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ザニオーロ、ケーンだけじゃない。 出直しイタリア代表の新世代たち

2019.03.21

60年ぶりにW杯を逃した2018年……。5月に就任したマンチーニ新監督は、若手を大胆に抜擢することで一気に世代交代を進めた新チームを、次回のEUROとW杯に向けてじっくり育てていこうという方向性をはっきり打ち出している。その背景、そして新たなイタリア代表で特に期待したいU-21のタレントを、WEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』のサルターリ記者が解説した本誌第63号の記事を特別掲載。

 イタリアにおいて、衰退に抵抗して大きな変化を起こそうとするのは、本当に破滅的な状況に陥った時に限られる。残念ながら政治については誰も本気で興味を示そうとしないので、そういうことが起こるためには、サッカーのイタリア代表がロシアW杯予選のプレーオフでスウェーデンに敗れ、60年ぶりに出場権を失うという悲惨な目に遭わなければならなかった。

 しかし実際には、決して青天の霹靂(へきれき)というわけではなかった。プレーオフ敗退は、2006年のドイツW杯優勝を頂点として始まった10年にわたる衰退がもたらした当然の結末だったからだ。その間イタリアは何度も、強い劣等感に苛まれるような経験を積み重ねてきた。2010年と14年のW杯におけるグループステージ敗退だけではない。EURO2012決勝でスペインに喫した0-4の完敗、EURO2016準々決勝におけるドイツとのPK負けもそうだ。

 イタリア代表はこの10年間、90年代後半に次々とデビューしW杯優勝という結果をもたらした黄金世代が衰え、ピッチを去っていくのを、後継者を輩出することができないままただ見守ってきた。その観点から見れば、ロシアW杯への切符を失った後、ジャンルイジ・ブッフォン、ダニエレ・デ・ロッシ、アンドレア・バルザーリという3人が同時に決断した代表引退は、黄金世代の決定的な終焉、そしてそれによるイタリアサッカー凋落のどん底を象徴する出来事だったと言える。

 ロシアW杯後の世界を前にして、イタリアはほとんどゼロから自らを再構築すべき状況に置かれている。それを委ねられたのはロベルト・マンチーニだ。「ほとんど」と言うのは、過去10年の瓦礫の中からも何人かが生き残ったからだ。ユベントスの最終ラインを支えるレオナルド・ボヌッチとジョルジョ・キエッリーニのペア、そしてアズーリの新世代を担うことを期待され続けてきた、90年代前半生まれのチーロ・インモービレ、ロレンツォ・インシーニェ、マルコ・ベラッティ、アレッサンドロ・フロレンツィがそうだ。マンチーニは彼ら、さらにフェデリコ・キエーザ、フェデリコ・ベルナルデスキ、ニコロ・バレッラといった90年代後半生まれの主力候補を中心にチームを構築しつつ、A代表招集経験のない中堅、若手(アレッシオ・クラーニョ、マヌエル・ラッザリ、ニコロ・ザニオーロ、ピエトロ・ペッレグリ)も積極的に招集することで、新チームの底辺を可能な限り拡げようとしている。

 幸運なことに、アズーリの未来を担うべきタレントの層は、年齢層が下がるにつれて厚くなってきている。マンチーニはEURO2020、そしてカタール2022を見据えて、質・量ともにより充実したチームを組織できるようになっていくだろう。もちろん、若手の成長というのはデリケートで不確かなものだ。

 しかし、以下で紹介する、現在頭角を現しつつある若きタレントの何人かが、向こう4年間のアズーリに無視できない貢献を果たすことに期待するのは、決して無茶なことではない。それだけは確かだ。

Patrick Cutrone
パトリック・クトローネ

19年に入ってからはコッパ・イタリアでの2ゴールのみとやや苦しんでいるが、雌伏をさらなる飛躍に繋げられるか

FW63|ミラン
1998.1.3(21歳)183cm/79kg

 セリエAにデビューしてからまだ1年半も経っていないが、すでにミランでは重要な位置を勝ち取っている。昨季前半、当時の監督モンテッラによってトップチームに抜擢され、二コラ・カリニッチ、アンドレ・シルバを差し置いてレギュラーの座に居座ったこの若者は、その後もゴールを決め続け、シーズン通算で18得点6アシストという数字を記録した。ゴンサロ・イグアイン(編注:19年1月にチェルシーへ移籍)という大物がやってきたことで、すっかりその陰に隠れるかと思われた今季も、そのゴールセンスにはますます磨きがかかっている。昨年10月末時点での公式戦5得点、1ゴールあたりの出場時間数(47分)は4大リーグ内でもパコ・アルカセル(ドルトムント)に次いで2位だった。

