SPECIAL

ユベントスの育成部門ではどんなトレーニングをしているのか?

2019.03.12

クトローネやドンナルンマらを輩出したミランとも異なるアプローチで、すべての年代を通して常に同じ価値観、同じ目標を共有し、しっかり結果も残しているのが、ユベントスの育成部門である。イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』に扉を開き、テクニカルコーディネーターのステファノ・バルディーニとU-13監督のジョバンニ・バレンティが大いに語ったインタビュー(2018年3月13日公開)を特別掲載。


 冬もそろそろ終わろうかというある朝、トリノ郊外ビノーボにあるユベントス・トレーニングセンターに到着した私たちは、この日はトップチームの練習がないことを知った。メインゲートの外にサポーターが誰一人としていなかったからだ。受付まで迎えに来てくれたのは、U-13監督のジョバンニ・バレンティ(Giovanni Valenti/以下GV)。テクニカルコーディネーターのステファノ・バルディーニ(Stefano Baldini/以下SB)のオフィスまで案内してくれた。バルディーニは、7歳から13歳までをカバーする育成年代前期の責任者であり、U-14からプリマベーラ(U-19)までをカバーする育成年代後期についても意思決定に参画する立場にある。
最初から単刀直入に、あらゆる側面において異なる育成年代の選手たち一人ひとりをどう育てているのかについて、話を始めた。


■3つの主領域を、統合的な視点で

戦術理解、技術、フィジカルの側面を同時にどの年代においてもトレーニングしています


── 技術、戦術、フィジカル、メンタルといった異なる領域を、年代ごとにどのように扱っていますか。それぞれを個別にトレーニングしているのでしょうか?

SB 「ここユベントスでは、育成の過程において領域を分離して扱い、個別にトレーニングすることはできないという統合的な視点に立っています。領域については、大きく3つの主領域を設定しています。一つは戦術理解、つまりその状況において正しいプレーを選択する能力、もう一つは技術、つまりプレーの遂行を可能にする能力、そしてフィジカル、つまりプレーを持続して行う能力です。どの年代においても、私たちはこの3つの側面を、同時にトレーニングするようにしています。年代によってこの3つのどこに軸足を置くかは多少変わってきますが、それ以上ではありません」

GV「異なる領域の能力を異なる時期に伸ばしたいという考えは妥当なものですが、ちょっと学術的なアプローチに過ぎる面もあります。一番下の年代の子供たちも、チームメイトと連係し敵のやり方に対応してプレーする術を身につけた方がいい。私たちは、子供たちにいろいろな経験をさせることによって、異なる領域を刺激しようと試みています。例えばここでは、同じ子供たちがある週は5人制、ある週は7人制、8人制、11人制の試合をしています。

 トレーニングメニューはすべて、統合的な内容です。つまるところ、サッカー選手の技術向上に終わりはありません。大人になっても、プロになっても続けるべきものです」


── 一番下の年代から戦術を教えるのですか?

GV「まず、何を指して戦術と呼ぶのかを定義する必要があります。最終ラインをそろえて後退するとか、ボールホルダーに寄せるとか、そういう組織的なメカニズムをそう呼ぶのであれば、もちろんそれは私が担当している子供に教えるべき種類のものではありません。しかし『戦術』という言葉を『選択』の同義語として使うのであれば、話は違ってきます。チームメイトとともにピッチに立ち、敵を目の前にしている子供は、ボールに触れるたびに一つの『選択』を行っています。これは私にとっては『戦術』です」

SB 「戦術という言葉をすぐにボール非保持時における戦略と結びつけたがるのは、イタリア的な短絡だと思います。2人の味方とプレスに来ている敵1人を目の前にしているGKは、パスをするかボールを運ぶか、どちらの味方にボールを渡すかを判断しなければなりません。その判断は、敵の背後のスペースを攻略するという、一つの目的の下になされるべきです。試合が5人制であろうと、7人制、8人制、11人制であろうと、選択の機会は常に刺激を作り出します。それは子供が6歳であっても、9歳、13歳、18歳であっても同じことです」


── エクササイズやゲームを通して、子供たちに解決すべき問題を提示する、それによって問題解決の能力を刺激する、という理解でいいでしょうか?

