引き抜いた18歳(加入時点、以下同)のDFオザン・カバクに1100万ユーロを投資した。将来のある選手ではあるが、残留争いの助けになるかどうか定かではなかった。バイエルンに合流した18歳のカナダ人MFアルフォンソ・デイビスは1000万ユーロ。RBライプツィヒは21歳のアマドゥ・ハイダラに1900万ユーロ、19歳のタイラー・アダムスに約265万ユーロを投じ、ドルトムントも20歳のアルゼンチン人DFのレオナルド・バレルディに1600万ユーロを支払った。フランクフルトも19歳のブラジル人DFトゥタを獲得。「ブンデスの育成は機能している、移籍市場を舞台に」と『ターゲスツァイトゥンク(taz)』紙は嘲笑的だ。
バイエルンという例外
各クラブはかつて、冬の市場で夏の買い物の間違いを修正しようと試みたものだ。それが今では、1月は投機の季節となっている。ある程度信頼の置けるCBやしっかり得点してくれるFWなど、すぐにチームの助けとなれる可能性がある選手たちは高くなり過ぎたと、多くのマネージャーが感じているからである。ゆえに、ブンデスのクラブは“隙間市場”を狙うのだ。リーグ全体が次のサンチョを探している。将来的に化けて、中小クラブのスカッドをまるごと買えてしまうくらいの天文学的な金額でイングランドに売ることができるスーパースターを。
それにしても、このやり方がバイエルンでは機能しないらしいのは興味深い。彼ら自身がビッグクラブであることが問題のようだ。シャルケやRBライプツィヒがあるタレントに興味を示した場合、イングランドのビッグクラブはすぐ交渉に応じる。自分たちの要求にはまだ応えられないから、一つランクを落としたレベルのチームで成長してもらうというのは彼らの世界観に合う。だが、バイエルンがチェルシーのカラム・ハドソン・オドイのようなタレントを獲得したいと言い出すと、売る側が躊躇(ちゅうちょ)するのだ。
冬の移籍市場でのこうしたトレンドが、これから本当に機能するビジネスモデルになるかどうか定かではない。唯一確かなことは、この冬の市場においてドイツの問題がかつてなく明らかになったことである。イングランドのクラブのユース部門では現在、ドイツの育成センターよりもいい仕事がなされているようだ。『ビルト』紙はこう指摘する。
「今、私たちは認めなければならない。彼らには最も優れたユース選手たちがおり、将来は彼らのものだ。イングランドはU-17とU-20ワールドカップのタイトル保持者である。それに比べ、我が国のユース選手たちはいったい何をやっているのだ、と問うのは、代表のレーブ監督だけではない」と。
Photos: Bongarts/Getty Images
Translation: Takako Maruga
Profile
ダニエル テーベライト
1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。