 「ゴールセンス」という言葉を使わずにクトローネを描写することは不可能に近い。ごく限られた真のストライカーだけが持つ、他人とは違った見え方でゴールを捉える特殊能力だ。彼はそれ以外のいかなる点においても際立ってはいない。シュート力があるわけでも、狭いスペースでの高いテクニックを持っているわけでもない。爆発的なスピードも、優れたドリブル突破力も備えていない。空中戦で強さを発揮するジャンプ力やフィジカルコンタクトの強さもない。にもかかわらず、クトローネはゴールネットを揺らす。単なる執着心だけでゴールを決めているかのようにすら見えるほどだ。あなたが代表監督なら、彼のような選手を呼びたいとは思わないだろうか。

Nicolò Zaniolo
ニコロ・ザニオーロ

2月のCLポルト戦第1レグでの2ゴールを筆頭に鮮烈なパフォーマンスを残し、この3月のA代表メンバーに選出。前回は負傷で叶わなかったアズーリデビューの時が近づいている

MF22|ローマ
1999.7.2(19歳)190cm/79kg

 昨夏ナインゴランのインテル移籍に絡んでローマに移るまで、彼の名前を耳にしたことがある者はそう多くはなかった。ニコロ・ザニオーロの名前はそれまで、インテルのプリマベーラ(U-19)とセリエBの数試合でプレーした興味深い若手の一人、以上を意味してはいなかったからだ。しかし夏を境に、彼の周囲だけで時間が突然加速したかのように、あらゆることが起こり始めている。7月のU-19欧州選手権(決勝でポルトガルに4-3で敗れて準優勝)で主役を演じたかと思えば、サンティアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦でCLの舞台にデビュー、そしてセリエAにデビューすらしていないにもかかわらずのA代表招集。さすがにこれは彼自身も期待すらしておらず、テレビのニュースを通じて初めて招集を知ったほどだった。

 ザニオーロはモダンなトップ下だ。身長190cmと大柄でフィジカルが強く、ボールを持ってもオフ・ザ・ボールでも縦方向にプレーする志向が非常に強い。ボールタッチの精度をはじめ、とりわけ技術面でまだまだ大きな伸びしろを残しているが、周囲と連係してゴールに向かうような場面ではすでにその非凡な才能を世に示している。アズーリで主役を張るようになるまでの道程はまだ長いだろうが、もしマンチーニがジョルジーニョベラッティを中心とする現在の中盤と比べて、よりフィジカルで縦志向の強い中盤による[4-2-3-1]を使おうとするならば、そう遠くない未来に代表に場所を見出す可能性があるかもしれない。

Rolando Mandragora
ロランド・マンドラゴラ

15年に18歳で飛び級デビューしたU-21代表での出場数はすでに21に達し、昨年6月にはA代表デビューも経験。次代のゲームメイカー候補だ

MF38|ウディネーゼ
1997.6.29(21歳)183cm/75kg

 強靭なフィジカルと優れたボールコントロールを両立させたもう一人のMFがマンドラゴラだ。3年前にはジェノアのプリマベーラでプレーしていたが、この2シーズンはセリエAの舞台でレギュラーとして実績を積み重ねている。クロトーネで充実したシーズンを過ごした後の今夏、保有権を持っていたユベントスからウディネーゼに完全移籍したが、ユベントスは買い戻しオプションをしっかり握っている。