SB 「その通りです。私たちは、子供たちがそれを認知し、その中で何をすべきかを選択しなければならない状況を用意するのです」

GV「ボール保持時の組織的連係は、一連のオートマティズム、パターンの遂行と混同されがちです。しかしこれは子供たちの創造性を刺激し引き出すエクササイズなのです。その中で技術のトレーニングを行えば、それは特定の状況を解決するための道具として機能することになるわけです」


── 多くの人々が、イタリアの育成から高い技術を持った選手が生まれなくなった理由を、子供たちがストリートで遊ばなくなったことと結びつけています。これについてはどうお考えですか?

SB 「ユベントスにおいて、主役は常にゲームとボールであり、すべてのトレーニングはボールを使って行われています。しかしその質は、中庭で1日10時間ずつ遊んだ時のそれには届き得ません。もし、他のクラブで行われているトレーニングにおいて、その焦点がゲームではなく、狭い意味での戦術に合わされているとすれば、技術が伸びないのは必然です。それどころか、ボールを使わずにトレーニングしているのだとしたら、あるいは結果だけが唯一最大の目標になっているとしたら、中庭やストリートで遊ぶ機会がないことは致命的な問題になり得ます。

 我われのトレーニングの中で子供たちが受け取る刺激の幅広さ、豊かさは何にも替えがたいものです。その上でさらに考慮すべき側面がもう一つあります。中庭やストリートでは全員がゲームに参加しますが、ここには最も優秀な子供たちだけが集まっているということです。トレーニングの中で、自分と同じかより上のレベルの子を相手にした1対1に費やす時間は、まったく別の価値を持っています」

GV「一つの言い訳になっているのではないかという印象もあります。中庭やストリートがないせいだ、俺のせいじゃない、というね。今の子供たちに対して、ストリートで遊んでいた子供たちをトレーニングしていた当時と同じ要求をすることはできません。しかし、彼らがここで過ごす時間をできる限り豊かなものにする責任は私にあります。フリオ・ベラスコ(90年代にバレーボールのイタリア代表を世界一にしたアルゼンチン人コーチ)がこう言っていたのと同じです。『アタッカーが自分のミスをセッターのせいにすることは許されない。もしセッターのトスが悪ければ、それに合わせてスパイクを決めるのがアタッカーの仕事だ』。つまり、ここユベントスで私たちは問題の捉え方を逆転させたわけです」

■タレントや成長スピードの見極め方

最も重要なのは、ボールとの親和性の高さ、サッカーというゲームへの理解度の2つです


── その子供がタレントの持ち主かどうかを見分ける最も重要な特徴は?

SB 「テクニック、ファーストタッチの質、選択の速さ、決定的なプレーを試みる責任を担う力。これらは、状況に関係なく、その子供がどれだけ能力を持っているか、自分の能力に自信を持ってプレーしているかを教えてくれます。テクニックに自信がなければ、難しいプレーを試みるリスクは負いませんから。私たちはそれにトライしやすい状況を用意するよう心がけています」

GV「私にとって最も重要なのは、ボールとの親和性の高さ、サッカーというゲームへの理解度の2つです。肉体的な成長が遅い子供が不利にならないよう、常に心がけています。優れたタレントの持ち主であれば、それに見合ったプレー時間を継続的に確保する勇気を持たなければなりません」


── 成長のスピードやプロセスが普通とは異なるケースを見極めることは可能なのでしょうか? 例えばマンチェスター・ユナイテッドのジェシー・リンガードは25歳を迎えた今(17-18)、キャリア最高のシーズンを送っています。育成年代では同世代の中で、ポール・ポグバをも上回る最高のタレントと言われていましたが、その後伸び悩んだ。しかし最近になって、アレックス・ファーガソンが彼の成長は遅いだろうと予言しており、それが彼自身がトップレベルでのプレーを諦めないための励みになったというエピソードが紹介されていました。

SB 「はい。特に16歳以下の選手たちについては、そうした側面に敏感であるよう心がけています。16歳から先は、肉体的な成長の終着点も見えてくるので、違う視点からの考察や評価が必要になります。リンガードのケースについては、イングランドという特定の状況を考慮する必要があるでしょう。イングランドにはセカンドチームがありますから、22〜23歳までクラブ庇護の下で成長のプロセスをたどることが可能です。それを経て24〜25歳でトップチームで戦力として通用する選手になった。ここイタリアの場合、選手はプリマベーラを終える19歳の時点で完成されている必要がある。リンガードのような選手がいたとしても、ブレイクすることはできなかった可能性が高い」


── Bチームというテーマには後であらためて触れたいと思います。その前にまず、テクニカルな観点から見れば傑出したタレントをフィジカル的な限界ゆえに失う可能性はあるのか、という点について聞かせてください。

SB 「すべてはそのクラブがどのような目標を設定するか次第だと思います。今のユベントスは、どの年代でも過去3年間で最も小柄な選手たちが集まったチームになりました。これは我われがテクニックに優先順位を置くという明確なフィロソフィに根ざした選択を行ったゆえです。もちろん、ポジションによっては身長の違いは出てきます。しかし現時点で、育成年代前期(7〜13歳)の平均的な姿は、体格的には小柄でテクニカルなタレントに優れるというものです。これは、体格的な劣勢によって試合に負ける可能性があることも意味します。だが我われにとってそれは問題ではありません。現時点において、ユベントスはテクニカルな選手を育てたいという意思を持っています」

GV「さっきも言ったように、私にはコーチとして、身体的な成長の遅さゆえに選手の才能を伸ばせないという事態を起こさない責任があります。幸運にもユベントスは、様々なミーティングを通して指導者に成長の機会を作ってくれるクラブです。あるミーティングでは、トップチームの選手2人が、同年代の子供と比べて髭が生えていなかったというだけでベンチで過ごさなければならなかったという経験について語ってくれました。2人とも今はユベントスでプレーしている優秀なプレーヤーですが、もし育成年代でもっと多くのプレー時間を得ていたら、さらに素晴らしい選手になっていた可能性もあるとは言えませんか?

 私は技術的なクオリティを高めたいと考えていますが、そのためにはそれに適した状況を用意しなければなりません。守備的なスタイルを持ったチームで、小柄でテクニカルな選手の能力を引き出し伸ばすのは難しいでしょう。私たち自身がまず、ポゼッションに基盤を置いたチームを作り、選手たちに数多くのボールに触れ、フィジカルコンタクトの少ないライン間やハーフスペースでプレーする機会を与えなければならない。私たちは、彼らが16歳以降、生まれついての資質と適切なトレーニングによって発育の遅れを取り戻すまでの間、テクニカルなタレントを伸ばすためにフィジカル的な弱点を隠すような戦い方を選んでいます。小柄な選手が持ち味を発揮してプレーできるような状況を用意することは、監督である私の責任だと考えています」

SB 「私が監督たちに結果を要求することは基本的にありません。通常尋ねるのは、あの選手、私たちが発見して育てようとしているあのタレントは何度ボールに触れたのか、ということです。その選手の成長により適した状況が作れた結果引き分けたのであれば、そうではない状況の中で勝つよりもそちらの方を選びます」


── それに関して、結果へのこだわりは、低い年代の子供たちにとっては有害だという考えについてはどう思っていますか? ほとんどのクラブのオフィシャルサイトやSNSには毎週の結果が掲載されていますが……。

SB 「25年間この仕事をしていますが、負けたいと思ってピッチに向かう子供を見たことは一度もありません。ここユベントスでは心理学者のサポートも受けていますが、彼は『負けることを学ばなければならない』という常套句について、こんな考察をしています。『これを敗北に馴れることだと受け止めるのは間違った解釈だ。そうではなく、敗北から学びを得なければならないと解釈すべきだ。そしてこの2つは教育的な観点から見てまったく異なるアプローチだ』。私は子供たちに負けることではなく勝つことを教えています。とりわけ、敗北が持つ価値を理解すること、敗北は向上のためのまたとない機会であることを教えるのです。

 これは一つのパラダイムシフトであり、ユベントスにおける結果への志向を2つの方向に切り分けるものです。一つは継続的な進歩と向上を、もう一つはクラブが設定した育成上の目標に沿ったやり方を通して勝利を追求することを我われに要求します。というのも、プロジェクトの中心にあるのは常に、一つひとつの才能を伸ばすことだからです。この大前提から外れたやり方で、違う目標を設定した結果として勝利を得たとしても、それは我われにとって最大の敗北でしかありません」


── ということは、育成という目標を優先しながら勝利を目指すのがユベントスのアプローチだと?

