「彼を先発から外すなんてあり得ない。今のチームは彼とあとの10人で成り立っているからね」
18-19シーズン、あの名将ペップ・グアルディオラにここまで言わしめたのは、「欧州で最も過小評価されている男」こと、ポルトガル代表 MFベルナルド・シルバだ。
シルバは自ら“風船ガム”にたとえる足に吸いつくようなボールタッチと、今季プレミアリーグ最長走行距離13.7kmを更新した豊富な運動量を兼備する173cmの小さなレフティ。 今でこそマンチェスター・シティでペップから絶大な信頼を勝ち獲っているが、 ユース時代はそのサイズが大きな足かせになっていた。
「実際のところ、僕の道のりはとても険しかった。ずっと小さかったから、10代に入ると一部の指導者たちからそのことを問題視されるようになったんだ。16歳の時、僕はキャリアの中で危機的なステージを迎えた。ユースチームでまったくプレーできなかったんだ。僕にとってそれは拷問だったよ」
『The Players’ Tribune』でシルバ本人が綴ったカミングアウトによれば、元ポルトガル代表MFマヌエル・ルイ・コスタに憧れてベンフィカのアカデミーに7歳で入団した彼は、10代後半になって低身長を理由に出場機会すら得られない日々が続いたという。
シルバ少年を救った「小さな天才」
もがき苦しむシルバに救いの手を差し伸べたのは、当時ベンフィカユースでコーチを務めていた元ポルトガル代表FWフェルナンド・シャラーナだった。1984年の欧州選手権で母国を準決勝に導いた163cmの“小さな天才”は、ある日シルバ少年を呼び出してこんな言葉をかけた。
「よく聞くんだ。監督にフットボールを見る目がないだけで、君はここで1番の選手だ。私が保証しよう。いつか君がチームに欠かせない存在になれる日がやってくるよ」
「彼の言葉が僕の背中を押してくれたんだ」と『i NEWS』が実施したインタビューでシルバは回想する。
「とりわけ、ほとんどフットボールをプレーできなかった時期だったからね。彼は僕の恩人だよ。ベンフィカとポルトガルで史上最高と謳われるレジェンドの1人がああやって僕の言葉に耳を傾けてサポートしてくれたら、それはもう大きな助けになるに決まっている。彼には深く感謝しているよ」
恩師との出会いをきっかけに、失意の底からベンフィカのBチームまで登り詰め、シルバはアイドルであるルイ・コスタと比較されるほどの有望株に成長した。トップチームでは公式戦2試合のみの出場に終わったが、新天地を求めて移籍したモナコでフランス代表FWキリアン・ムバッペらとともに大ブレイク。2017年夏に4300万ポンドで加入したシティでも、かつてシャラーナが予言したように「欠かせない存在」になりつつある。
その証拠に、今季記者会見の場でペップは幾度となくベルナルド・シルバを絶賛している。中でも最大級の賛辞が贈られたのは、負ければプレミア連覇に向けて後がなくなっていた首位リバプール戦(○2-1)。先制点をお膳立てするだけでは飽き足らず、小柄な体を張って攻守に奮闘する獅子奮迅の働きぶりで、優勝への望みを繋ぐ勝利に大貢献してみせた。
「ベルナルド・シルバがすべてをやってくれた。彼は1番小さい選手だけど、フットボールをプレーするのに高い身長や優れたフィジカルなんて必要がないことを示したんだ。凄まじいよ。あれだけのパフォーマンスを見るのは久しぶりだね。クリーンで、クレバーだった。ファン・ダイクを相手にしながらデュエルで余裕を奪ったんだ」
“小さな天才”から小さな背中を押された少年は、今や193cmもある世界トップクラスのDFフィルジル・ファン・ダイクと互角以上に渡り合うまでに成長。シティ公式のインタビューでは、むしろそのサイズが自身の進化を促してきたことを明かし、同じ悩みを抱えるサッカー少年たちに力強いアドバイスを送っている。
「フィジカルで上回ることができれば、それは後押しになる。でも、フットボールをプレーする中で僕はずっと1番小さい選手なんだ。それなら他のことで補っていけばいい。速さや強さで上回ることができれば、それが力になってくれるからね」
「速く頭を回転させて他の手段でボールを奪おうと挑戦すれば、そこから学ぶことができる。そうやって歩んできたのが僕のフットボール人生なんだ」
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Profile
足立 真俊
1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista