「ケガとともに生きた」選手たち#3
3月12日に発売された『月刊フットボリスタ第67号』では「ケガとともに生きる」と題し、アスリートにとって逃れることのできないケガにサッカー界がどう向き合っているのか、不運に見舞われた選手たちの逆境の乗り越え方、人生への向き合い方から、なかなか表に出ないケガの予防、治療、リハビリにまつわる最新事情までを取り上げている。
ただ実は、フットボリスタがこうしてケガについて特集するのは初めてではない。ちょうど10年前の2009年11月5日発売号で、負傷に泣かされた選手たちの状況や当時の最新事情にフォーカスしていた。そこで今回の最新号に合わせて、当時の特集からいくつかの記事をピックアップして掲載する。
#3はルカ・トーニ。ケガを押して試合に出続ける……選手の性とも言える無理を重ねたストライカーを救ったのは、最新医療を学んだフィットネスコーチの存在だった。
※2009年11月5日発売『週刊footballista #142』掲載
Luca TONI
ルカ・トーニ|バイエルン
09年3月、トーニの右足のアキレス腱が悲鳴を上げた。それまでは痛み程度で済んでいたものが急激に悪化し、炎症を起こしてしまったのである。トーニはクリンスマン監督(当時)に「気温の高いところでリハビリしたい」と直訴し、1週間イタリアのボローニャに戻る許可を得た。戻って来た時には炎症もいくぶん収まっており、万全ではないものの、試合に出られる状態にまで戻っていた。
しかし痛みを抱えたまま出場を繰り返し、さらにコンフェデレーションズカップに参加したことで、再び炎症がぶり返してしまう。7月にファン・ハール新体制がスタートしても、トーニはチームに合流することができなかった。
この状況を救ったのが、フィットネスコーチのトーマス・ビルヘルミである。ビルヘルミはアメリカのアリゾナにある施設で最新のスポーツ医療を学び、06年W杯でドイツ代表のトレーナーを務めた気鋭の若手だ。サッカーの試合で選手が行うモーションを部分的に取り出し、それをフィジカルトレーニングに取り入れる手法を習得。同施設のスタッフとともにドイツ代表選手の肉体改造に成功した。
トーニは、そのビルヘルミのマンツーマンのサポートを受けて日々リハビリに取り組んだ。患部の周囲の筋肉を、プレー中と同じ動きで鍛える。その結果炎症は改善され、9月中旬にはほぼ100%の状態に回復した。
そしてバイエルンが不調に陥ったことで、トーニにチャンスが訪れる。10月17日のフライブルク戦でゴメスが外され、代わりに先発起用されたのだ。見事トーニは1アシストを記録し、レギュラーの座を奪還。10月28日のドイツカップ、フランクフルト戦では待望の初ゴールを決めた。
名トレーナーのサポートの下、トーニはアキレス腱の炎症をほぼ克服することができた。今季こそは、07-08シーズンにブンデスリーガ得点王を獲った時の輝きを取り戻せるかもしれない。
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Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。