GV「クラブの設定した目標に沿って、子供たちの成長にとって最適だと考えられるスタイルをいったん選んだ後は、そのスタイルを守りながらすべての試合で勝つことを目指します」

SB 「私たちはできる限りボールを保持することを目指しています。それはスタイルを守るためではなく、それが私たちの目標を達成するために有効な手段だからです。ピッチ上の結果は、私たちのやり方を正当化するものです。ほとんどの試合で勝っていますから。過去3年で、私たちは10の異なるカテゴリーでおよそ700の大会に参加してきました。その結果を平均すると、ヨーロッパで最も重要なクラブの中で4位から1位の間に位置しています。常に我われが選択したスタイルを守り、その中で勝利を目指して戦った結果としてです」


── このパラダイムシフトを、どのようにして子供たちに伝えているのでしょう?

GV「例えば、ピッチ上の結果を超えたところで自分たちのパフォーマンスを見て評価できるようにするため、試合ごとに3つの目標を与えています。試合が終わってロッカールームに戻ってきた子供たちに、その目標にどれだけ近づくことができたかを尋ね、自己評価させています。

 直近の試合の例を挙げましょう。ボールを失った時に我われはどう振る舞ったか? ピッチの幅を取るという原則に基づいてどんな陣形を取ったか? そして感情的な観点から見て、いつも練習でやってきたことが試合でも同じようにできたか? いずれも、ピッチ上の結果にかかわらず評価することが可能な目標です。勝利は得たけれど子供たちは成長していないということもあり得ます。自己評価を終えた後、子供たちにこう尋ねます。『もし結果が違っていたら、その評価は高くなったか、低くなっていたか?』」

SB 「ここは私たちの仕事の中で最も難しいところです。自分がピッチ上で何をしているのかを子供たちが自覚できるようにする。それがうまくいった時、彼らは自分自身の学習と成長を主役として経験することができます。ピッチ上で自分の感覚にしたがってプレーできるようになる。私たちのこのアプローチはよく機能していると思います。というのも、すべてのカテゴリーにおいて子供たちは同じ価値観を体現しているからです。この事実はコーディネーターという仕事に達成感をもたらしてくれる。しかし本当の結果を知るためには、あと10年待たなければなりません」

17-18シーズンのユベントスU-15

■監督とテクニカルコーディネーターの仕事

ユベントスでは「私」から「我われ」へとすべての主語を置き換えようとしています


── ジョバンニは、どんなトレーニングを行っているのでしょう? 将来プロを目指そうという子供は週何回トレーニングしているのですか?

GV「1回100分のトレーニングを週4回行い、全員を週1回試合でプレーさせるようにしています。人数がかなり多いので、全員に十分な出場時間を確保するため毎週末に2試合を組んでいます。どのカテゴリーもイタリア国内だけでなく国外の大会にも参加する機会があります。外国に行く時にはビッグクラブの施設を使わせてもらいます。例えばもうすぐ行う遠征ではフランスでパリSG、ドイツではボルシアMGの施設を利用します」


── ちょっと意地の悪い質問もさせてください。あなたの監督としての短期的な目標は、上司であるコーディネーターが設定する長期的なそれと噛み合わないこともあり得ますよね。

GV「自分が長期的なプロジェクトの一端を担っており、私の前にこのグループを担当したコーチ、私の後に彼らを引き継ぐコーチと同じ価値観を共有しているという自覚を持っていれば、私の目標は彼らのそれと同じものになるはずです。もちろん私は、子供たちが私とともに過ごす1年の『実り』を最大化することを通して、彼らがここで過ごす10年間のプロセスに寄与したいと考えています。もちろん、ここでいつも話し合っているように、私の仕事のすべての結果がすぐに目に見えるわけではありません。しかし私は、前任者がすでに同じ方向性を持って仕事をしてきたこと、次のコーチが私の仕事をさらに発展させてくれることを知っています」

SB 「ユベントスでは『私』から『我われ』へとすべての主語を置き換えようとしています。育成年代の10年間を通して、それぞれのコーチは自身のやり方で指導しますが、常に同じ価値観、同じ目標を共有しています。育成のプロセスが明確に見えていることは我われの強みです。その中で仕事をするコーチたちは、その流れに沿いながらディテールを突き詰めていかなければならない。これは簡単な仕事ではありません」

GV「育成部門の本部とテクニカルコーディネーターは、私の仕事を、目先の結果に基づいてではなく、複数年にわたる育成プロセスの成果に基づいて評価します。おかげで、同じ目標に基づいて仕事をすることは非常に簡単です。逆にもしコーチが目先の結果によって評価されているという感覚を持っていたとしたら、両者の目的が一致することは難しくなる。

