EURO2016、ロシアW杯で連続予選敗退、どん底を味わったオランダ代表だが、昨年スタートしたUEFAネーションズリーグ(UNL)でGSを突破。長い雌伏の先に、ようやく光明を見出した。中心を担ったのは若い世代だ。ただ、昨年11月の招集メンバーの中にただ一人、30代の男がいた。ライアン・バベルである。この冬の移籍市場でフルアムに加入。2011年以来8年ぶりにプレミアリーグの舞台に帰って来た32歳のFW、復活の道程。
※月刊フットボリスタ2019年1月号掲載
新たな攻撃スタイルを見出したオランダ代表は、フランス、ドイツを見事に出し抜きUNLのGSを首位で突破。6月のファイナル4進出を決めた。とりわけ、フランスを2-0で破った昨年11月16日の試合は、センセーショナルという表現が似合うほどオランダが攻守に凌駕したパーフェクトゲームだった。
3トップ(メンフィス・デパイ、ライアン・バベル、ステフェン・ベルフワインorクインシー・プロメス)の頻繁なポジションチェンジと機動力、MFジョルジニオ・ワイナルドゥムのエネルギッシュなフリーランに、右SBデンゼル・ドゥムフリースの迷いなき縦への推進力――今のオランダは躍動感にあふれている。ボールを失った直後のプレッシングは、まるで巨大な壁が次から次へとボールホルダーに襲いかかっていくようで、現場で見ていてもその迫力に圧倒されてしまう。
CBマタイス・デ・リフトはまだ19歳。MFフレンキー・デ・ヨンクとFWベルフワインが21歳で右SBドゥムフリースは22歳。オランダは、ようやく世代交代に成功したのだ。
「もう選ばれることは…」からの再起
昨年2月に就任したロナルド・クーマンは、若手抜擢と同時にデパイ、ワイナルドゥムといった中堅選手の再生にも成功。若返りばかりが注目される現在のオランダだが、クーマン監督はベテラン選手の再評価にも力を注いでいる。同5月の試合で30歳にして初出場を果たしたMFルート・フォルマーはその最たる例だろう。
そして、中でも異色なのがバベルではないだろうか。17歳でアヤックスのトップチームでデビューし、パワフルなミドルシュートで周囲の度肝を抜いたストライカーは2005年、時の指揮官ファン・バステンによって代表に選ばれ、初陣となったルーマニア戦で見事ゴールを決めている。その後、順調にリバプールへとステップアップし代表にもコンスタントに選ばれていたが、11年11月の親善試合ドイツ戦を最後に代表から遠ざかった。
ホッフェンハイム(ドイツ)、アヤックス、カスンパシャスポル(トルコ)を経て15年にアルアイン(UAE)に活躍の場を移した時には、本人も「もう代表に選ばれることはないだろうと思った」という。
しかし、トルコの名門ベシクタシュでのリーグ優勝とELベスト8に貢献する活躍が、フェネルバフチェを率いていたディック・アドフォカートの目に留まった。後にオランダの暫定監督を務めることとなったアドフォカートは、一昨年10月のW杯予選ベラルーシ戦でバベルを招集し先発に抜擢。バベルにとっては実に6年ぶりの代表復帰だった。
後を継いだクーマン監督も引き続きバベルを招集し、左ウイングの貴重な戦力として重宝している。
昨年9月の親善試合ペルー戦で、バベルは代表50試合出場を記録した。この試合はウェズリー・スナイダーの引退試合でもあった。新旧交代著しいオランダだが、バベルのリバイバルもまた、新生オランダのシンボルである。
Photos : Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。