 スペイン人監督フリオ・ベラスケス(編注:18年11月に解任、ダビデ・ニコラを経て3月20日にクロアチア人のイゴール・トゥドルが就任)の下、マンドラゴラは[4-3-3]のインサイドMF、または[4-2-3-1]のセントラルMFとしてプレーしている。しかし戦術的に整理されていないチームの中で、持てる特徴を生かし切れていないという印象も与える。彼が持ち味を発揮するのは、コンパクトな陣形を敵陣まで押し上げてボールを支配し、ボールロスト時には後退せず前に出て守るようなチームにおいて。だが現在のウディネーゼは、そこまでチームが戦術的に組織されていない。代表に定着するためには、現時点では強引さが目立つプレー選択において、より冷静かつ的確な判断ができるようになることが必要だ。そのためには、彼の才能と特徴を理解し生かせる手腕を持った監督と出会わなければならないだろう。しかしそれまでの間も、セリエAの舞台で積み重ねる経験が大きな糧となることは間違いない。

Luca Pellegrini
ルカ・ペッレグリーニ

今季トップチームデビューしたばかりとあって、経験を積むべく1月にカリアリへ。これからの成長に期待の“原石”だ

DF3|ローマ→カリアリ
1999.3.7(20歳)178cm/72kg

 左SBは、イタリア代表が今最も新しい才能を必要としているポジションだ。今季ここまでのところ、マンチーニは左足のクロスを武器とするフィオレンティーナのクリスティアーノ・ビラーギに信頼を与えているが(彼もそれに応えてUEFAネーションズリーグのポーランド戦で決勝ゴールを記録した)、このポジションにはより質の高いプレーヤーが必要だという印象は否めない。大きな期待を集めるエメルソン・パルミエーリがチェルシーで出場機会を得られずにいる現状からすると、ルカ・ペッレグリーニが先にアズーリでレギュラーの座を手に入れるというのも、まったくあり得ない話ではない。育成年代で十字靱帯断裂、膝蓋損傷という2度の大きなケガに見舞われたにもかかわらず、ローマはこのタレントに賭けようという強い意思を示し続けている。

 ペッレグリーニは非常に攻撃的な色彩が強いSBだ。爆発的なパワーを秘めた両脚に狭いスペースを突破する繊細なテクニックをも備えており、そのドリブルでの持ち上がりは極めて強力だ。18年9月26日、フロジノーネ相手のデビュー戦で決めたセリエA初アシストも、まさにそうした持ち上がりから生まれたものだった。今後大きな成長の余地が残っているのは守備の局面。フィジカルコンタクトにおける体の使い方、そして待つか当たるかの判断とそのタイミングには改善が必要だ。しかしその際立ったタレントは、すでにマンチーニの目にも間違いなく留まっているはず。代表デビューもそう遠いことではないだろう。

Moise Kean
モイゼ・ケーン

強力なスカッド擁するユベントスにあってチャンスが限られる中、1月のコッパ・イタリアと3月のリーグ戦で計3ゴールをマーク。デビューを果たした昨年11月に続き招集されたA代表での活躍にも注目が集まる

FW18|ユベントス
2000.2.28(19歳)182cm/72kg

 10代半ばから特別なタレントとして注目を浴び、すでに16歳でトップチームデビューを飾った逸材。プリマベーラ(U-19)のカテゴリーですら彼の能力には物足りなくなり、16-17シーズンにセリエAとCLの舞台に立った。昨季はセリエAのエラス・ベローナにレンタルされたものの、環境に十分適応できず4ゴール止まり。今季はユベントスに戻ったが、出場機会をなかなか得られずにいる。

 しかしそれでも、ケーンがイタリア代表の攻撃にとって最も大きな希望の星であることに変わりはない。ジュゼッペ・ロッシとマリオ・バロテッリが期待に応えられないまま消え、インモービレやアンドレア・ベロッティが伸び悩んでいる現在の状況を見ればなおさらだ。ファーストタッチにおけるボールコントロールをはじめ、技術面では改善と向上の余地を多分に残している。だがどんな快速DFも追いつくのに苦労する運ぶドリブルの爆発的なスピード、そして周囲と連係して局面を打開するセンスは、今後の大きな成長を確信させるものだ。彼のプレーを見てそれを期待しないことは難しい。とりわけ7月のU-19欧州選手権、ポルトガルとの決勝で勝負を延長戦に持ち込んだ2得点を見た後では。それが来年に控えるEURO2020の“前菜”になる可能性も小さくはない。そう思いたくなるだけのビッグタレントである。

Photos: Getty Images
Translation: Michio Katano

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ダリオ サルターリ(l'Ultimo Uomo)

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