 一つ例を挙げましょう。私が指導しているある選手が、彼のポジションで大きな潜在能力を持っていたとします。しかしそのポジションで最終的に必要とされる知識と経験を最大限に与えるという目的の下、今とは違うポジションを一定期間経験し、従来とは別のゾーンでプレーすることを通じて、ピッチ上から異なるタイプの情報を得る術を身につけるべきだと私が考えたとしましょう。ポジションを変えれば、目先のパフォーマンスが落ちることは避けられません。しかし将来持てる能力をより発揮するためのより堅固な土台を手に入れることができるはずです。もし目先の結果だけで判断されるとしたら、私がそうしたリスクを取る動機は何もなくなります」


── 監督としてどれだけの権限を持っていますか? 具体的な例を挙げて教えてください。

GV「その試合や大会に招集する選手を選ぶ基準は本部から与えられます。その時どきに応じて、技術的により優れている選手を選ぶか、それともプレー時間が足りない選手に出場機会を与えるかが判断されます。私の権限は、毎週のトレーニングのプログラムにあります。その週に取り組むべきプレー原則を選び、それをチームに浸透させるためのトレーニングメニューを構築します。各年代を横断するコーディネーターの存在は、トップダウンのプロセスだけでなくボトムアップのプロセスにとってもポジティブな効果をもたらしています。例えば私が、あるタイプのポゼッションを教える新しいエクササイズを思いついたとしましょう。私はコーディネーターにそれを提案します。そして一緒にクラブに話をしてビデオ分析チームを派遣してもらい、トレーニングを撮影・分析してその効果を確かめることができます」

SB 「テクニカルコーディネーターとして、もしそのエクササイズが効果的だと判断すれば、他のコーチにも提案します。彼らはもし使えると思えばトレーニングの中に取り入れることができます。ジョバンニがU-13を対象にして考案したエクササイズだとしても、例えばスペースを小さくしたり敵の数を減らすことでより低い年代にも適応させられるかもしれません。そのエクササイズの狙いと効果はそれでも保たれますから」


── どのくらいの頻度で目標達成度の測定を行っていますか? そのための分析ツールを使っていますか?

SB 「効果測定のためのチェックシートがあり、コーチたちはシーズンに3回、それに記入します。我われが設定した理想的なモデルに基づいて、一連の評価項目が設定されています。我われが基準にしているのは、それぞれのポジションを代表する偉大なプレーヤーたちです。チェックシートには、技術、戦術理解に加えて、ピッチ上での振る舞いや性格についての評価項目も入っています。一人ひとりの選手は、メインのポジションでのプレーに加えて、少なくとももう一つ別のポジションでのプレーも評価されます。このチェックシートは監督から監督へと引き継がれていきます。したがって、その時どきの評価だけでなく成長のプロセス全体に対する評価も行われているわけです。チェックシートは、全選手のデータが収められたデータベースにまとめられています」


── 育成の全プロセスの中で、何度かセレクションの機会が設けてあることと思います。それを通過して最後までたどり着く確率はどのくらいあるのでしょうか。

SB 「育成年代前期(7〜13歳)のプロセスを通じて3段階のセレクションがあります。ユベントスに入った子供は、3年から7年、ここにとどまる可能性を持っています。育成年代前期の目的は、できる限り多くの選手を後期に送り込むことです。現在、U-15(昨シーズンはスクデットを獲りました)とU-16には、前期から持ち上がった選手がそれぞれ15、16人ずついます。そのうち7、8人はレギュラーとしてコンスタントに出場しています。彼らのうち何人が次のステップであるU-17に上がれるかは、まだわかりません。クラブが設定している目標は、育成年代のトップカテゴリーであるプリマベーラ(U-19)に繋がる2つの年代(U-17、U-18)で、11人中7、8人、チーム全体の中で12、13人が、前期からの持ち上がりによって構成されるようになることです。我われの仕事がそれを満たせるかどうか、最初の成果を知るまでにまだ2年かかります」

16-17のU-15セリエAで優勝したユベントス


── 学校教育についてはどのような立場を取っていますか?

