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トルガン・アザール、開花の予感。偉大な兄のライバルになれるか?

2018.11.28

長らく消えなかった「アザールの弟」という呼称

 アザールへの称賛が止まらない。エデンの話ではない。チェルシーに所属するスーパースターの実弟、トルガンがブンデスリーガでMVP級の働きを披露しているのだ。

 加入5年目のボルシア・メンヘングラッドバッハで攻撃の牽引車となり、ここまでリーグ戦で8ゴール(うち3点はPK)、5アシストを記録。スポーツディレクターのマックス・エバールいわく「フィニッシュの局面での判断が良くなり、クリアーにプレーできている」25歳には、ドルトムントやローマ、アトレティコ・マドリー、さらにはチェルシー移籍の噂が浮上している。

 超早熟のエデンに対し、トルガンは大器晩成型と言えるかもしれない。もともとのポテンシャルは折り紙付きで、13歳の時にエデンが当時所属していたリールから入団の誘いを受ける。しかし、兄と比較されやすい環境を嫌った両親の勧めもあり、リールと同じフランス北部にホームタウンを構えるランスのユースに入団。ここで着実に力を伸ばしたトルガンは、ラファエル・バラン(現レアル・マドリー)やジョフレイ・コンドグビア(現バレンシア)とともに、2008‐09シーズンのフランスU-16選手権制覇に貢献した。

 当時リーグ・ドゥ(2部)のランスでプロデビューしたのは11-12シーズン。そして12年夏、エデンとまったく同じタイミングでチェルシー移籍を果たす。しかし、兄との共演は実現しなかった。即戦力として招かれたエデンに対し、トルガンは未来への投資の意味合いで引き抜かれたに過ぎず、すぐさまズルテ・ワレヘムへと武者修行に送り出される。

 いわゆる逆輸入選手として母国ベルギーリーグ参戦が決まったトルガンは、その新天地で順調に成長。レンタル2年目の13-14シーズンには優勝プレーオフを含むリーグ戦39試合で14ゴール17アシストを決め、見事にベルギー最優秀選手賞を初受賞した。同賞の歴代受賞者に目を向ければ、バンサン・コンパニ(04‐05)やイバン・ペリシッチ(10-11)、カルロス・バッカ(12-13)ら後に4大リーグで異彩を放つ名手を確認できる。

 ただ、プレミアリーグで圧倒的な輝きを放つエデンと比べれば、一歩も二歩も後れを取っていた。母国でどれだけ好成績を収めても、チェルシーから呼び戻しの声がかかることはなく、14年夏にボルシアMGへと再びレンタルされる。その際のレンタルフィーはわずか150万ユーロ。兄の領域に近づくどころか差は開くばかりで、「アザールの弟」という枕詞が消えることはなかった。

代表での出場数は兄エデン(中央)の98試合に対しトルガン(左)は19試合と大きく水をあけられている。ただ、11月のネーションズリーグ2試合ではともに先発しスイス戦で2ゴールをマーク。クラブでの好調そのままに、タレント軍団ベルギーでも結果でアピールしている


「弟」から「ライバル」へ

 トルガン自身の名を知らしめるには、自身初挑戦の4大リーグでインパクトを放つほかなかった。だが、ボルシアMGでの最初の3シーズンは準レギュラーの域を抜け出せなかった。パトリック・ヘアマンやイブライマ・トラオレ、ファビアン・ジョンソンら現在もチームメイトであるライバルたちと出番を分け合うばかりで、ラース・シュティンドルとラファエウという2大エースから主役の座を奪えなかったのだ。

 転機は、昨シーズン訪れた。5つのPKを含むとはいえ、ブンデスリーガでチームトップとなる10ゴールをマーク。全試合出場も果たし、一気に主力中の主力に上り詰めた。キャプテンのシュティンドルが14試合連続ノーゴールと大スランプに陥る中、攻撃陣を支え続けたトルガンの覚醒は、昨シーズンのチームにおける最大の収穫だった。

 18-19シーズンのトルガンは、その昨季を上回る活躍を見せている。準レギュラーから中心選手に上り詰めた理由は何か。冒頭に記したエバールSDの称賛(ゴール前のクオリティ向上)以外の要素を挙げれば、オフ・ザ・ボールの動きの質向上だろう。

 左右のウイングを主戦場とするトルガンは、以前からボール保持時のパフォーマンスに問題はなかった。足に吸い付くようなドリブル、右足から繰り出すクロスやミドルは目を見張るものがあった。

 ただ、消える時間も少なくなく、シュティンドルやラファエウほど圧倒的な存在感を放つには至っていなかった。しかし、ここ1、2年ほどで課題を克服。よく見られるのはサイドに張りつかずに、CBとSBの間に入り込み、相手DFライン裏にボールを引き出そうとする動きだ。いわゆるハーフスペースに狙いを定め、絶妙なタイミングでサイドから内側に絞ってはパスを呼び込んでいる。

 その動き出しからゴールを奪ったのが、第10節デュッセルドルフ戦の2点目(チーム3点目)だ。相手CBと左SBの間にポジショニング、すぐ近くにいたプレアの落としのパスを受けるとそのまま猛然とドリブルを仕掛け、豪快に右足を振り抜いてネットを揺らしてみせたのだ。タッチライン際に張りつかず、よりゴールに近いエリアでプレーしようとする意識を感じさせる得点だった。

 今のペースでネットを揺らし続ければ、年間20ゴールに到達する計算だ。それを実現した暁には、チェルシーをはじめとするトップクラブへの扉も開けるだろう。10月下旬、トルガンは放送局『Sport1』の中でで「(兄は)僕よりずっとビッグなプレーヤーだ。同じクラブでプレーするのは難しいよ。それにベルギー代表で一緒にやれていて幸せなんだ」と謙虚に語っていたが、はるか遠くにあった兄の背中が視野に入ってきたはずだ。だからこそ、「僕たちは仲の良い兄弟だけど、ナショナルチームではライバルさ」とも口にしている。

 アザールの弟から、アザールを脅かすライバルへ――。進化を続けるトルガンから目が離せない。


Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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Profile

遠藤 孝輔

1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。

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