SB 「我われが今いるこの場所(ビノーボのユベントス・トレーニングセンター)は、一つの学校教育機関でしたが、ここにあった高校ユベントス・カレッジは、ユベントス・スタジアムに隣接してできた『J Village』に移りました。我われにとって学校教育は大きな価値を持っていますが、ユベントスの関心はその枠内にはとどまっていません。育成部門の活動には『フォルマツィオーネ・ユベントス』という教育プログラムが組み込まれており、子供たちに継続的な向上の大切さを教え、他人とともにいる能力、感情コントロール能力を高めるために、専門家による講座も定期的に行われています。

 それに加えて、3年前からは親に対しても夜の時間帯に講習を行い、ビッグクラブの育成部門でプレーする子供の親であるというのは何を意味するのかについて、学習の機会を提供しています。簡単なことのように見えますが、決してそんなことはありません」


── 育成部門の外国人たちは、どんな生活をしているのでしょう? そのための施設があるのですか?

SB 「外国人選手を受け入れるのは育成年代後期、14歳以上のカテゴリーからです。彼らのために必要なソフト、ハードはすべて整っています。ユベントス・カレッジに隣接して寮があり、イタリア語の教育も行っています。トップチームの外国人選手に対してとまったく同じレベルのサポートが行われています」

■イタリアの課題

プロとして完成されるのは19〜22歳…それが19歳で完成していることを要求されています


── プリマベーラとトップチームの間に存在する大きな段差についてどう考えていますか?

GV「現時点での段差は巨大なものです。育成年代では段階的に何年もかけて選手を育てているわけですが、トップチームではすぐに結果が求められ、それによって厳しく評価されるのですから」

SB 「問題は、その選手がいつトップチームでプレーする準備ができるのかを見極めることです。いくつかの調査研究によれば、プロ選手として成熟するためには100試合出場が一つのボーダーラインになるとされています。1年に25〜30試合プレーするとして4年かかる数字です。もしそうだとすれば、トップチームに上がった選手がプロとして完成されるのは19〜22歳の間だと考えなければなりません。今のイタリアでは、19歳の選手にすでに完成されていることが要求されてしまいます」


── だとすれば、Bチームを作ってもプリマベーラを廃止することはない?

SB 「もちろんです。今のピラミッドの頂点にBチームを置くのがベストです。多くの国でU-18の上にBチームがあるように、イタリアでもプリマベーラの年齢をU-18に下げて、その上にBチームを置くのがいいと思います。具体的な例を挙げれば、今シーズン(17-18)はプリマベーラの全選手を2000年生まれ(U-18)で構成します。このチームの中で、今後も手元に置いて育てていくべきだと考える4、5人の選手は、次のシーズンからBチームに上がることになるでしょう。他の選手たちは国内外の下部リーグに出て行くことになる。そして次のシーズンはプリマベーラを2001年生まれだけで構成します。

今のところ、プリマベーラを終えた選手たちは、彼らの成長にとって最も適切と考えられるカテゴリー、例えばセリエBにレンタルされて出場機会を争っています。しかしこれだと、彼らにメソッド的に継続性のある育成プロセスを保証することができません。もしBチームがあれば、少なくともあと2年間、それを提供し続けることができます」 (編注:イタリアでは18-19シーズンからBチームのセリエCへの登録が可能となり、ユベントスは創設したU-23のBチームを参加させている)

18-19のプリマベーラに所属している18歳のニコロ・ファジョリ(左)とハンス・ニコルッシ・カビリア。カビリアは3月8日のウディネーゼ戦でトップチームデビューを果たしている

GV「Bチームの不在はイタリアサッカーの諸悪の根源というわけではありません。しかし状況を大きく改善するであろうことは間違いないと思います。ヨーロッパのほとんどの国がその方向に向かっていますからね。若い選手にとって、フィジカル的に上回るというだけでなく、異なる経験を積んできた相手と戦うのは、またとない成長の機会です。トップチームと同じ場所でトレーニングする機会を保てるというのもそうです。もしかしたらトップチームにデビューするチャンスが訪れるかもしれない。これは外にレンタルに出ていれば起こり得ないことです。

 それ以上に重要なのは、成長に必要な刺激もまったく違うということです。例えば、セリエBで残留を目標にするチームにレンタルされたとします。そういう目標を持つチームでDFを務めるというのは、自分のペナルティエリアを守ることだけを考えてプレーするということであり、これは90分の大半を敵陣に進出して過ごすチームでプレーするのとはまったく違うことです」

SB 「プリマベーラに降格制を導入したレギュレーション変更は、競争をより促進することが目的だったにもかかわらず、まったく正反対の結果をもたらそうとしています。参戦しているクラブは1部で戦っているというプレステージを失いたくないがために、結果に焦点を当てて戦おうとします。その結果、選手たちから成長の機会を奪っている。もし残留争いが厳しくなれば、クラブは一番若い世代を起用しないよう圧力をかけるかもしれない。残留のために戦うのはタイトルのために戦うのとはまったく違います。エスパニョール(スペイン)のテクニカルコーディネーターは、彼らのBチームは降格したけれど、そこから6人がトップチームに上がったという話を聞かせてくれました。エスパニョールBはピッチ上では残念な結果しか残せなかったけれど、育成という観点に立てば目標をしっかり達成したわけです」


── ユベントスにおいてもエスパニョールと同じような目標を設定することになるのでしょうか? トップチームが「カンテラーノ」たちで構成されることを目指すような?

SB 「それはあり得ません。私たちの仕事の成果は、5大リーグでプレーする選手をどれだけ輩出できるかで評価されることになるでしょう。ユベントスでレギュラーとしてプレーする選手のレベルは、少なくとも現時点では、育成部門の選手たちに到達することを要求するにはあまりに高過ぎます。もちろん一つの刺激としては機能するでしょうが……。ユベントスほどのレベルにないクラブが、トップチームにできる限り多くの選手を送り込むことを目標とするのは、スポーツ的な観点からだけではなく経済的な観点から見ても正しい選択だと思います」


── 最後の質問です。ヨーロッパの国々に遠征する中で、イタリアでは軽視されているけれど一つのモデルとなり得るような、あるいはあなたたちから見て有効だと思われるような取り組みを見ることはありましたか?

GV「私は、外国に輸出できるようなイタリア流のモデルというものはあるかと自問します。バルセロナはスペインのすべてを代表しているわけではないし、アヤックスがオランダのすべてではない。にもかかわらず、それぞれの国のサッカーはバルセロナやアヤックスが進めている取り組みと明らかな連関を持っています。ではイタリアにはそれがあるか?

 遠征の機会に他国の監督たちと話をすると、彼らはそれぞれ非常に違うことを言っていることに気づきます。しかし誰もが自分たちのやり方に自信を持っており、その結果を目にするために何年も腰を据えて待つ覚悟がある。明確に確立された一つの道を確信を持って歩んでおり、それをとことん突き詰めようとしている。それと比べるとイタリアはあまりにせっかちだと思います」

SB 「外国には、イタリアにはない計画性があるように見えます。今、2026年のW杯に誰を連れて行くかというビジョンが描けますか? そう訊くのは、他の国ではそのくらいのタイムスケールで仕事をしているように見えるからです。イタリアの育成は、それと比べると、仕事のやり方も評価の基準も、より目先の結果にフォーカスされているように見えます。コーディネーター、コーチを統括するコーチという仕事は非常に重要であり、ヨーロッパではどこでも一般的なものです。それを通してクラブは育成年代のすべてのチームを、何年にもわたって同じコンセプトの下で一貫して運営することができる。ヨーロッパではコレクティブなやり方で仕事を進めようとします。それに対してイタリアは、文化的な問題や組織的な問題から、個々の監督の裁量に委ねられている部分が非常に大きい。

 コベルチャーノ(イタリアサッカー連盟=FIGCのテクニカルセンター)がテクニカルコーディネーターの養成講座を設置していないという事実は、この仕事がイタリアでどう捉えられているかを物語るものです。アリーゴ・サッキがクラブ・イタリア(FIGCの代表部門)に招へいされた時に最初にやったのが、育成年代代表のコーディネーターに就任することでした。サッキはレアル・マドリーとアトレティコ・マドリーというスペインの2つのチームで仕事をした経験があります。その経験から学んだ結果でしょう。

 私の仕事はとても刺激的なものです。クラブが設定した目標に沿って、私は育成部門のすべてのセクションを結びつけ、トレーニングから戦術まで、同じ価値観に基づき、同じ一つの目標に向けて同じやり方で仕事を進めるようにオーガナイズします。この一貫性はイタリアのシステムにはありません。しかしここユベントスにはあるのです」

現在トップチームに所属する生え抜き選手の中で期待の星がFWモイゼ・ケーン。8日のウディネーゼ戦で2ゴールを挙げた19歳は、昨年A代表デビューも経験済みの逸材だ

Photos: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

ウルティモ・ウオモユベントス育成

Profile

ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

関連記事

RANKING

TAG

関連記事